見出し画像

人生に迷ったときには『アイシールド21』を読んで前に進んでいる。

人生で迷ったり、悲しくなったりしたときに決まって観る映画や小説があるように、漫画だって人生の節目に必要だと思う。

わたしにとっては『アイシールド21』が、まさにそうだ。

※この記事は「#マンガ感想文」の企画を見かけて書いています。アイシールド21のいいところが伝わるといいな……!

アイシールド21の好きなところ

アイシールド21は高校アメフトのお話で、アメフトに捧げた青春が描かれています。
主人公は足が速いことだけが取り柄の小早川セナ。ビビリなので俊足を生かして不良のパシリなどをしていたけど、伝説のエースランナー「アイシールド21」という名前をヒル魔に与えられて、泥門デビルバッツのランニングバックとして活躍するお話です。

彼に代表されるように、主人公の所属する泥門デビルバッツのメンバーは、個人の能力はそこそこだけれど一芸に秀でているというキャラクターばかりで、そのことに劣等感を抱いている描写も出てきます。
それを「なんかひとつできる奴が欲しいんだよ」「専門職のゲームだからね」と重宝します。泥門デビルバッツの活躍は、他になんの取り柄もない劣等生や凡人たちが、自分の得意なことで努力して認められていく過程そのものなのです。

キャッチだけはすごいが野球はヘタクソだったモン太がキャッチングに特化したレシーバーとして成長したり、もともとは脅されてアメフト部に参加していたただの不良3人組が喧嘩慣れしているのを活かしてラインマンとして目覚めていったりと、徐々にアメリカンフットボーラーとして頭角を表して認められていく。

こんなん感動するに決まってるじゃん。

ストーリーが進むごとにルールを覚えられる

アメフトというスポーツがメジャーなスポーツとは言い難いこともあり、初心者がアメフトを理解できるように漫画が設計されているのも良い点です。
アメフトはポジションごとに動きが全く違ったり、攻撃と守備で選手が入れ替わったりと、見る側にも知識が必要とされるスポーツですが、最初はセナを含めて3人しか部員がいなかったところからレシーバー、ラインマン、タイトエンドなど、新しい部員が増えるたびにそのポジションの選手の特徴が活かせる試合の展開と、対戦校が現れます。
その対戦校の面々の個性が強調されているところが非常に漫画的で面白いのも面白い点です。時に「そんなんあるかよ」と言いたくなるくらい非現実的で馬鹿げている展開や設定――例えば2m超えのラインマンとか――が出てきますが、それもストーリーの展開やその話を通じて伝えたいメッセージなどを考えると、その誇張された表現が「漫画っぽくて良いな」と感じられ、バランスがちょうど良いと思います。

個人的に現実離れしているけれど漫画的で楽しいなあと思う展開ベスト1は「NASAエイリアンズ戦後に、彼らの帰りの便を泥門デビルバッツが利用してそのままアメリカ合宿編がスタートする」です。
意味わからないくらい展開が鮮やかで、漫画じゃないと許されないくらい突飛なので面白かったです。

天才とそうでない人のはなし

アイシールド21では、何人か“天才”と呼ばれる人が登場します。何かしらの天賦の才を持つ人です。スポーツ漫画なので、それは体格や身体能力や、アメフトのセンスだったりします。主人公のセナもまた、ほかにはなんの取り柄もないけれど、アメフトのランニングバックを務める上では最高の天賦の才である“瞬発力あるスピード”を持っています。
そこでたびたび漫画で提示されるのは「努力をしても天才には勝てないのだろうか」という問いです。スピードだけが持ち味のセナが同じスピードと、驚異的な身体能力を兼ね備えたライバル進清十郎にぶつかったり、その進よりも身長が高かったことからチヤホヤされるも進と比べると何もかもスペックが違うと思い知らされた桜庭、天才と呼ばれる双子の弟を持つ金剛雲水など。
“天才ではない方”のサブキャラクター達が迷ったり決心したりするさまがとにかくスポ根!青春!という感じで感動します。

わたしは劇中の人物でいうと雲水と桜庭がものすごく好きです。物語の中盤でこの2人が語るシーンがあるのですが、もう完璧なんですよ。

雲水は桜庭に対して「才能を与えられなかったことは諦めるしかない」と言います。桜庭はその意味を劇中の誰よりも理解して(天才の進と比べてもがく自分を想起して)飲み込もうとしますが、彼には「小さい頃からスポーツで活躍したい」という夢があり、自分には“それができるという野心”があった。だから雲水に向かって「俺は高校生でそこまで達観できるほど大人じゃない。勝てないと分かっていても、自分の野心を抑えられないから抗うんだ」と言うと、それを受けた雲水は「俺にはそれが、死ぬほど羨ましい」と言う。

どうですか?このシーン。わたしはここだけでウイスキー3杯は飲めます。
雲水だって、できることなら諦めたくなかったんだよ……。

キャラクターがどこまでも爽やか

アイシールド21に登場するほとんどのキャラクターは、みな爽やかなスポーツマンです。(もちろん例外もなくはないですが、全体的にコミカルに描かれているのであまり嫌味が少ないです)
ちなみに爽やかというのは、そのキャラクターの性格がどうのというよりは、ストーリーの後味として「あいつなんだかんだ良いヤツだったんだな」ということが説明されるということです。
アイシールド21では、試合ごとに新しいキャラクターとして対戦校のライバルたちが登場します。これがだいたい最初はクセが強く、はじめのうちは主人公たちに突っかかります。
でもそれにはちゃんとした理由があったり、おごりだった場合は試合後にしっかりと認めて健闘を称え合い、場合によってはかなり仲良くもなります。
そこがすごく爽やかでいいな、と思います。

作画が良すぎる

アイシールド21は原作と作画が別々の漫画で、作画はワンパンマンやスパイダーマンのイラストでも人気の村田雄介先生です。
わたしは正直、彼のカラーイラスト目当てでジャンプを買っていたくらい惚れていました。一言でいうと、めちゃくちゃに絵が上手いです。
少年漫画らしい躍動感や、力強さをかなりダイレクトに表現している作家で、その村田先生とアメフトという題材はかなりマッチしていたと思います。
それでも序盤はデビュー間もないだけあってまだ安定していない感はありましたが、後半はもはや漫画とは思えないくらい動きや立体感とコミック的なアクセントが効いた最高の絵柄でした。
金剛阿含のドレッドヘアは、彼だからこそカッコよく描けたんじゃないかとすら思います。

ちなみに、この熱くて超絶面白いストーリーを作っている原作者はDr.STONEを連載中の稲垣理一郎先生です。

女性キャラがかわいい

アイシールド21はアメフトという競技が、身体中にプロテクターを装着していることからまるでアメコミのヒーローのようにマッチョなディテールでキャラクターが描かれているのと、アメフトらしい激しさを存分に表現した作画が見どころですが、その類まれな画力でもって描かれる女性キャラがとても魅力的なのです。
とくに、セナのお姉さん的ポジションかつ泥門デビルバッツのマネージャーである姉崎まもりは、アメリカ人のクォーターという設定の抜群の恵体と美貌を兼ね備えた才女として描かれており、健康的かつセクシーなキャラデザが魅力的です。今っぽくいうとヘルシーな感じです。

また、秋大会が始まると各校のチアリーディングが描かれるのですが、それがまた漫画的な誇張表現で「そんなチア衣装ないでしょ」っていうくらい各校の衣装が可愛いです。個人的には特に西部ワイルドガンマンズの西部劇風チア衣装と、網野サイボーグスのナース服風チア衣装がお気に入りです。

ここからは完全に余談ですが、マネージャーの女性キャラもかなり可愛く描かれていて、盤戸スパイダーズの沢井ジュリのキャラ設定の「佐々木コータローとは幼なじみの間柄であるが、彼の方は友達以上に想っていて過去に3回「俺と付き合っちゃえよ」と告白されているが、そのたびに「ハイハイ、何バカ言ってんの」とあしらっているものの、きっぱり断った事はないのだ。 」という文章が無茶苦茶好きです。
青春かよ〜〜〜〜!!!

あと、賊学カメレオンズの露峰メグも好き。良い女すぎる。(キャラ語り、永遠にできるのでやめよう)

キャラクターが熱くて何度読んでも泣ける

ここからは、わたしが泣いた場面ベスト5を紹介したいと思います。若干のネタバレも含まれるので、絶対ネタバレ嫌な人はここまでってことでお願いします!
ネタバレしても良いよって人と、アイシールド21大好き!って言う人はこの先もお付き合いくださると喜びます。

5位・巨神ポセイドン戦後の小判鮫先輩

才能あふれる1年生の新入部員たちに対して、身体的にも能力的にもほとんど敵わなかった3年生の先輩たちは、彼らの足を引っ張っているんじゃないかと引目を感じ、偵察をしたり試合以外の場所で役に立とうと躍起になっていたが、当の1年生たちはそんなことを露程も思っておらず、「先輩は俺たちが練習してたら最後までついてきてくれた」「先輩とかが役立たずだなんて全員一度も思ったことないですよ」と心の底から思っていて、それを知った小判鮫先輩が試合後に泣きながら「今までで一番キツかったけど、今までで一番楽しかった」と言うシーン。

小判鮫先輩、なんだか憎めなくて良いキャラだよなあ。

4位・夕日ガッツ戦のメンバーチェンジ

身体能力の高い助っ人だらけの夕陽ガッツを翻弄して大差をつけ、遂に顧問も諦めて夕陽ガッツのレギュラーメンバーが出てきて「もう点差もついたし記念出場か?」と見られている中で彼らは円陣を組んで「絶対!全国大会優勝!!」と叫び、それを見たヒル魔は嬉しそうに「連中の勝率が0%から1%に上がりやがった」と呟くシーン。これもう完璧じゃないですか。

漫画では1話分くらいの短い場面だけどボロボロ泣いた。

3位・東京大会敗退が決まった賊学カメレオンズのロッカー

巨神ポセイドンの強さを目の当たりにして、試合中から諦めムードになってしまった部員たちをまとめきれず敗退してしまった賊学カメレオンズ。試合後ひとり廊下でたたずむ葉柱ルイに対して「まだ勝算あったのに、てめー以外の連中諦めやがったな」と言葉を投げるヒル魔。
そこで葉柱は「テメーだって恐怖政治でチームをまとめてきたんだろ、なんでテメーんところの奴らはテメーと一緒にクリスマスボウルまで目指してるんだよ」と言います。

「テメェと俺と、なにが違うってんだよ!!」

葉柱〜〜〜ッ!!!!(号泣)

2位・泥門デビルバッツが揃う神龍寺ナーガ戦

レギュラーメンバーが増えていくたびに、戦術やルールの説明を挟んで読者に対してシンプルかつ分かりやすくアメフトの面白さを伝えるアイシールド21ですが、全メンバーが揃うのは“21巻”なんです。計算なのか、偶然なのか……?
その全員が揃う神龍寺ナーガ戦は、ファンの中でも1、2を競う人気の高いお話です。わたしの中でも1、2を争う面白さだと思います。

いろいろ泣ける場面があるんですけど、ネタバレがすぎるのでやめます。
あれとか、あれとか……。

あんまり書く言葉がないですが、金剛雲水の顔に似合わず大胆不敵なところがとても好きですね。

1位・最終戦をスタンドで観戦している彼のあれこれ

一番泣いたのここなんですけど、ネタバレすぎて書けませんでした。

ほとんど書ける言葉がないですが、彼が後悔に身を震わせて涙するシーンとか、めちゃくちゃ好きだし最終回で彼がした選択とか最高に好きなのでスピンオフとか無いかなあ。無いよな。

というわけで独断と偏見に満ちた「泣ける場面TOP5」でした。

最後に3巻の名場面を紹介させてくれ

そろそろ終わりにしないと無限に書いていそうなので、最後に“人生に迷った時にたびたび思い出す名場面”を紹介して終わろうと思います。

泥門デビルバッツは春大会で2戦目にして強豪校にして良きライバルとなる王城ホワイトナイツと当たり、負けます。
大会が終わってしまったあとで、いつもの学校の風景の中で虚しさや己の無力さから涙が溢れてくるセナ。雑務を終えて帰ろうとすると、雨の中で片付け忘れた練習用具が目に入り、試合に勝てなかった悔しさがこみ上げてきて雨にもかかわらず練習を始めます。
その光景に合わせて「フィールドでプレーする誰もが必ず一度や二度屈辱を味わ話されるだろう」という一文から、アメフト界の名文『ダレル・ロイヤルの手紙」が引用されます。
多くの失敗や敗北を喫しながらも諦めることなく努力を続け、遂に大統領にまで上り詰めたリンカーンの生き様に触れながら、学生へアメフトへの情熱を訴えかける、熱い文章です。

一流の選手はあらゆる努力を払い速やかに立ち上がろうとする
並の選手は少しばかり立ち上がるのが遅い
そして敗者はいつまでもグラウンドに横たわったままである
(一部抜粋)

セナは走ること以外に何も持っていなかったかもしれないけれど、春大会と「アイシールド21」というヒーロー像を与えられて自信を持てたことで、すでに一流選手のメンタリティを獲得していたから「あらゆる努力を払ってすぐ立ち上がった」のだと思います。

雨の中で一人練習するセナを、窓からヒル魔が見ているカットが入ります。特にセリフなどはありませんが、内心嬉しいのだと思います。
ヒル魔の才能を見る目だとかその才能を信じる心とか、リアリストなのに最後は夢にかけちゃうところとか、「理屈を超えた力もあると観念している」ことが見えて好きです。

もしわたしになにかの才能があったとしても、それに気づきもせずになんとなく生きるのも人生だし、自分でも気づかなかった才能を見初めてくれる人がいてその期待に応えるのも人生だし、でもそんなことは多くの人には起きないし、そもそも才能なんて多分ないし、つまるところ「挫折や屈辱を感じても、才能もなくていいから、さっさと早く立ち上がれ」ということを、アイシールド21から学びました。
これを書くために久しぶりに全巻読み返しましたが、わたしはやっぱり凡人で少しばかり立ち上がることが遅くなりがちなので、できるだけ早く立ち上がり続けたいなあと思います。

(おしまい)




この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?