ざまぁねぇ

今から半年以上前、今年の一月にお父さんが死んじゃいました。

その時の話をします。

なんとなく今まで寝かせてたのは、死んですぐ書くってのもなーと思っただけで深い意味はありません。

んで、なんで今日かって言うと今日は地元のお祭り「八郎祭り」が三年ぶりの開催だったんです。

そのステージに立っている時、ふと「三年前に呼んでもらった時は、おばあちゃんも生きてて見に来てたっけな」と思ったからです。

あと、お盆だし。


あ、先に言っておくと別に悲しい話がしたいんじゃないんです。

可愛そうに思って欲しいワケでも無くて、ほんとにただの思い出話がしたいだけなんです。


一般的に「父親が死んだ」っていうと、スゴイ大事件なんでしょう。

たまにこの話をポロっとすると「それは……お気の毒に」みたいな空気になってしまって「いや、全然平気なんですよ?」って言うと「うん……大丈夫だよ?そんなに強がらなくても。」みたいになっちゃうから、あんまり人にはしないようにしてます。


ウチのお父さんはホントにろくでもない人でした。

それこそ記事にするような事では無い話は沢山ありますが、ホントにヒドイ人でした。

嘘つきで、見栄っぱりで、短気で、酒癖が悪くて。

倒れて身体が動かなくなる日まで酒とタバコを続けて、身体が不自由になってからもおばあちゃんに偉そうな態度をとっていびっているような人でした。

文字にすると余計にろくでもないですね。

だからホントに「天に召された」とか「天国に旅立った」とかじゃなく、「死んじゃった」って感じが似合う人でした。


子供の頃は恐怖の対象でした。

自分が大人になってからはだんだん哀れに思ってきてなんの感情も湧かなくなってきました。

特に恨みはありませんが、一度も誇りに思った事はありませんでした。


そんな父さんがいよいよ先が長くないと聞いたのは去年の年末辺りでした。

東京に住んでいたら確実に会いに行かなかったと思うのですが、なんの因果か秋田に移住してきているナイスタイミングだったので妹と二人で顔を見に行くことにしました。

コロナ禍の病院での面会は家族でも時間制限が設けられていました。

もう先が無いと医者にも言われている人に感染リスクも何もないだろとは少し思いましたが、もともとそんなに長居する気も無かったので別にいいかと思いました。

病室に入ると、ベットには昔の見る影もないくらい細くなった父さんが体中に管を通されて寝ていました。

僕の思い出の中にいる父親は、180㎝90㎏で色黒で角刈りで、理不尽を力で解決する悪しき日本男児の象徴みたいな人だったので、そのギャップに思わず笑ってしまいました。

最後まで吸っていたタバコのせいでしょう。喉に穴を開けられて自力で話す事も出来なくなっていました。

筆談で「○○は?」と弟が来ていない事を聞いてきました。

弟は僕と違って繊細なので、来たがりませんでした。

「仕事なんじゃん?」と答えました。

それから僕に「仕事は?」とか「レギュラーはあるのか?」とか、偉そうな質問をギリギリ読めるくらいの震える字で聞いてきて、また少し笑えました。

人の心配なんか出来る状態かよと思いながら「まあ何とかやってるよ」と少しカッコつけて答えました。

同じように妹ともやりとりをしたあと、何やら長文を書き出しました。


上手く力が入らないであろう手で何とか書いた文はホントに読みづらくって仕方なかったけど

「わるいちちおやだったな。さいごはこのざまよ。」

ホントにざまぁねぇよ。そう答えながら僕は泣いていました。


今でもなんで自分が泣けたのか全く分からないし、なんの涙だったのか分かりませんがとにかく泣いていました。

さらに続けて「でも、くいはない」とか書くもんだから、それには内心「何最後の最後までカッコつけてんだよ。そういう所がダサいんだよ。」と、また笑ってしまいました。

確かに良い父親では無かったと思います。

でも、それが悪い父親だったかどうかは自分にはわかりません。

面会時間終了のキッチンタイマーみたいなのが鳴って、病室を後にしようとすると父さんが手をパタパタするから近づいてみたら、ぐっと押し返されて「もう帰れ」とい意思表示されました。

僕らは呆れるように笑いながら病室をあとにして「何あの人、最後の態度」とか言いながら「父さんらしいね」と言い合って帰りました。


火葬の日。

僕は黒い襟なしのシャツに黒いコートを羽織って、黒マスクに黒いマスクチェーンを付けて、めちゃくちゃカッコつけて行ってやりました。

なんとなく。


最後に。

色々不謹慎に思った方がいたらスミマセン。

アナタはきっと良いお父さんに育てられたのでしょう。

僕にとってはこの悪い父さんが一番の良い手本でした。

父さんは最後まで「ごめん」と言いませんでした。

だから僕も「ありがとう」とは言いませんでした。

でも、それじゃああの人と同じレベルなのでココで言わせて下さい。

ありがとね。じゃあね。

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