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自分の血液型を再確認する話

秋も深まり……過ぎて若干の寒さすら感じる今日この頃、私は迷っていた。山手線で新宿に向かい、西口へ出て地上に上がる。向かう先は家電量販店大手、オタク大好きヨドバシカメラである。
ヨドバシへ行くということは買い物があるということだ。金額おおよそ2万円、月の手取りの10%にもなる高価な買い物だから大変に悩むわけである。売り場で冷や汗をかきながら買うか買わまいか悩む。ここに至るまでにまず電車賃数百円が掛かっている。

2万円である。

少し冷静になろうと退店する。新宿の街を再びふらつく。
午後からの出勤であるからあまり余裕はない。概ね1時間半で決断しなければならない。

2万円である。

2万円の買い物にどれだけ悩んでいるのかと自問自答しながら西口地下へと降りていく。悩んでいるだけなのでスマホを見ても居ないが、それはそれとして悩み続けても答えが出ない。いっそ喫茶でも入ろうかと思ったその時――献血ルームが目に入った。
ここでふと思う。

少々血を抜いてもらったら頭からほどよく血が抜けて冷静になるのではなかろうか。

そう思った次の瞬間には献血ルームで受付をしていた。

そうそう、最近では新生児の血液型を判定したり記録したりしない傾向にあるそうで、理由はいくつか……簡易検査もなしに本人申告で輸血をすることはありえないとか……成長に伴って血液型が変わることもあるとか……新生児時から変わるって話とは違うにしても、骨髄移植受けたらABO血液型なんか変わることもあるもんねえ……ということで、生まれてきて31年、自分はB型だと言われていたけれども、これは真なのだろうかという疑念を最近では抱いていたことと、献血すると血液型を教えてもらえるという情報を握っていたことも理由の一つではないかと思う。

問診内容については正直に回答するほかない。飲み物が無料というのも聞いていた情報が正しかった。日赤に寄贈してくれたメーカーさんなのかな、エルビー社の紙パック飲料が大量に用意されていて、コールドもホットも用意されていた。
医師による問診を受け、隣のブースで看護師に血の濃さと血液型の簡易判定を受けた。
この際に出てきたピンク色の、指先に小さな穴を開けて血をにじみ出させる器具には非常に見覚えがあった。ランセットと言うらしい。
郵送の性病検査キットに入っているものと同一だった。精子提供マッチングサイトに登録する際に買ったキットに同封されていたものと同型だった。
指先に押し付けると一瞬だけ針が飛び出てほんの少しだけ血が出る。

ランセットでプシュッと穴が開けられた指先に、表面張力で血液がぷくりと膨らんでいく。そこに、透明なプラスチックでできた……毛細管現象を用いてプレパレート状にするツメのようなパーツを吸わせるように当て、そのプレパレート状のものを機械にセットする。血液の濃さやらはここで分かるようだ。糖度を測られて出荷される果物にでもなった気分だ。
濃さは問題がないらしい。

指先で膨らんだ血液を更に2滴、スポイトで吸い上げられ、ろ紙の上で試薬と混ぜられる。「B型の方はこちらの試薬と反応する……しましたね、B型でしょう」との評を頂き、31年間B型だと思い込んで生きてきた異常人類から、正式に血液型B型の31歳になった。

ずいぶんと手が冷えていますね、と使い捨てカイロを握らせてもらい、スポーツドリンクを飲みながら「あちらで『頂きます』のでお待ちください」と採血の台のようなところへ案内される。

医師には「はじめての献血ですと、何事も気になることとか、なんでも構いませんので、看護師に何でも聞いてください」と言われていたので「そういえば針って硬いの突っ込んで途中で柔らかいの(留置針というらしい)に変えるんですっけ」と聞いた。

怖いのだ。

硬い針が長時間入りっぱなしなのが。

ハイそうですと答えてほしかったのだけれど
「えっなんですかそれは!w そんないいものがあったら天下取れますよ」と笑われてしまった。よくよく考えたら献血は「吸う」から柔らかい留置針では圧力に負けてダメなのかな……と思ったりもしたけど、そんなものはない、と三国志の1コマのような返答でちょっとたじろいでしまった。けしてバカにしてくるニュアンスではなく、文字なので誤解のないように補足しておくと、本当にそういうもの(献血に使える柔らかい留置針)が存在していたら使いたいですわ、みたいなニュアンスだった。まったく悪い気持ちはしなかったので、ねんのため。

そんなこんなで電線の太さでおなじみのAWGでいくと16とか18らしき針をブスっと頂き、ちゅるちゅると血を吸われていくのであった。この間も看護師からはちょいちょい話しかけてもらって気が紛れた。

お分かりだろうか。「針が柔らかいのに変わるんですよね」なんちゅう寝言を言ったせいで完全に(途中でぶっ倒れそうだなコイツ……)みたいなマークをされているのである。要注意人物(31)になっているのである……!

そんなこんなで、思ったよりも短時間で400cc吸い出され、ゆっくり起き上がってくださいね、と枕元に飲み物まで用意されてしまった。

はじめての人はなるべく30分待ってくださいね、よろしければサイト(ラブラッド)に登録してください、と言われ、スマホで登録を試すもエラーとなった。献血記録が日赤のサーバに登録されるまで15分程度かかるようで、しばらく飲み物を大量に吸い込んでからやり直したら登録できた。

そんなこんなで、血を抜かれてから再び冷静になって、ヨドバシの売り場へ行き、冷静な頭で買い物をした。
Apple Pencil (第2世代)のお買い上げをした。

2万円と400ccのお買い物(要審議)

たぶん血を抜かれても抜かれなくても買って帰ったと思う。


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