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「歴史は繰り返す」アプローチで未来を予測する方法 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.789


特集 「歴史は繰り返す」アプローチで未来を予測する方法〜〜〜SFプロトタイピングが注目されている理由(2)



未来を予測するにはどのような方法があるのか? SFプロトタイピングが近年、注目を集めています。SF作家の想像力を活用し、未来の事業や製品などのアイデアを考えようというものです。


そのひとつの方法として、わたしは「歴史は繰り返す」というアプローチを以前から主張しています。未来への想像力を持つためには、人類の歴史でいったい何が起きてきたのかという過去の事例を見ることも大事だという考えです。


ひとつの例として、20世紀に起きたライフスタイルの変化を挙げてみましょう。


20世紀のさまざまな変化は、19世紀終わりに爆発的に発生したさまざまな技術革新に源流があります。ガソリンエンジンや電気、水道。この19世紀終わりの技術革新は、18世紀にイギリスで起きた蒸気機関による産業革命に続くものとして捉えられていて、「第2次産業革命」とも呼ばれています。


この第2次産業革命が面白いのは、開始した正確な年月日があることです。それは1879年。日本では明治12年です。この年、エジソンが白熱電球を発明し、ドイツの会社シーメンスが電気で走る鉄道を初めてテストし、そしてベンツが新型の2ストロークエンジンの特許を取りました。1879年は、一気に技術革新が起きはじめたた記念碑的な年なのです。


数年後には電話、映画、音楽を再生する蓄音機が発明されます。また家庭にきれいな水を流す水道は、アメリカでは1870年代からの30年間で一気に普及しました。そして20世紀に入ると、さらにさまざまな発明が爆発的にやってきます。エレベーター、家電、自動車、トラック、飛行機、高速道路、スーパーマーケット、下水道、郊外に住むという文化。そしてテレビ、エアコン。


このように並べてみるとわかりますが、21世紀のわれわれの生活は近年のコンピュータやインターネットなどの情報技術を除けば、「第二次産業革命』の産物にほとんどを負っているということです。


さて、ここで注目すべきポイントは、これら新しい技術は19世紀当時の人たちにはどう受け止められていたのか?ということです。


たとえば電気。19世紀前半に電気が利用できるようになった時、最初は街灯の電源ぐらいにしか使われていませんでした。灯りにする以外に何の用途があるのかだれもわからなかったのです。


モーターやトランジスタなどが発明されて、電気がいろいろなことに使えることがわかってきたのはかなり時間が経ってからでした。たいまつやガス灯よりも明るい電灯ができたと喜んでいた19世紀の人には、洗濯機や冷蔵庫、さらには電子レンジやコンピューターやEVなどが登場してくることは想像を遥かに越えたことだったのです。


電気の供給の仕組みにも注目してみましょう。電気が登場した最初のころは、電気を動力として導入したさまざまな工場は自前で発電機を用意し、工場敷地内に電力線を引いて自家発電してまかなっていました。


ところがエジソンの設立したGE社は巨大な発電所を作り、ここから全米各地へと電力網を使って配電する仕組みを作りあげたのです。これによって徹底的に電力コストを下げることに成功し、各地の工場にあった私設発電所は徐々に姿を消し、外部の電力を使うといういまの仕組みが標準的になっていったのです。


国土の津々浦々を網羅する電力網によって、大きな工場だけでなくオフィスや住宅でも電気を使うことが可能になりました。その結果、冷蔵庫や洗濯機などの電機製品が一気に普及し、さらに電子レンジやテレビやラジオなどの新しい機器が広まる土壌がつくられたといえるでしょう。

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