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ショートショート『会話』
S「今日はどんな髪型にしますか?」
A「そうですね…特に希望はないので、前と同じでお願いします。」
S「分かりました。」
――――
S「最近どうですか〜、何か変わったこととかニュース的なものってありました?」
A「ニュースというほどでもないんですが、少し怖いことがあって。」
S「ほう。それは一体どんな。」
A「えっと、私の家の近くにあるカーブミラーのことなんですけど。最近、そのミラーの角度が変わってる気がするんです。ほんの少しではあるんですけど、以前より私の家の方に向いてるように。」
S「えぇっ!?・・・それは不気味ですね。・・・でもよく分かりましたね?些細な変化なのに。超能力とか、そういう特別な能力をお持ちで?」
A「いやいや、そんな大層な物じゃなくて笑」
A「散歩が好きでよく外に出かけるんです。なので行き帰り頻繁にそのカーブミラーを見るんです。その日もいつものように散歩の帰り道だったんですが歩いていたらふと、足が止まったんです。私は無意識に後ろを振り向きました。そこには・・・いつものカーブミラーが見えたんです。」
A「なんだ、カーブミラーか。」
A「最初はそう思いました。ですが、勝手に足が止まったことには何か原因があるのだ。とでも思ったのでしょうか、気がついたら私はカーブミラーの目の前に来ていました。目線を上げよくよく見てみると、ミラーが僅かに私の家の方向へと向いてる気がしました。これだけならただの勘違いだと捉えられても可笑しくはないと思うんです。ただ・・・」
S「ただ?」
A「目線を落としたとき、ミラーと棒の接合部分が捻れるように歪んでいたんです。私はなんだか怖くなってしまって、その日以降あのカーブミラーを避けて帰るようにしているんです。」
S「それは・・・怖いですね。もしかしたらって考えると、俺だったら夜も怖くて眠れないなぁ。何も無いことを願ってます。」
――――
S「さて、そろそろシャンプーしますか!あちらの台に移動お願いします。」
A「話を聞いて下さってありがとうございます。はい、分かりまし・・・イタッ。」
S「どうされましたか!?」
A「い、いえ、たいしたことじゃないんです。ただ、その――」
S「――もしかして、防犯対策に引っかかった・・・とか?」
A「えっ!?どうして分かったんですか!?!?」
S「えっ!?!?そうなの!?いや・・・なんとなく、今の話を聞いていてさ、ほら、Aさんはきっちりしてそうに見えて、少し抜けているところがあるじゃない(そこも良いところだと思うんだけど)。だから、話してくれた出来事の後に防犯対策はしたもののその安心感から何事も無かったようにすっかり忘れてしまっていた。ある日、鍵を紛失してしまったことに気づいたAさんはベランダから入ろうとして(こういうときのために開けてある?)窓の縁に手を掛けたそのとき――。自分自身で防犯対策した何かで怪我をしてしまった。と、いった感じじゃないかな?」
A「・・・す、すごいSさん。ほぼ当たってます。実際にはベランダはたまたま開いていただけなのと(こういうこと良くあるんですよ〜、ついつい忘れちゃうんですよね)、何せ焦っていたので思い出すより前に行動していた。という感じですかね。普段はちゃんと覚えているんですよ!!まぁ、抜けてるというのは否定できないですけど笑」
A「防犯対策のため大部分には画鋲とか、まきびし(ネットで買った)を置いておいたんです。そのお陰か、すぐ気づいて大事には至らなかったんです。不幸中の幸いとでも言うんでしょうか笑」
A「・・・あと一歩でm――」
S「え――――――――!!いや~、まさかここまで当たるとは。Aさんじゃなくて俺が超能力的な物を持っていたのかもなぁ。普段はウンともスンともいわないのに!!スクラッチの番号とかが分かれば最高にありがたいんだけどな。まぁ、それに今回分かったのは推理小説を読んでいたからかも。ほら、本屋大賞受賞したやつ。あれ、面白かったな。」
A「あれ読んだんですか!私もずっと気になってたんです!!いいな~。じゃあSさんは探偵の方が近いかもしれませんね笑。」
S「そうかもね笑。もし良ければ今度来たときに貸すよ!でも、次来るまでにはその怪我治して来るんだよ!防犯も、何も起こって無いんだしこれを気に片付けていつも通り過ごしてみても良いんじゃない?」
A「本当ですか!!ありがとうございます!!防犯対策は、あの後すぐ画鋲もまきびしも片付けました!もう同じ目に遭うのはこりごりですからね笑」
――――
S「それじゃ、お会計はっと。3,322円になります!あまりにも可哀想だったから、少し”まけ”といたよ!」
A「そんな、良いんですか!・・・ありがとうございます。こんなに優しくしてくれるなんて、Sさん様々です!!いや、S様!!」
S「そんな恐れ多いなぁ~笑ま、とにかく次ぎ来るときにはちゃんと治してきてね!お大事に!!」
A「はい、ありがとうございました!」
S「ありがとうございました!また来てね~!」
A「ふふ、Sさん。いい人だったな。」
A「――ん?なんか胸ポケットに違和感。――あ、あぁ!!鍵!?!?こんなとこにあったのかぁ~~!!もう、私ったら入れっぱにしたまま忘れてたんだ。全く・・・」
――――
目覚まし時計「ピピピッ!ピピピッ!ーーカチャ。」
A「ふわぁ~。んん゛~~!!よく寝た~。・・・ん、なんか焦げ臭い?・・・ふふ、ま、いっか!」
A「そろそろ髪も長くなってきたし、また美容院に行くかぁ~。Sさんいるかなぁ~。」
A「――あっ、もしもし」
T「はい、こちら○○カットサロンです。」
A「あ、いつもそこでカットさせていただいてるAです。今回もカットをお願いしたくて・・・それで、その、できれば担当をSさんにお願いしたくて。」
T「Aさんか!いつも来てくれてありがとうね!Sさんかぁ~・・・つい最近辞めちゃってね~。もういないのよ。ごめんなさいね。」
A「えっ、もうSさんいないんですか!?辞めたって、なにか、ご病気とか・・・」
T「いやぁね、全然そんなんじゃ無くて。火傷で手をやられちゃったらしくて。なんでも、本人が言うには揚げ物中に手が滑って――らしいわよ。じゃあ治るまで案内とかの仕事任せるわって言ったんだけど、頑なにもう辞めたいって言うの。私、急に言われたからびっくりしちゃって!S君にはずっといてほしいと思っていたから、引き止めようとも思ったんだけど、物言いがとても深刻そうだったからそのまま・・・。何かショックなことでもあったのかしらね。」
A「・・・そうですか。じゃあまた、今度にしようと思います。ありがとうございました。失礼します。」
A「――Sさん、すぐ会いに行くね。」
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