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折り目のフォトグラフ

1. 傷をつける写真  極めて個人的な話になるが、僕は中学二年の頃に祖父をなくした。そしてその後——高校三年生の ときの夏、僕は祖父の家から、祖父の若い頃の写真を大量に見つける。「倉庫を片付けるから手伝ってくれ」と言う父の頼みを聞いて、祖父母の家の倉庫を片付けていたときのことだった。——高校時代、祖父が野球部に所属していたときの写真や、祖母と結婚したばかりのときの写真、友人らと温泉旅行に行ったときの写真。——たくさんの写真が見つかった。僕はその日のことを強烈に覚えている

    • プールとジャズ -装飾と生活‐

       僕の家には、小さい頃からアンリ・マティスの「イカロス」のレプリカが飾られてあった。二階の自室の前に飾られていた、縦30㎝横20㎝ほどの小ぶりなこのレプリカは、幼い頃からのお気に入りだった。それは、大きな壁におさまりよく飾られ、天窓から差む光を鮮やかに反射していた。  小学校に上がる際に自分の部屋をもらった僕は、学校から帰って部屋に駆け込むときも、夕食を食べに一階のリビングに降りていくときも、友だちと遊びに外に出かけていくときも、ずっとこの「イカロス」を目にしていた。「イカ

      • 風邪のクリオネ

        ——2020年2月22日、名古屋市美術館、常設展。 一階の常設展の会場に足を踏み入れると、すぐにクリオネの学芸員が僕に話しかけてきた。彼女はクリオネらしく半透明でふわふわと浮いており、小さくてとても可愛らしい。 彼女はマスクを着用していた。トレンドの病いのせいだろう。マスクは耳にかけられているわけではないようだ。しかしゴム紐はしっかりと顔の横まで伸びている。見えていないだけでクリオネにも人間のような耳があるのかもしれない。——彼女は言った。 「今日はおひとりですか」

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