多様性への議論を巻きおこしたイマネ・ヘリフの勝利。女子ボクシング66kg級決勝戦
2024年8月10日、パリオリンピックのボクシング女子66kg級決勝戦がローランギャロスで行われた。アルジェリアのイマネ・ヘリフと中国の楊柳(YANG Liu)による注目度の高い一戦が終わった。試合は5-0の判定でヘリフが勝利し、金メダルを獲得した。
決勝戦では、ヘリフの強靭なフィジカルと冷静さで、試合の前半から積極的に攻め、楊に自身のペースをつかむ余地を与えなかった。ヘリフのパンチが次々とヒットし勝利に繋がった。
試合後、ヘリフは「この金メダルは、私を支えてくれたすべての人々に捧げます」と感謝の意を表明した。楊は「ヘリフ選手の実力を認めざるを得ない」とコメントし勝利を称えた。
筆者の見当違い「そもそも階級は問題なし!」
IBA(国際ボクシング協会)の性別検査に合格しなかったヘリフがパリ・オリンピックでは出場が認められ、勝ち進んだことで「性別不詳」「男性なのでは」など差別的な要素を含む議論が起き、まさに「多様性を尊重するとはどういうことか?」というテーマをパリオリンピックから世界に投げかけることとなった。
筆者は前の記事でパラリンピックの「クラス分け」「多様性の尊重」と通じると捉えたが、そもそもヘリフは重量別階級を問われているわけではない。「女子66kg級」であり、そこには問題がない。
IBAの世界選手権の性別で「女性」に適合しなかったといっても、トランスジェンダーとかではない。もしそこに「女性なのか?」という報道があったとすればそれは「誤報」であったという他ない。彼女自身「私は生まれも育ちも女性」と明確に主張しており、そこに疑念などないのだと理解、整理した。
難しいのは「多様なあり様を認め、公平なルールの元で競争する」という理想に人の意識が追いついていないことだと思う。
IOCは、スポーツの公平性を確保するために、厳格な医療規程を設けており、その規程に基づいてヘリフが出場資格を得ていると認めている。バッハ会長は「スポーツ界は多様な背景を持つ選手たちの権利を尊重し、彼らが公平に競技できる環境を整えなければならない」と訴えている。筆者もそう思う。
イマネ・ヘリフの道のり
イマネ・ヘリフは、アルジェリアの小さな村(ティアトレ)出身で、幼少期から貧しい環境の中で育った。ボクシングを始めたのは、2016年のリオオリンピックで観戦したことがきっかけだった。村からボクシングジムまでバスで10キロも通わなければならなかったが、トレーニング初日にボクシングの虜になった。バス代を払うために、彼女はリサイクル用の金属くずを売り、母はクスクスを売っていたという。
東京オリンピックに初出場し、アルジェリアの最優秀選手に選ばれたヘリフは、2024年1月から2年間の任期でアルジェリアのユニセフ大使に任命された。「私は何も持たずにスタートしましたが、金メダルの夢を果たし、両親に自分の子供がどこまでできるかを見せたい。また、特にアルジェリアの恵まれない女の子や子供たちに刺激を与えたい。」と話していた。彼女の努力と情熱が実を結び、今回のオリンピックで見事に金メダルを手にするまでに至った。
楊柳の健闘
中国の楊柳は、内モンゴル自治区出身で、2007年にボクシングを始め、2019年と2023年の世界選手権でメダルを獲得した。今回のこれまでの試合も、その実力で決勝に進出した。中国では、IBAによる出場資格への疑惑を支持し納得のいかない人々による不満と、ヘリフへの誹謗中傷が続いている。
今後は・・
大きなプレッシャーを感じながらも、観客や家族のサポートが力となったと語ったヘリフは、アルジェリア大統領からのサポートもあり、これからは家族と休息を取る予定だ。
パリオリンピックから発信された「多様性を尊重する」価値観は、これから始まるパラリンピック、障害のある人の権利をどうするかにつながる投げかけとなったと思う。
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