SNSで極端な政治的意見を言ってる人は、社会全体の1割ぐらい 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.824
特集1 SNSで極端な政治的意見を言ってる人は、社会全体の1割ぐらい〜〜〜大声でだれかを攻撃してる人が多数派に見えるバイアス
先日、知人のメディア業界人と話していて「日本には極端なほうの右派左派ってどのぐらいいるんだろう?」という話になりました。インターネット、特にTwitter(X)を見ていると、そういう極端派は非常に多く感じます。彼らの意見とちょっとでも異なることを書くと、たちどころにやってきて攻撃し始める。おかげで中道的な良識のある人たちは怖くて政治的なことを何も投稿できなくなってしまう。非常に不健全な状態です。
彼らはそんなにたくさんいるのでしょうか? わたしの知人がその裏付けとなりそうな数字としてだしてきたのが、田母神俊雄・元航空幕僚長の選挙での得票数。2014年の都知事選に田母神さんは立候補し、61万票を獲得しました。投票総数が669万票だったので、得票率は9.1%。田母神さんは今年の都知事選にも立候補し、今回は26万8000票しか取れませんでした。
ただし今回の都知事選には、在特会の桜井誠さん(8万4000票)が出馬したので、票が割れた可能性があります。また政治的な右派ではありませんが、内海聡さん(12万2000票)が反移民・反ワクチンという公約を掲げており、若干右派と共通しているところもあります。この3人の得票数を合計すると47万4000票で、得票率は6.9%。
また今年の衆院東京15区補選には、日本保守党の飯山陽さんが立候補し、2万4000票を獲得しました。得票率は14.2%。このあたりの数字を参考にすると、7%〜15%がかなり端の方の右派の人たちの率といえるかもしれません。あくまでも推測でしかありませんが。
いっぽうで左派はどうか。こちらは日本共産党と社民党、れいわ新撰組あたりがマッチします。また立憲民主党でも、最近メディア報道で「リベラル系」と呼ばれている人たちはかなり極端な方の左派です。
ちなみにですが、そもそも極端な左派を「リベラル系」と呼ぶ意味が私にはまったく理解できません。かつての55年体制下における社会党には、「社会主義協会」という党内派閥がありました。社会党内の極端な左派は「社会主義協会系」と呼ばれていたのです。ウィキペディアで社会主義協会の項目を引くと「このような協会を、当時のジャーナリズムは社会党最左派と呼んだ」と書かれています。だから立憲民主党の「リベラル系」というような誤用はやめて、「立憲民主党最左派」とか、いっそ「立憲民主党革命左派」と表記した方が良いのではないでしょうか。
とはいえ現状では立憲民主というの支持者のうちどれぐらいが革命左派に含まれるのかわからないので、いったんは全部まとめて左派に入れてしまうことにします。この9月6日のNHK世論調査における政党支持率を見てみましょう。
★NHK世論調査 内閣支持率 政党支持率 毎月の最新情報 | NHK選挙WEB
https://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/)
立憲民主、共産、れいわを合計すると、10.5%。近年の各種の政党支持率もだいたい10%前後になっているので、これが端のほうの左派の人たちの率といえるのかもしれません。
そのように見ていくと、端の方の右派左派の人たちは両方合わせてもせいぜい2割程度。単純計算だと5人にひとりぐらいで、多く見積もってもせいぜい4人にひとりといったところでしょう。インターネット上では、過半数ぐらいはいるように見えてしまうという強烈な認知バイアスがあるのです。
立命館大学の谷原つかさ准教授が書いたこの書籍では、ネットのバイアスの問題を徹底的に分析しています。同書ではたとえば2021年の衆院選をとりあげ、この選挙期間中にTwitter(X)で自民党に言及した投稿は364万あまり、そのうち51.7%と過半数が自民党に否定的な投稿だったそうです。ところが選挙結果の蓋を開けてみると、自民党は261議席と過半数の議席を確保。
2023年の大阪府知事選でも、現職の吉村洋文知事についての投稿は62%が否定的でした。しかし選挙結果では吉村知事が74%の票を獲得して圧勝でした。毎回の選挙のたびにこういうネットとリアル世論のギャップが繰り返されています。
2021年総選挙の数字を、谷原さんはさらに細かく分析しています。全体の51.7%にのぼる190万ポストが反自民党の投稿でしたが、この投稿のもとになったオリジナルポストは29.3万件。この29.3万件を投稿したアカウントの数は、8万6118。つまり選挙期間中に、8万6000人ぐらいの人たちが自民党を批判したということです。
驚くべきは、その先。谷原さんの分析によると、この反自民ポストのほとんどがリツイート(リポスト)されていない、つまり一度も拡散されない末端アカウントのものだったというのです。
「この図表から分かることは、 少数のアカウントによるオリジナルポストが世論形成の大部分を担っている ということです。実際、約190万件の拡散のうち、約52%の拡散数が、わずか200のアカウント( 約0.2%)によるオリジナルポストから発生しています。すなわち、少なくとも10月 19日から10月30日の投稿においては、0.2%のアカウントが約52%のX世論を作っていたことになります」
スタート地点はわずか200の投稿!この投稿をしているのは誰かというと、1位は小沢一郎事務所公式アカウント。2位は一般市民。また最も拡散された投稿は、リツイート数9422回の共産党小池晃さんによるものだったとか。
「炎上に参加する( 書き込みをする)人の数は炎上1件当たり2000~2500人程度。これがX上で起こったとして、それら書き込みをリポストやURLのシェア等で拡散する程度は、オリジナルの投稿者数の 21.4倍でした。例えば、2000人が炎上に参加したとして、リポストやURLのシェア等を含めた総投稿数は4万2800件となります。これがさらに各ユーザのフォロワーの目にとまることになります。2016年時点での平均フォロワー数は648で、このうち10%がその炎上を目にすると仮定すると、 わずか2000人が参加した炎上ネタを、約280万人の人が目にすることになります。これにさらに、まとめサイトやネットニュースでの取り上げが行われると、より多くの人が目にすることになります。しかし、当初炎上に書き込みを行った人はわずか2000人でした」
つまりオリジナルの炎上や投稿に参加する人はきわめて少なく、しかしそれを目にする人が非常に多くなると言うのがTwitter(X)の特徴ということなのです。
こういう統計的事実を、わたしたちはSNSを利用するうえで常に意識する必要があるでしょう。よく週刊誌やスポーツ紙などのメディアが「SNSで批判殺到」とか適当なことを書いていますが、ああいう表現にはほとんど何の意味もないということなのです。
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