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ニコニコ動画の「疑似動画」をクラブハウスのような音声SNSは生み出せるか 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.641

集 ニコニコ動画の「疑似動画」をクラブハウスのような音声SNSは生み出せるか
〜〜クラブハウスと音声メディアの未来(第2回)

 雑談ができる音声SNSのClubhouse(クラブハウス)についての論考シリーズ、第2回です。前回は音声のSNSには大きな可能性があり、これは巨大なブルーオーシャンになるであろうということを解説しました。ではクラブハウスがフェイスブックやツイッターと並ぶような世界的プラットフォームにこのまま発展できるのかというと、そうは問屋がおろしません。

 私は現在のクラブハウスには、潜在的な大きな問題が横たわっているととらえています。それは同期と非同期の問題です。

 同期と非同期の問題はユーザーにはあまり表立っては認識されていませんが、、インターネットが普及してきたころからサービスが常にさらされてきた課題です。これは人と人の一対一のコミュニケーションで説明するとわかりやすいでしょう。

 ネットが普及する以前のコミュニケーションを思い出してください。もっとも原始的なコミュニケーションは、人と人がリアルに会ってしゃべることです。これはリアルタイムでしかありえないので、同期です。そして郵便サービスが登場し、手紙を送りあうという新しいコミュニケーションが登場。これはリアルタイムではないので、非同期ですね。

 ここで同期と非同期の違いを「盛り上がりやすいかどうか」「参加しやすいかどうか」で比較してみましょう。ネット以前のこの2つのコミュニケーションだと、以下のようになります。

リアルのおしゃべり 同期 盛り上がりやすい 参加しにくい(集まらなければならないし、その場に必ずいなければならない)
手紙 非同期 盛り上がりにくい 参加しやすい(遠隔地からでも大丈夫、時間も合わせなくてすむ)

 このように同期は盛り上がりやすいけれど、参加のハードルが上がる。対して非同期は参加しやすいけど、盛り上がりにくいという特徴がありました。さて、そこにインターネットをはじめとするオンラインの時代がやってきます。最初のコミュニケーションツールは電子メール(正確にいえば他にもありましたが、ここでは説明をかんたんにするために割愛)でしたが、これは手紙の代替手段だったので、特徴は手紙とほぼ同じです。

電子メール 非同期 盛り上がりにくい 参加しやすい

 もっとコミュニケーションをネットで盛り上がれないだろうかと、ここでパソコン通信時代なら「チャット」、ネットになってからはインスタントメッセンジャーやチャットツールと呼ばれるようになった、即時的なコミュニケーション手段が登場してきます。

チャット 同期 盛り上がりやすい 参加しやすい

 チャットは画期的でした。同期で盛り上がりやすいのにも関わらず、遠隔地からでも参加しやすかったからです。しかしチャットにも、ひとつだけ参加のハードルがありました。それは「時間帯を合わせなければならない」ということです。4つのコミュニケーションについて、この時間帯の考え方ももりこんで整理しなおしてみましょう。

リアルのおしゃべり 同期 盛り上がりやすい 同じ場所にいる必要がある 時間をあわせる必要がある
手紙 非同期 盛り上がりにくい 同じ場所にいなくてよい 時間を合わせなくてよい
電子メール 非同期 盛り上がりにくい 同じ場所にいなくてよい 時間を合わせなくてよい
チャット 同期 盛り上がりやすい 同じ場所にいなくてよい 時間を合わせる必要がある

 同期は盛り上がりやすいけれど、どうしても時間を合わせる必要がある。これはネットが登場して、同じ場所にいる必要がなくなってからも、ひとつの課題として残り続けました。しかしこの課題に、敢然と挑戦したサービスが登場してきます。それがニコニコ動画です。ニコニコ動画はスマホに乗り遅れたことやYouTubeに食われたことで最近はかなり盛り下がってしまい、「オワコン」扱いされていますが、わたしはこの同期・非同期問題に切り込んだ非常に斬新なサービスだったといまも考えています。

 わたしは2009年に『ニコニコ動画が未来をつくる ドワンゴ物語』(アスキー新書)という本を出したことがあり、当時ドワンゴの社長だった川上量生さんや戀塚昭彦さんなど、ニコニコ動画に携わった人々にかなり長期に渡って取材しました。その当時の取材メモを引っ張り出して、同期・非同期問題についての彼らのとりくみをすこし紹介したいと思います。

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