36 アイスクリームとマゾ疑惑

バスルームからハルキの「あ!」という声が聞こえた。
どうかしたのかとバスルームのドアを眺めていると、タンクトップとショートパンツ姿のハルキが「パンツ忘れた」と言いながら出て来た。
パンツ忘れた。忘れたという事は、今下着を履いていないという事なのか?その丈のショートパンツで???いや、まあそれはいい。黙っていれば気づくこともあるまい。
「ハルキ、それは申告しなくていいというか、むしろ黙っていてほしい」
「え?何がだ?…あ、パンツの事か。ただの独り言だから気にしないでくれ」
言いながら寝室へ向かう。
「いや、色々想像してしまうというか…」
「それは想像する方が悪くないか?」
ハルキは寝室のドア越しに応答する。
「え…あ…そう…なのか???」
当たり前の様に言われて、フォルクハルトは困惑した。言われてみると確かに想像する方が悪いのかもしれない。いや、でも、仕方なくないか?「緑色のサンタクロースを想像しないでください」と言われたら、緑色のサンタクロースを想像してしまうのが人間というものだ。風呂上がりに「パンツ忘れた」と言って出てきた人がいたら「こいつ今パンツ履いてないんだな」と思うのは仕方がないだろう。風呂に入る前に履いていたパンツを履き直している可能性もあるが、せっかく風呂に入ったのに、それはそれでどうなのか。しかし、相手が男なら「こいつ今パンツ履いてないんだな」で終わる話ではある。そこから先を想像して、ちょっとムラムラしてしまったのは想像した奴の問題だと言われれば、それはそうだ。だがしかし、性愛の対象として見ている相手でそれを想像するなというのは土台無理な話ではないのか。
そんな事を考えている内に、ハルキは(おそらくパンツを履いて)寝室から出てきて、冷蔵庫に向かった。
(あ…しまった)
フォルクハルトは自分がまたしても失態を犯した事に気づいた。ハルキは冷凍庫を開けて、少し中を見た後、何も取り出さずに閉めた。
「フォルクハルト。またやったな?」
ハルキの声は静かだが、確実に怒っている。
残数が1だったのは分かっていた。でも、明日買い直せばいいだろうと昨夜食べてしまったのだ。そして今日、買い直すのをうっかり忘れていた。
「何度言えば理解すんるんだ?食い物のことになるとポンコツになるのはなぜだ?ワザとなのか?」
ハルキは大きなため息をついた。
「いい加減お仕置きが、必要なようだな。」
ハルキの左腕からキュイーンと排熱ファンの音がした。
「ま、待てサイバネアームは…」
「安心しろ、日常生活用に成人男性レベルまでしか出力できないようになっている」

腕十字を極められたフォルクハルトは床の上で身動きが取れなくなっていた。肩を両脚で固定され、ハルキの太腿というか膝裏が頭に乗っている。ハルキの方に目をやると、ショートパンツの隙間から下着が見えていた。パンツを履いていなかったらどうなっていたのかと思う。これはいけない。極められている痛みと、この情動が条件付けされてしまうと不味い。
「名前も書いておいたと言うのに、どういうことだ?」
「カタカナはちょっと…認識しずらいというか…」
ハルキに言われて言い訳を捻り出す。
「ほほう?普段完璧に使いこなしている日本語が理解できないと?では、次はアルファベットで書いておくとしよう」
「は、はい。オネガイシマス。」
とにかく謝って拘束を解いてもらった。

数日後。
フォルクハルトは、ハルキが風呂上がり冷蔵庫に向かった時点で、その場を離れようと動き出していた。
ハルキは冷凍庫を開けて、少し中を見た後、何も取り出さずに閉めた。
「フォルクハルト。お前マゾなのか?もう絶対ワザとだろ?」
ハルキの声はゾッとするほど冷たかった。
残数が1だったのは分かっていた。でも、明日買い直せばいいだろうと昨夜食べてしまったのだ。そして今日、またしても買い直すのをうっかり忘れていた。
ハルキがフォルクハルトに詰め寄る。
「もしかしてお仕置き「して欲しい」のか?お仕置きのつもりだったがご褒美になっていたと?」
「チガウ」
フォルクハルトは小さく首を振る。
「縛り上げるのはやめてほしいって言うのも、アレは振りか?むしろやってほしいのか?」
「チガウ」
今度はブンブンと大きく首を振る。
ハルキの左腕からキュイーンと排熱ファンの音がした。

腕十字を極められたフォルクハルトは床の上で身動きが取れなくなっていた。肩を両脚で固定され、ハルキの太腿というか膝裏が頭に乗っている。ハルキの方に目をやると、ショートパンツの隙間から下着が見えていた。良かった、パンツを履いていた。とはいえ、これはいけない。極められている痛みと、この情動が条件付けされてしまうと不味い。下手をするとマゾ疑惑が、疑惑でなくなってしまう。
「ゴメンナサイ。モウ、シマセン。」
とにかく謝って拘束を解いてもらった。

流石にマゾ疑惑はダメージが大きかったらしく、以後アイス食べられる事件はなくなった。

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