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うっかりクソリプ投稿をしてしまわないための視点とは 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.812


特集 うっかりクソリプ投稿をしてしまわないための視点とは〜〜〜マスコミとネットと政治の関係の未来を考える(4)



クソリプの構造を解析していくという壮大な目標の本シリーズ。前回は、何かの発言をする際に、その発言の考察の解像度が高いか/低いか、視点がマクロ(鳥の視点)か/ミクロ(虫の視点)かという二つの軸でマトリクスを描くということを解説しました。


A)マクロの視点/解像度が高い

B)ミクロの視点/解像度が高い

C)マクロの視点/解像度が低い

D)ミクロの視点/解像度が低い


たいていの人の視点は、ミクロです。でもこれは必ずしも悪いことではありません。日本には職人的な気質や現場感覚を大事にするという気風が昔からあります。



上記の記事には、キッザニアについてのこんな話が紹介されています。


「日本のキッザニアには職人やブルーカラー労働が子どもたちが体験できる職業として用意されているのですが、韓国にはそれはないのだそうです。かわりに外交官とか国連職員とか、そういう仕事が用意されている」

「日本では、大学を卒業した人が、パン屋やケーキ屋を始めたとしても大して驚かれないと思うのですが、それはもしかしたら世界的にはあまり当たり前のことではないかもしれない」


知識人と権力が一体化し、知識のあることが権威になってしまっていることへの反発を反知性主義と言います。アメリカでは熱狂的なキリスト教への帰依が知識人に対抗する軸になっているのですが、上記の対談でも言及されているように、日本のこういう職人気質を尊ぶ気風は反知性主義のひとつのかたちと言えるかもしれません。


この背景には、日本の一般労働者が平均して能力が高いということがあります。古い調査ですが、2013年のOECD調査でも裏付けられています。



「報告書によると、日本の25~34歳の中卒者は、スペインやイタリアの同年代の大卒者よりもはるかに高い読解力を持っていることが分かった」「数的思考力でも同様に、日本が他を圧倒した。基本的な和算に困難があることを指すレベル1以下は、日本ではわずか8.1%だったが、フランスでは28%、イタリアとスペインでは30%を上回った」


とはいえ、職人気質には厄介な問題もあります。職人はひとりひとりの能力を高め、手先指先の繊細さを極限にまで高めることによって、精密なモノをつくる能力です。あらゆる道具は、職人の手先指先を拡張させるために存在しているのです。


しかしこのような姿勢は、2000年代以降にやってきたテクノロジーのプラットフォーム化の流れとは相容れません。プラットフォームとはシンプルに言ってしまえば、テクノロジーを手先の道具ではなくすべての土台となる基盤にすることによって、その基盤の上では高度な技を駆使しなくてもさまざまな活用ができるようにするというものです。テクノロジーに対する向き合い方において、職人仕事とは対極にあると言って良いでしょう。しかし2000年以降の産業は、あらゆる分野がプラットフォーム化しています。これが日本の職人器質的な産業界とうまくかみ合わず、日本の産業界の衰退につながったとわたしは捉えています。


話を戻しましょう。本稿の目的はプラットフォーム化の話ではありません。これまで書いてきたように、日本は職人的な気風がすみずみにまで浸透した社会です。職人はテクノロジーを手先を拡張する道具として使い、つねに目はミクロで精細なところに固定されています。プラットフォーム思考がマクロ的なのに対して、職人思考はミクロ的なのです。


このミクロ的な視点は、自分のよく知っている分野について語るときには非常に有効に作用します。コンビニ店長が、コンビニの流通や労働について語るときには、実に詳細に奥深く説明することができる。長距離トラックドライバーは物流について深い理解を持っていますし、農業に携わっている人は播種や草取りなどについて実にこと細かに自分の仕事を描くことができます。だれもが自分の仕事には誇りを持っていて、専門性を磨くことに余念が無いのです。


そういう投稿が縦横無尽に現れるSNSを眺めていると、「実にこの国は職人気質的な深い専門性のある人たちで構成されているのだなあ」とわたしはいつも感嘆するのです。これが冒頭のマトリクスにおけるB「ミクロの視点/解像度が高い」という人たちの実相です。


いっぽうで自分の専門分野の外側については、解像度の高いことが言える知識を持っている人はいません。でも職人気質の人は、そういう専門外のことについても、同じようにミクロの視点で語ってしまう。わかりやすい例を挙げると、教育問題がそうです。日本人のほとんどは義務教育を受けているので、子どもがいなくても自分の経験というミクロの視点から教育を語ることができてしまう。

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