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山本周五郎『赤ひげ診療譚』(新潮文庫)

 山本周五郎『赤ひげ診療譚』(新潮文庫)、言わずと知れた名作ですが、むかーし読んだきりで記憶が曖昧。再読してみようと思い立ちました。


 

 で…うわ、面白い!と一気読みしました。貧困や病苦に苦しむ人間の姿を生々しく描き出すと同時に、主人公の青年医師・保本登の挫折と成長を鮮やかに見せる成長物語ともなっています。弱者を切り捨て顧みない社会のあり方や、人間の罪業の深さを真正面から取り上げる物語はリアリズムに溢れていて、現代的にも感じられます。ちなみに言葉遣いも全体的に今風ですね。たいへん読みやすい。登の挫折から始まる序盤の展開のうまさには、ひえーさすが山本周五郎、と一人悶絶してました…。 
 この保本登、藤沢周平の『獄医立花登手控え』の主人公である青年医師・立花登と似ているような…名前も被っているけど、まさかオマージュ?と調べてみたら、藤沢周平氏が『赤ひげ』を意識して付けた名前なんだそうですね。腕っ節が滅法強い新出と、誠実でひたむきな保本登を足すと、あら不思議、立花登そのもの!? 藤沢周平氏、よほど二人のファンだったのかと微笑ましい気分になります。 
 自分のことばかり考えていた若者が、時に現実に打ちのめされつつも、周囲の人々や社会に目を向け、伸びやかに成熟していく姿が眩しい。若い人がんばれ、とエールを送りたくなります。こういうの書きたいなぁと思いますね。強力お勧めの、文句なしの傑作です。 


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