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「弱者は誰なのか?」論争で考える「鉄道駅員は権力者なのか?」問題 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.800


特集 「弱者は誰なのか?」論争で考える「鉄道駅員は権力者なのか?」問題〜〜〜SNS時代に可視化された「現場の哲学」を考える(1)


ハンバーガーチェーンのマクドナルドで今月、システム障害によって全国の多くの店舗でレジが使えなくなり、スマートフォンによるモバイルオーダーもできなくなってしまうというできごとがありました。新聞やテレビでも大きなニュースとなっています。そうしたニュースでは、障害の内容を解説するのとともに、お客さんの「困りました」という反応を紹介するというのが常道。


たとえばNHK。店を利用した40代の女性の声として「手書きの注文だったのでかなり時間がかかり不便さを感じました。店員も大変そうでちゅう房は人手が足りない様子でした」。また10代の女性の声は「電卓や手書きでも注文は意外とスムーズでした。きょうは、たまたま現金を多く持っていましたが、ふだん使っているキャッシュレスのサービスが使えず少し困りました」


日経新聞には、34歳の会社員男性の声を紹介。「夕飯でテイクアウトしようとしていたが、知らずに驚いた。他の店舗も閉まっているなら諦めて帰ろうかと思っている」


いっぽうで、SNSではこのニュースに対してちょっと異なった反応が出て話題になっています。


「きょうマクドナルド行ったら、システム障害起きたばかりで、現金のみの支払いだったんだけど、あらゆる機能停止してて、手書きで注文まとめて、電卓でお会計して、店員さんコミュニケーションとって口頭でオーダー通してて対応凄かったわ、令和のサマーウォーズって感じ」(Twitterで、ツヨイ![](1f969.svg)![](1f969_2.svg)#2024ymsさん)


このコメントは、ウェブメディアの「まいどなニュース」などにも取りあげられています。こういう「お店側の対応に注目する」という感覚は、けっこう良くあるのではないでしょうか。実際、ECサイトの運用をしている私の知人も、こんなことを言っていました。


「もし自分がシステム保守の担当者だったら、と思うと心臓がドキドキする。今ごろ徹夜でシステム回復のために必死になってるんだろうなあと同情します」


つねにマスメディアの報道の目線は、基本的には「客」の側です。これはあらゆるニュースに当てはまることです。鉄道がストップすれば乗客の目線で報じられ、ECサイトから顧客情報が漏洩すれば、利用者の目線で報じられます。しかしSNSでは、客の目線ではなく「お店の目線」「運用側の目線」で語られることが近年多くなっているようにわたしは感じています。


これは何を意味しているのでしょうか。


この現象を論じるためには、続発している車いす問題にも触れないわけにはいきません。ここからは注意深く書いていかないといけないのですが、わたしはバリアフリー社会を実現させるのは当然と考えており、車いす利用者のかたがたを非難する意図はまったくないので、念のため。


2021年、車椅子の女性がJR無人駅で下車しようとしたところ、「無人駅にはエレベーターがなく、階段しかないのでご案内できない」と駅員に言われたというケースがありました。ネット上では大きな議論になったので、覚えている人は多いでしょう。結果的には駅員が無人駅で待ち受けていて車椅子を手で運び、行き帰りも乗車できたのですが、女性が「JRで車いすは乗車拒否されました」とブログ記事を書き、マスコミにも連絡したことから、新聞などでも報道されるニュースとなりました。


このニュースに、SNSでは反発する人が少なからずいました。これだけをもって「車椅子の弱者に現代社会は冷たい」と批判するのはたやすいのですが、それほど単純な話でもないとわたしは感じました。なぜなら、反発する人の多くが「駅員さんがかわいそう」などとコメントしていたからです。


女性のブログでは、駅員が4人がかりで車椅子を抱え、階段を下りる写真も添付されていました。この写真を見て、車椅子の女性の側ではなく、駅員の側の目線に立って反応した人が多かったということなのでしょう。


JRは巨大企業です。だから「JRが車椅子を拒否した」と報じられると「大企業の権力が弱者を踏みにじった」という印象になります。それは決して間違いではないのですが、しかしJRという企業体を構成しているのは権力の頂点に立つ経営陣だけではありません。現場という末端で働くたくさんの駅員や乗務員たちがいるのです。事故で鉄道がストップしたときなどに矢面に立たされるのは、権力のある経営者でなく、現場で対応に追われる駅員たちです。彼らには権力などありません。


「権力勾配」という最近よく目にするようになった社会運動系の用語があります。このウィズニュースの記事が詳細に解説しています。


「権力勾配」は、明白な上下関係や強者と弱者の関係があることを指しています。しかし「JRと乗客」の関係を考える時に、それを一対一の権力勾配の構図で説明してしまうのは、あまりにも無邪気にすぎるのではないかと私は考えています。


乗客 < JR


上記がマスコミ的な構図ですが、実際にはもう少し込み入っています。ここに駅員さんを入れてみましょう。


乗客 > JR駅員 < JR経営層


駅員は乗客に対しては立場が弱いので、権力としては乗客の方が上です。そして駅員よりも経営層の方が権力はありますから、ここも不等号。そうするとこの三者の構図では、JR駅員がもっとも弱い立場になっていることがわかります。最弱者なのです。


ちなみに昭和のころは、駅員はいまでは考えられないほどに威張っていました。JRになる直前の国有鉄道のころにわたしは大学生でしたが、まだ券売機のないあのころに駅窓口にきっぷを買いに行くと、サンダル履きでだらしない恰好をした駅員に投げるように購入きっぷを放り出されたりしたものです。あらゆるところが乱暴だった昭和時代……。駅員に限らず、昭和の頃はお店の人もだいたい乱暴で偉そうでした。

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