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「世界の見え方ががらりと変わる本」を21冊、一気に紹介しよう 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.745

特集「世界の見え方ががらりと変わる本」を21冊、一気に紹介しよう〜〜〜「読む力」をつけるための新年度ブックガイド


昨年刊行した『読む力』はおかげさまで、かなりのベストセラーとなりました。この本ではドストエフスキーの古典的な名著『罪と罰』を題材にして、この小説が持っている「知」をどう自分自身に取り込んでいくのかということを解説しています。しかし刊行後に「もっと他の本も紹介してほしい」「どんな本を読めばいいですか」という読者の皆さんの声をたくさんいただいています。


そこで今回は、「読む力をつけるためのブックガイド」をお届けです。実はこの選書は、とある書店に依頼いただいたオススメ本コーナーに選んだものと同じなのですが、紹介テキストをここではかなり詳しくしています。


視点を多様にもち「こんな見方があったのか!」と驚けることが、情報をコントロールする「読む力」にもっとも大切な体験だと考えています。その斬新な感覚を味わっていただけるような本を選びました。なお以下のリンクはすべてKindle版です(紹介した本がすべてKindleで出ている!電子書籍化が進んでいることを本当に嬉しく感じます)。


チャッターとは、頭の中に湧き出てきてしまうネガティブな思考と感情のことを指している。この厄介な「ひとりごと」の悪循環がわたしたちの精神をいかに害するのかをあらゆる方面から分析していて圧巻の本。特に、SNSでの他者からの共感が必ずしも良いものではなく、このチャッターを増幅させてしまうのだという指摘は眼からウロコだった。「そうですよ、あなたが悪いんじゃない。全部あいつが悪いんだ」みたいなことをSNSで言い合って、結果としてえらく攻撃的になっていく人たちを見かけることが多いのは、そういうことかと納得。そして本書に呈示されている解決方法も非常に立体的かつ構造的で、腑に落ちまくった。



「教養」というものが本来の意味から外れ、「ビジネスに役立つ」というものに変化している。最近は従来パターンの自己啓発が売れなくなったこともあってか、「教養を仕事に役立てよう」というようなビジネス本がやたらと目立つようになっている。「教養があれば欧米人と商談するときも有利だ!」とかそういうの。これを「ファスト教養」と名付け、新自由主義の台頭と重ね合わせているところが非常に秀逸で面白い展開だった。ビジネス教養ブームにモヤモヤと感じていたものが言語化されている。



映画にしろ小説にしろ、「物語」はとても大切なものだと通常考えられている。しかしその通念をひっくり返し、物語こそが私たちの社会を分断させているのだと指摘する刺激的な内容。その分析を太古の狩猟採集時代の共同体から説きおこし、狩猟採集時代の100〜150人の共同体では仲間を分裂させる者、そして共同体の外部の者が「敵」だった。この敵と共同体内部の味方に分け戦いを描くことが、人類のそもそもの物語の発祥だったという。たしかに神話をベースにしているハリウッド映画には、そういう構造の物語が非常に多い。「ハリーポッター」シリーズが英米のポリコレの闘争心に火を点けているというような話もあり、ウムウムとうなずける。非常に気づきの多い本である。



なぜプーチンはあのような無謀な戦争を引き起こしたのか。その根底の民族意識を根底からわかりやすく解き明かしている。海に守られる日本と異なり、無限に広がる平野に囲まれていると領土に対する感覚がまったく異なるという話が興味深い。だからロシア人にとっては、領土や国境というのは固定的なものではなく、つねに奪ったり奪われたりする可変なものであるという意識。だから北方領土を日本に返すわけなどないというのは、驚くとともに納得の解説だった。ロシア関連本はたくさん読んだが、歴史や民族性にまで踏み込んでロシア人への理解がこれほど深まる本は類を見ないと思う。





近年の日本の漫画の進化はすさまじく、まったく新しい世界観をもった傑作が次々と現れてきている。かつての少年マンガが「熱血と友情」というような比較的シンプルな物語が多かったことを思い起こせば、隔世の感があるほど。『チ。』は不思議なタイトルだが、15世紀のヨーロッパを舞台に、異端として排除されながらも地動説という信念に従って生きる人たちのドラマを描いている。まさか地動説がアクションものの物語になるなんて想像もしていなかった。



これは実に衝撃的な本である。イヌやウマをパートナーとする動物性愛者という人たちがヨーロッパにはそれなりの数いるらしく、彼らに実際にインタビューした内容をまとめたノンフィクション。そもそもそんなテーマで本を書こうと思ったのが凄すぎるし、取材に応じてるヨーロッパ人たちがいることにも驚愕する。日本にもいるのかもしれないが、こんな風にインタビューに応じる人がいるとも思えない。かなりキワモノだが、単なる興味本位ではなく、性や愛に対する価値観の天地がひっくり返る衝撃をもった深い内容。



言わずと知れた大ベストセラー。わたしたちの思考や発言や議論は、たいていの場合ステレオタイプな通念や勝手な思い込みに塗れているということを世に知らしめた本である。この本を読むと、本当の現実とは何かということを強烈に突きつけられてくる感覚を気持ちよいほどに味わえる。「ファクトベースで」とは良く言うが、そのファクトがこんなに奥深いとは!と感動するばかり。



呼吸についての研究は、欧米では意外と少ないのだという。そこでジャーナリストが「呼吸の科学」を追い求めてさまざまなインタビューを重ね、調べていく。この本によると、本来の人間の呼吸は口ではなく、鼻呼吸だったという。実際、古い記録によればアメリカ先住民族には口呼吸をいっさい行わず、子どもに鼻呼吸をしつけて大人になっても鼻だけで呼吸する一族があり、彼らは非常に頑健だったとか。どこまで信じて良いのかは保留付きだが、こういうエピソードがたくさんあって興味が尽きない。読了してわたしもさっそく就寝時やランニングなどで鼻呼吸を実践するようになり、非常に内容に腑に落ちた。なんて健康的で快適なんだろう、と。こんな身近なところでも、見事に常識をひっくり返されることがあるのか!



「共感する」という言葉ほど、SNSの時代にポジティブに語られるものはない。SNSには「寄り添う」「共感する」ということばが溢れていて、みんなが共感されること、共感することを求めている。逆に、このことばにネガティブな印象を抱いている人はほとんどいないだろう。ところがこの本はその印象をひっくり返し、共感が持っている危険な側面をあらわにしてくれる。ウクライナ侵攻には欧米でも日本でも多くの人が心を痛めているのに、なぜシリアの人々にはあまり目が向かないのか。それはウクライナ人はヨーロッパの一部であり人々が共感しやすいが、シリア人は自分の文化から遠すぎて共感しないからだ。これを本書は「共感のスポットライト効果」と呼ぶ。スポットライトに当たったところにしか共感は届かないという冷酷な現実。わたしたちが容易に信じやすいことを、ことごとくひっくり返していく快感に満ちあふれた本。



古代ギリシャ・ローマ時代に盛んだったストア哲学を、現代に甦らせる本。ストア哲学ではいろんなことが語られているが、現代人にいちばん刺さるキモの部分は「自分の意のままにならないことは気にするな」ということだと感じる。たとえば誰か知人や取引先などにイライラさせられても「自分の意のままにならない他者を気にするな」とストア哲学は説く。イライラしてもその人は変わらないからだ。そうではなく「自分の気持ちを変えよ」というのである。「自分が支配できる自分の心だけを制御せよ」というストア哲学の教えを知ったことは、わたし個人にはとても大きな癒やしと希望となっている。



人間の五感や知覚について考える上で、必須の本とも言える素晴らしい良書である。たとえば富士山について、目の見える人々はどうイメージするだろう。たいていの人は、上が白くなった三角形をイメージするのではないだろうか。しかし目が見えない人は、手でじかに触った円すい形の立体をイメージするのだという。視覚のある人のイメージは二次元で、視覚のない人のイメージは三次元。どちらがリアルの富士山に近いのかと言えば答は明らかではないか。つまり視覚のない人は決して「ない人」「障がい者」なのではなく、別の方法で世界を認識しているだけなのだ。そのような話がてんこ盛りで、ほんとうに目を見ひらかされる一冊。


タイトルはなんともキワモノ的で、刊行時は「キリスト教を冒涜している」「AKBをバカにしている」などずいぶん批判もされたと記憶している。しかしすぐれたインターネット論を書いている濱野智史さんのアイドル論ということでわたしは興味を持って読み、たいへん感銘を受けた。アイドルを推すという行為の本質を宗教体験と結びつけていく分析は非常にユニークで、納得感が非常に高い。握手会や総選挙などおなじじみのAKBのシステムを読み解いて、それらの宗教との類似性を浮かび上がらせていく。宗教とは何か、を考える補助線としても非常に学びのある本。



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