50 かわいいのは誰?
フォルクハルトがシャワーを済ませてリビングに戻ると、ハルキがソファに座って料理番組を見ていた。
「珍しいな。食い物に興味のないお前が料理番組なんて」
「まあ、多少は覚えようと思ってな」
ハルキは少しだけフォルクハルトに顔を向けたあと、画面に目を戻す。フォルクハルトは隣に座って一緒に画面を見た。画面には男が二人おり、片方は私服にエプロン、もう片方はシェフらしい格好でコック帽も被っている。エプロン姿の男が玉ねぎを切っているところだった。
「手つきが素人だな」
ゆっくりと丁寧にタマネギを切っていく様子に、フォルクハルトは眉根を寄せた。
「うん。料理をあまりやってない人が料理学校の先生に基礎から教えてもらう番組だから、私にも見やすい」
ハルキに番組趣旨を説明されてなるほどと思う。手つきは素人だが手先は器用だ。ハルキより余程綺麗に食材を切っている。男は切れたタマネギを先生に褒められて喜んでいる。
「んふ。かわいい」
ハルキが画面を見ながらニヤっとした。
「俺よりもか」
不意に発したフォルクハルトの言葉に、ハルキは何か異質なものを見る目で彼を見た。
「フォルクハルト。お前、自分が可愛いという認識なのか?」
「前にハルキがかわいいと言っていただろ」
キョトンとしているフォルクハルトに、ハルキは冷めた目で応えた。
「ああ、飯食ってるときと寝てる時だけな。あれはギャップで可愛いと思ってるんだ。普段は別にかわいくないからこそだぞ」
思いの外冷たい態度にフォルクハルトは少し動揺した。
「そうか…」
「あと、毎回俳優とか芸能人と張り合おうとするのやめろ」
ハルキに真顔で言われ、フォルクハルトは少ししょんぼりして立ち上がると、台所へ向かった。棚からロールパンを出して台所で食べ始める。
ハルキは「ちょっと可哀想な事をしたかな」と思った。フォルクハルトは、台所からパンを齧りながらじっとこちらをみている。
「何をしている」
行動の意味のわからなさから、ハルキは彼にそう問うた。
「とても傷ついた」
フォルクハルトは短く答えると、ロールパンをもう一つ齧り始めた。
どうも臍を曲げてしまったらしい。ハルキはげんなりして嘆息した後、手招きした。
「…こっちに来い」
フォルクハルトは不貞腐れた顔をしてはいるが、ソファに戻るとハルキの隣にボスっと座った。腕を組んで口をギュッと結んでいる。
ハルキがフォルクハルトの頭に手を伸ばしてきたので、彼は撫でやすいように少し頭を下げた。
「よしよし」
ハルキはフォルクハルトの頭を撫でると、彼にぎゅーとハグをした。
「いつまでも拗ねるな」
頬に軽いキスをされて、フォルクハルトは少し機嫌を直した。
フォルクハルトがシャワーを済ませてリビングに戻ると、ハルキがソファに座って猫番組を見ていた。
「猫はかわいいなあ」
ハルキはそんな事を言いながらニコニコと猫を眺めている。
「俺よりもか」
不意に発したフォルクハルトの言葉に、ハルキは正気を疑うような目で彼を見た。
「だからなんで、自分がかわいい認識なんだ。猫よりかわいい人間なんかいる訳ないだろ」
言い放つとハルキは画面に目を戻し「にゃーん。かわいい」と猫撫で声でニコニコとした。
「俺は猫よりハルキの方がかわいいと思う」
フォルクハルトは真顔でハッキリとそう告げる。
「は?猫の方がかわいいに決まってるだろ」
しかし、その想いは届かず、ハルキからは侮蔑すら感じるほどの勢いで睨まれた。
まさか、そんな風に返されるとは思っていなかったフォルクハルトは、悲しい顔でしょんぼりした。
目の前で、あまりにも悲しい顔をされて、ハルキは少し罪悪感をおぼえた。
「あーわかったわかった」
ハルキがフォルクハルトの頭に手を伸ばしてきたので、彼は撫でやすいように少し頭を下げた。
「よしよし」
ハルキはフォルクハルトの頭を撫でると、彼にぎゅーとハグをした。
頬に軽いキスをされながら、フォルクハルトは難しい顔をしていた。
(なんか違う…俺が求めているのはこういうのではなく…)
別にこれが嫌なわけではないんだがなあと思いながら、フォルクハルトはハルキにぎゅーとハグを返した。
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