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エンピツを題材に「拡散的思考」を練習するレッスン 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.796


特集 エンピツを題材に「拡散的思考」を練習するレッスン〜〜〜成果を出すためには、とりとめもない思考も大事



「アイデアをどう成果物に結びつけるのか」という昔からの難しい問題。本稿では前回に引き続いて、アイデアから成果物へといたる「思考のプロセス」に注目することで、この難題について解説していきます。


思考には「集約的思考」と「拡散的思考」があります。集約的思考はただひとつに集約していく思考であり、思考の結果として生産があり、原稿や講演といった成果物に結実します。拡散的思考はひたすら広がっていく思考であり、成果物を生み出すわけではないけれども、さまざまなアイデアや発想が湧いてくるものです。


「成果を出さなきゃ」という強迫観念が強すぎると、どうしても集約的思考に走りがちになります。しかし集約的思考と拡散的思考はワンセットであるということを忘れてはなりません。まず拡散的思考があり、そこから選ばれたひとつのアイデアや思いつきなどが、集約的思考によって成果物へと結実していく。そういうプロセスを踏む必要があるのです。


拡散的思考を、実際に練習してみましょう。たとえば「鉛筆の使いかたのアイデアをできるだけたくさん考えてみてください」という課題を出してみるのはどうでしょうか。これらは私のワンアイデアばかりですが、次のようにいろいろ思いつきます。


「普通に文字や絵を書く」

「孫の手の代わりにして、背中のかゆいところを掻く」

「六角形の鉛筆なら、六面のサイコロとして使う」

「ヤジロベエにして遊ぶ」

「芯を削って粉にし、絵の具として使う」

「二本用意して箸の代わりにする」

「竹串の代わりにして焼き鳥を食べる」

「壁の穴に刺して、フックとしてモノをぶら下げる」

「鉛筆の芯は導電性があるので、電線代わりにする」


とりあえず9個考えてみました。「くだらないなあ」と思う人もいるでしょうが、このアイデア出しの結果をよく分析してみると、実は興味深い視点が隠れていることに気づきませんか? それは、鉛筆という物体の「どの要素に注目しているのか」という点です。


鉛筆の芯の黒鉛という素材に注目しているのは、この三つ。「普通に文字や絵を書く」「芯を削って粉にし、絵の具として使う」「鉛筆の芯は導電性があるので、電線代わりにする」


鉛筆の細長い形状に注目しているのは、「ヤジロベエにして遊ぶ」「二本用意して箸の代わりにする」「竹串の代わりにして焼き鳥を食べる」

「壁の穴に刺して、フックとしてモノをぶら下げる」の四つ。


鉛筆の多くが六角形の断面になっていることには、「六角形の鉛筆なら、六面のサイコロとして使う」が注目しています。


このように鉛筆には「芯が黒鉛」「細長い」「断面の多くが六角形」という三つの要素があり、この三つに分解して鉛筆というモノを考えることができるとわかります。


このような要素分解はとても大事です。ただ漫然と「鉛筆があれば文字を書いたり絵を描いたりできるなあ」と思っているだけでなく、新しいアイデアの萌芽をここから見つけ出すことが可能になってくるからです。


拡散的思考がどういうものか、わかっていただけたでしょうか。拡散的思考は、創意工夫や新しいアイデアにつながるのです。とりとめもないような考えだって、拡散的思考です。ただの思いつきでしかありませんが、そうやって生まれてきた思いつきのアイデアの数々を、今度は反転させて集約的思考に持っていくこともできるのです。


わたしは登山の最中に、とりとめもないことを考えているという話を前回書きました。この拡散的思考が、集約思考にどう流れていくのかを、わたし自身の経験で追いかけてみましょう。

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