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#1 アンチアルゴス・アンダーグラウンド-竹本-

先遣隊として地下施設に乗り込んだオレは窮地に立たされていた。
敵は四人、全員サブマシンガンを構えている。
一方、物陰に隠れているオレと森野の武器は拳銃だ。
「おい、お前ら!少しは手伝え!」
別の物陰に隠れているデカいコーカソイド男を睨む。
「殺していいなら頭を打ち抜くが?」
男はそう言って、真顔でアンチアルゴス社の社給ジャケットから拳銃を取り出した。
「いいワケないだろ!」
「なら人間はお前らの管轄だ。俺達の仕事じゃない」
(腐れ傭兵どもが!)
人間を襲う未知の生物が日本で最初に確認されてから15年。最初に確認された個体に大量の目玉がついていた事から「アルゴス」と名付けられ、その生息区域は既にアジア全域に広まっている。それに対抗すべく多国籍軍は治安部隊を編成。民間の傭兵部隊と連携し、駆除に乗り出した。アンチアルゴス社はそんな傭兵部隊のひとつだ。
「なんでこんな量の銃が民間に出回ってるんだ?」
同社のサイバネ補完女が不思議そうに聞いてくる。
「知るか!反社会的勢力と繋がってるんだろ!」
「それ取り締まるの警察の仕事ですよね?」
これは同社の若い男だ。
「マル暴が何やってるかなんて知らん!縦割り舐めんな!」
アルゴス信仰の新興宗教団体「Pファウル」は、いくつかある団体の中でも過激派だ。地下に施設を作り武器を集めているという情報が確実となり、突入する事になったのが先日。アルゴスが施設内にいるため、アルゴス駆除の専門業者に同行を依頼してやってきたのがコイツらだ。
本隊側のメンバーは、もっとマトモそうだったのに、先遣隊についてきたのは、このアホどもだった。
「竹本、落ち着いて」
警察機動隊の同期である森野に言われて、心を落ち着ける。彼女はいつも冷静だ。
「トミー。この前のやついけるか?」
サイバネ女が若い男に言うと、若い男、改めトミーは頷いた。
「はい。ハルキさん突入するんですか?」
この状況で突入だと?頭がおかしいのか?
「警察の仕事だ放っておけ」
コーカソイド男が冷めた口調で言う。
「でも、このままじゃ埒が明かないだろ」
サイバネ女、改めハルキは言いながら警棒を取り出した。
「それなら俺が行く」
コーカソイド男が女を諌めるが、この装備では誰が行ったところで同じ事だ。ましてサブマシンガンに警棒で対抗出来るわけがない。
「接近戦なら私の方が上だ。フォルクハルトは、ここにいろ」
コーカソイド男、改めフォル?確か若い男が「フォルト」と呼んでいたのでフォルトとする。は、「わかった」と渋々納得した。
「ハルキに何かあったらお前らブッ殺すからな」
三人を眺めていただけのオレをコーカソイド男が突然睨みつけてきた。
「なんで?!」
さすがに意味がわからず、オレは心の中に留めるはずの声を外に出してしまった。無謀な事を言い出したのはサイバネ女で、それに納得したのはこの男だ。オレに非は一切ない。完全な八つ当たりだ。
「この銃弾ならバリアで防げるから大丈夫ですよ」
トミーが呆れた様子でそう言った。
バリア。そうだ、この若い男はサイキックだった。経歴書の内容を思い出す。渡辺冨太郎27歳サイキック。トミタロウだからトミーという事だろう。ふざけたあだ名だ。
「ただ、距離的に部屋の端まで行かれると僕の力の有効範囲外なので気をつけて下さい」
「おう」
トミーの注意事項にハルキが頷くと、彼は彼女のサイバネアームと下半身に装着したパワードスーツに触れた。
「同期、展開できました」
女の周囲に見えない何かが発生した。
彼女は頷くと、右手に警棒を持って姿勢を低くし、勢いよく物陰から飛び出した。
パワードスーツによって強化された脚力は人間のそれではない。サブマシンガンの一斉掃射がハルキに向かう。女はそれをものともせず、猫科の獣のごとくしなやかに敵との距離を詰める。
敵は4人。
ハルキは跳躍して敵の背後に降り立った。
左サイバネアームで手前の一人の頸椎を殴打。
奥の一人の背中に右回し蹴りを叩き込み、流れるようにさらに奥の一人の顎を蹴り上げる。
残った一人のサブマシンガンがハルキに向かう。部屋の隅。バリアの有効範囲外!

パシュ

サイレンサー付きの拳銃の音と同時に、敵はサブマシンガンを取り落とした。
敵が事態を理解するよりも速く、ハルキの拳がその鳩尾に突き刺さる。
音のした方を見ると、フォルトが拳銃を社給ジャケット内にしまうところだった。室内に静寂が訪れる。
ハルキは周囲をクリアリングしてから、警戒を解いた。フォルトとトミーが立ち上がる。
「お前らもしかして………強いのか?」
呆然としているオレを見下ろして、男は長身と鍛え上げられた筋肉を誇るように片眉を上げる。
「そうだが?」
「ありがとう。フォルクハルト」
ハルキが戻ってくると、フォルトはすぐにハルキと向き合い手を取った。
「まかせろ、当然だ。ハルキには傷ひとつつけさせない」
そして見つめ合う。
「新婚なんで多めに見てください」
トミーが謎のフォローを入れてきたが、彼の方を見ると言った本人もげんなりした様子だった。
「これでも今日はマシなほうです」
二人はまだ見つめ合っている。あと5秒もしたらキスをしかねない雰囲気だ。
「B1階、入り口フロア制圧しました。信者四人確保。連行をお願いします。」
ドン引きしているオレをよそに、森野が本隊に連絡を入れた。
「先に進むぞ」
オレは気を取り直して先頭を歩き始めた。

〈#2へ続く〉

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