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【連載小説】『忘れもの』

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連載小説です。 誰しもが心に抱える裏側の自分。 つい否定したくなる自分の影に人は向き合うことができるのか。 そして、自らの表と裏に出会うとき、人は何を考え、何を感じるのか。 人は…
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2021年4月の記事一覧

『忘れもの』 【第7話】 「光と影」

******  顔をゆっくりあげると、涙がレンズのように瞳を覆った。  絵の具を水に垂ら…

『忘れもの』 【第6話】 「追憶」

******  駅舎がだんだんと大きく近づいてきた。小刻みに揺れていた電車は、ポイント切…

『忘れもの』 【第5話】 「芽吹き」

******  足元はぺんぺん草の緑と白でにぎわっている。  アシナガの森も新たな季節の…

『忘れもの』 【第4話】 「転落」

****** 「社長、そこをなんとかお願いできないでしょうか。このとおりです。お願いしま…

『忘れもの』 【第3話】 「出逢い」

    ******  アシナガの森にある切り株の椅子の周りにはスギゴケの絨毯が広がって…

『忘れもの』 【第2話】 「すれ違い」

 ****** 「葉山、今月の数字、大丈夫なんだろうな」  支店長の片岡から呼び止められ…

『忘れもの』 【第1話】 「別れ」

****** 「ノエル、ごめんね。許して、ノエル……」 グレーのヒールが静かに音を立てながらゆっくり離れていく。 ノエルはじっと涙が溢れ出そうになるのを我慢した。 「きっともう帰っては来ないのだ」 彼女の遠のく背中を見つめながらノエルは自分の心の中から大切な何かが剥がれ落ちていくのを感じた。 あの日からずっと森だけが自分を守ってくれているように思える。 アシナガの森と呼ばれるその森は、ノエルの家から歩いて15分ほどにある小さな森だ。針葉樹が所狭しと伸び、その重なり合った葉の