49 誘われない

休日の朝、ハルキは今日は何をしようかと考えていた。買い物は昨日済ませているし、取り立てて行ってみたい場所もない。
「そういえば、フォルクハルトの方から何かやろうって誘ってくる事ないよな」
何も思いつかず、何もしない日もいいかなという気持ちもあったが、いつも誘いをかけるのは自分の方だなと気付き、フォルクハルトは何かやりたい事はないのだろうかと思う。
「そんな事ないだろ」
パンとベーコンエッグを飲み込んだフォルクハルトはそう言ったが、ハルキの記憶にはない。忘れているだけだろうか。
「何かあったか?」
聞いてみると、フォルクハルトは「セックス」と答えた。
ハルキはやや軽蔑した視線を向ける。それは確かに度々誘われてはいるが、今はそういう話をしているわけではない。
「…………うん。それ以外でな」
「それ以外か…」
ハルキは黙って頷く。フォルクハルトは顎に手を当てて考える。
「俺がやりたい事は大体一人でできるからな…誘う必要がない」
「一人でできる事でも一緒にやりたい事とかないのか。あと、一緒に行きたい場所とか」
フォルクハルトは、もう一度考えてみたが何も出てこない。
「ハルキが興味のない場所に行っても仕方ないしな」
このままでは埒が明かない。
「じゃあ、一人で行きたいところは例えばどんな所なんだ?」
ハルキに聞かれて、フォルクハルトは「ああ」と何か思いついたようだった。
「…遊園地」
ハルキは意外だなと思った。
「の廃墟とか…」
が、続いた言葉に怪訝な顔になる。
「廃墟…」
フォルクハルトは予想通りのハルキの顔を見て、うんうんと頷いた。
「興味ないだろ?」
ハルキは、やや困惑したまま、なんとか話を広げようとした。
「それは…何を楽しむんだ?」
「朽ち果てた観覧車や草の生い茂ったメリーゴーランドを見て、嘗ての賑わいに思いを馳せると同時に、所詮人間の作った物など悠久の時と比べれば刹那的であり、自然の前には無力だなと感慨に耽る」
顎に手を当てたまま、少し早口に説明したフォルクハルトの言っている事は、ハルキの耳を右から左に通り抜けて行った。
「全くわからん。他には?」
「工業地帯の夜景」
ハルキにとっては考えたこともない場所が提示され、ますます思考は混沌としてくる。
「…それは…何を楽しむんだ?」
「傲慢な人類が大地を切り拓いて造り上げた24時間稼働し続ける不夜城であると共に、確かな技術によって生活を支える人々の営みでもある事と機能的な美しさに灯る光の力強さが心に染みる」
「何一つわからん」
ハルキは理解することを諦めた。
フォルクハルトは頷く。
「だから、一緒に行かなくていいんだ。この前行ったロボット展のようなものなら一緒に行くのもいいかもしれんな」
ハルキは「ふーん…」としか言えなかった。
「興味があるなら、廃墟と工業地帯夜景の写真集やVRもあるが」
若干興奮気味なフォルクハルトに、ハルキは首を横に振った。
「…いい」
フォルクハルトはちょっとがっかりした。


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