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AIはあらゆるものを最適化し、人間のマネジメントや勘を代替していく 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.792

特集 AIはあらゆるものを最適化し、人間のマネジメントや勘を代替していく〜〜〜生成AIがもたらす三つの方向性を解説する(3)



生成AIがもたらす可能性について、本メルマガのこれまで2回で「人間の雑用をこなすようになる」「人間が機械を操作するインタフェイスが、GUIから音声とジェスチャーに代替される」という二つの方向について論じてきました。今回はその3つめである「あらゆるものを最適化する」という方向性です。


この方向性の試金石となるであろうケースは、無人タクシーです。日本では完全自動運転のタクシーはまだまだ未来の話という受け止め方でしたが、昨年春に道路交通法が改正されて、レベル4の自動運転車がナンバーを交付できるようになりました。


ちなみに自動運転にはレベル1〜5があり、レベル4とレベル5は、ドライバーの存在がまったく不要な自動運転。4と5の違いは、4が「特定条件下で」という但し書きがつくのに対して、5は何らの条件や制限などなく、路地裏だろうが大雨だろうが大雪だろうが、どこでも自動運転が可能になるものです。今のところ世界のどこでもレベル5は実現しておらず、日本では2027年にレベル5の実証実験が予定されているという段階です。


現在のところ米国や中国などで実用化しているのはレベル4。これが日本でも実用化段階に入っており、再来年の2026年にはホンダとGM、その子会社のクルーズ社が提携して東京都心で無人タクシーの運行をスタートさせると発表しています。


自動運転の技術が進み、安全性が認識され、一般社会に受け入れられるようになっていけば、いずれ有人タクシーから無人タクシーへと切り替わっていき、全面的に代替される未来が見えてくるでしょう。そうなったときに、タクシーという公共交通システムは何が変わるのでしょうか?


現在のタクシーがどのように運行されているのかを考えてみればいいと思います。基本的には、タクシードライバーのスキルやノウハウなどの能力に頼っている面は大きいのでしょう。「稼ぐタクシー運転手」という話題はよく目にします。


よく指摘されるのは、タクシードライバーの「情報力」が大事ということ。その日の天気や渋滞情報だけでなく、たとえば大型ホテルのチェックアウトの時間や空港、駅などに観光客や出張の人がたくさん集まる時間などを把握している。さらにはイベントがどこで開かれていて、いつ終わるのかといったことや、新幹線などの遅延などまで考慮するそうです。また主要駅からのバスの終電時間を頭に入れていて、終電終わった後ぐらいに駅に駆け付けるという技も。


そして近年は、はGOやS.RIDEなどの配車アプリがかなり普及してきています。



この記事にはこう書かれています。「タクシーは流しで客を探すことも多く、天候や時間帯によってたくさんの客がいる場所を予想することが重要。どの車線を走るかなどのノウハウも大切だ。経験豊富な運転手ほど有利というのがこれまでのタクシー業界の常識だった」


しかし現在は乗客の3割ぐらいが配車アプリ経由に。日の丸交通の富田和孝社長が以下のようなコメントを寄せています。「配車アプリの導入によって、タクシー業界は間違いなく働きやすくなっている。流しで必要だった経験やテクニックの不足を補えるようになり、効率的なマッチングで空車時間を減らせるので、新人のドライバーでも高パフォーマーになるケースが増えてきている」


この配車アプリの方向の先に、無人タクシーの運用があります。タクシードライバーの暗黙知的なノウハウに頼るのではなく、アプリの側がタクシーの配車を最適化していくのです。そしてこの計算には、深層学習をベースにしたAIが非常に有効だと言われています。


「巡回セールスマン問題」をご存知でしょうか。地図上にランダムに複数の地点を設定したとき、セールスマンがそれらを一度ずつ巡回してスタート地点に戻ってくる最短経路はどのようなものなのか、という数学の問題です。一見かんたんなように見えますが、20地点とか30地点になると計算は非常に複雑になり、現在のコンピューターでも計算には天文学的な時間がかかります。しかしこれに深層学習を用いると、ある程度の近似解は得られるようになるとされています。


東京では多くの人々が日々タクシーで移動していますが、都心の駅には空車が密集し、郊外にはほとんど走っていないという最適化されない状態になっています。これを客がどこでタクシーを乗り、どこで降り、そのあいだの渋滞や道路状況はどうだったのかというようなデータをたくさん集めてAIで分析すれば、ある程度は客の乗車場所と下車場所の予測が立てられるようになるでしょう。その予測をもとに、自動運転のタクシーを運行させれば乗車の時間待ちは減り、かなりの最適化ができるようになります。


これは非常に高度な都市運送システムの実現です。数秒から数十秒で空いている無人タクシー到着し、目的地までそのまま運んでくれる。現行のバスやタクシーは不要になり、それどころか自動車の所有という概念も消滅するかもしれません。空車を探す手間がなくても目の前にタクシーが来て、公共交通機関なみの料金で目的地に連れて行ってもらえるようになるのなら、わざわざ高い駐車場代や自動車税、車検代などを払ってマイカーを維持するインセンティブが薄れるからです。自動車の所有はお金のかかる趣味になり、運転そのものもいずれはレース場など一部の限られたエリアだけで許される日が来るかもません。


自動運転車は路面からワイヤレス充電されて走り続け、乗客を下車したあとはすみやかに別の客をピックアップ。どうしても空き時間ができるのであれば、郊外の広い駐車場にすみやかに移動させ待機させられます。これは車道中心に組み立てられている現行の都市の構造を、根底から変えることになるでしょう。


自動運転車は、軌道を走る鉄道に近い存在です。仮想の軌道の上を、仮想の連結によって車列として走ることができるのです。人間の運転者のように左右にふらつくことがないので、車線の幅に遊びは今ほど必要なくなります。「ドライバーレスの衝撃—自動運転車が社会を支配する」(小林啓倫訳、白楊社)という書籍で、著者の交通専門家サミュエル・I・シュウォルツ氏は、「現行の幅11メートルの3車線道路は、白線を引き直すだけで自動運転車専用の4〜5車線道路に生まれ変わらせられる」と指摘しています。加えてガードレールや中央分離帯なども不要になり、さらに都市部にいまはたくさんある駐車場を大幅に減らすこともでき、都市のインフラコストは大きく低減できるでしょう。


さらに運行が最適化されれば、走る自動車の総数も減らすことができ、理論上は渋滞もほぼなくすことができます。都市を自動車で移動することで私たちが感じるイライラがなくなれば、社会全体の生産性も上がります。このようんま好況交通機関としての自動運転システムこそがモビリティの未来なのです。このような自動運転の巨大システムの中核となるのが、AIなのです。

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