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孫大輔『うちげでいきたい』2022年

町の人と映画を作ること・見ることが健康につながるのではないか、という想いから制作された地域映画『うちげでいきたい』を見た。地域における在宅看取りを題材とし、鳥取大学医学部の教員である孫大輔が監督をつとめている。上映日は2022年4月3日。場所は、なかやま温泉・生活想像館わくわくホール。

「演じること」についての物語だが、映画そのものが演技をしているように感じた。フィクションの映画において、役者が演じることは至極当然と思われるかもしれないが、『うちげでいきたい』では、脚本執筆やそれ以前の企画の段階から「演じること」が行われている。

この映画を見る人は誰か。どのような気持ちで見るのか。見ることでどのような変化が起きるのか。作中、祖母を看取る女子高生をはじめとして、幸福な最期を迎えてもらうために演技をする家族の表情と、観客に向けてどこまでも優しい物語を語り続ける映画の表情が、重なり合って見える。とても大きな期待と責任を背負った映画だ。

実際に見てもらえば分かることだが、この映画には、完璧な演技を志向しながらも、常にその演技がバレてしまうことへの不安がある。あるいはバレてしまうことへの密かな期待がある。「下手な演技」によって嘘偽りのない想いが相手に伝わることへの、ささやかで甘美な、別の言い方をすれば甘えや弱さでもあるような期待が。

映画は、祖母が不在の時間も描き出す。そこで家族は演技ではない、素の姿を曝け出している……はずなのだが、そうした素の姿、裏の顔も、この物語の登場人物たちはどこまでもチャーミングで優しい。人間なら誰しもが持つはずの仄暗い感情は、ほぼ画面外に追いやられている。それは医師であり映画監督でもある孫の切実な願いなのかもしれないし、この映画が与えられた役割を全うするための二重の演技なのかもしれない。

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