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自分の仕事に「セルフコントロール権」を取り戻そう 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.817


特集 自分の仕事に「セルフコントロール権」を取り戻そう〜〜〜令和時代は「時短料理」から「気持ちいい料理」へ(4)


「仕事と生活とのあいだのバランスをとりましょう」というワークライフバランスは、仕事と生活が相反するものであるという概念がベースにあります。しかし仕事と生活はもっと融合していいのではないかという考えかたもでてきていて、ワークライフバランスに対してワークライフインテグレーション(仕事と生活の統合)やワークインライフ(生活の中に仕事があると捉える)という用語も出てきています。


「仕事とは辛いものである」という前提であれば、「仕事と生活の統合なんて、いったい何を言ってるんだ!」と怒る人が出てくることも予想されます。たしかに現状の日本社会のしごとは辛いことが多い。とはいえ、平成時代の象徴だったブラック企業/ブラック労働はだんだんと終焉を迎えつつあり、令和はホワイトな時代になってきているのも事実です。ホワイトすぎて、逆に「仕事を覚えられない」と若手社員が不満を持つ程までになっている。


そもそも、仕事は人間にとっては大事なものです。働くことによって、わたしたちは「自分は社会に貢献している」という実感を得ることができる。自分が存在している価値を感じることができる。働くことで、健全な承認欲求を満たすことができるのです。いくら大金持ちになったからといって、働くことをやめてしまったら、たいていの人は苦しくなってしまいます。社会になんの価値も提供しないまま、ただ野放図に生きることができるようには人間はできていない。それは人間が社会的動物であるがゆえの宿命です。


1990年代末から日本でもたくさん起業家が輩出されるようになり、それらの中でも実力があり運も良かった人たちは、株式公開や売却などで数億から数十億ぐらいの多額のお金を手にしました。そのまま経営者を続けた人もいれば、連続起業家に転じた人もいます。投資家に転じて、投資家と言いながらもエンジェル投資で積極的に若者を支援するのでもなく、カネ儲けの情報を知人などからゴルフ場で得ては投資に邁進している人たちもいます。そういう人たちを私は何人か知っていますが、実のところあまり楽しそうではありません。社会に積極的に価値を与えてる実感が乏しいからではないかと思います。


いっぽうで働いて社会に価値を与えていても、働くことが楽しめない人たちもたくさんいます。ブラック労働がその典型です。ではなぜ、ブラック労働は楽しくないのでしょうか?


「そんなの当たり前だろう、あんなに長時間働かせて!」とお怒りの声が聞こえてきそうです。おっしゃる通りかもしれません。しかしスタートアップの起業家などで、1日20時間ぐらいも働いているような人は珍しくありません。わたしはそんなには長時間働いてませんが、朝6時に起きていきなりメールチェックとか記事の情報収集とかを始めたりしています。日曜日や休日は打ち合わせがなく仕事のメールが来ないのをいいことに、一日じゅう書籍の執筆に没頭したりしています。これらはブラック労働でしょうか?


違いますよね。起業家の労働やわたしの週末は、決してブラック労働ではありません。「好きでやってるからそうなんだろう」という声が聞こえてきそうですが、好き嫌いの問題だけではありません。起業家やフリーランスには、好きじゃないけどやらなければならない仕事もたくさんあるのです。


ブラック労働と起業家やフリーランスの仕事を分けるのは、好き嫌いではなく、「セルフコントロール権」の有無です。自分の仕事時間や仕事量を、どれだけ自分でコントロールできるかどうかということです。起業家には上司がいないので、自分の時間を好きなだけ仕事に使うことができます。1日20時間働いていても彼らがつらいと感じないのは、自分の仕事時間を自分でコントロールできているからです。


さて、新型コロナ禍でリモートワークが増え、ある程度は制度化して定着してきました。「通勤しなくてすむので楽」「子育てしながらでも仕事ができる」というのはリモートワークの大きなメリットですが、もうひとつ大きなメリットとしてわたしが捉えているのは、リモートワークによって「仕事時間を自分でコントロールしやすくなった」ということです。


企業の中には仕事のPCに監視ツールを組み込んで、本当にパソコンに向かってキーボードやマウスを操作しているかどうかまで管理しようとしているところもあるようですが、日本人はたいてい真面目なので、そんなツールなど入れなくてもみんな一生懸命仕事するのです。「近くで目を光らせておかないと部下はサボる」というのは管理職の人が陥りやすい思い込みでしょう。


リモートワークの日に定められた労働時間が8時間あり、求められた成果が明示されているならば、日本の標準的な会社員であればこの8時間を有効に使って成果を着実に出すように自分のタスクを組み立てることができるでしょう。日によっては8時間で足らず残業がはみ出ることもあるでしょうが、逆に8時間をびっちりタスクにあてなくても、多少の余裕が出る日も当然出てくる。そういう時に、成果を出すことに影響が出ない程度に、料理や家事をうまく組み込むことも十分に可能なはずです。実際、新型コロナ禍でリモートワークが始まってから、「仕事をしながら料理の下ごしらえをした!」といった投稿をたくさんSNSで見るようになりました。

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