あなたにとっての良書を見つけるための「芋づる式良書検索メソッド」 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.763
特集 あなたにとっての良書を見つけるための「芋づる式良書検索メソッド」〜〜〜本はたくさん数を読めばいいというものではありません
何人かで読書について雑談していたときに、「月に何冊ぐらいを読むか」という話題になり、ひとりの女性が「わたしは月にだいたい15冊ぐらいは本を読んでいる」と発言して皆が「おお……」とどよめいたことありました。そんなにたくさん読んでいるとは!
しかし詳しく聞いてみると「本を手に取ってパラパラっと内容を眺めて、だいたいの流れが頭に入ればそれで完了」というのを読書と定義しているのだそうです。
そういう読み方もあるでしょう。わたしは否定はしませんし、実際にそのようにして本を手に取ることも多いのです。21世紀の社会はとても複雑で多様で、信じられないほどの量の情報が流れている。この複雑さを整理してかみ砕くためには、さまざまな入門書や実用書なども必要です。特に自分があまり詳しくない分野について学ぼうと思うと、その分野にまず入ってみるための「玄関」になってくれるような本が必要になってくる。ウェブメディアの記事でも構わないのですが、全体像を知るためにはそこそこボリュームのある一冊の本が逆に手っ取り早い、ということも多いのです。
そういう「玄関本」では、必要な情報だけをさっさとピックアップするだけでいいので、熟読しません。本の扉などに書いてあるキャッチコピーや要約などを読み、目次をチェックして自分に必要そうなチャプターがあるかを確認し、それからパラパラとページをめくって必要なところだけを読む。それで十分です。
しかしそういう読み方を「読書」と呼んでいいのかどうかは、また別の話です。わたしは「玄関本」は情報収集のひとつだと考えています。つまりウェブメディアの新着記事をチェックするのと同じようにして、玄関本をチェックしているのです。
では本当の読書とは何か。それはわたし自身の世界観をひらいてくれるような素晴らしい本に出会い、そこに書かれている世界観を自分の「知肉」とすることです。では、そういう素晴らしい本にどうしたら出会うことができるのでしょうか。
先日とあるトークイベントの質疑応答で、そういう質問をいただきました。「佐々木さん、どのようにしたら良い本に出会えるでしょうか。良い本を読みたいとは思っているのですが、どうしても自己啓発本とかビジネス本とか手っ取り早い本に目が向いてしまって、なかなか良書に出会える機会がないのです。もっと良い本をたくさん読みたいと思っているのですが……」
こういう悩みを抱えているかたは少なくないでしょう。しかしこの悩みには、ひとつ落とし穴があります。それは気持ちが「数」に向きすぎてしまって可能性があるということです。
「読書をしなければ」という気持ちを持つのはとても大事ですが、途中のゴールが「たくさんの本を読む」になってしまっていないでしょうか。冒頭に紹介した女性のように「月に15冊は読む」という「数字」で満足してしまってはいないでしょうか。
彼女のように何でも数値化すれば目標に達せられると思っている人は、現代日本では良く見かけます。読書の冊数に限りません。
「一日にこれだけの数のメディア記事を読んでいる」
「今までに刊行した著書は全部で○冊!トータルの部数は○○万部!」
「ツイッターのフォロワー数を1年で1万人に増やす」
実績や目標をこうやって数字に当てはめるというのは、そこらじゅうにあります。ここで間違えてならないのは、わたしは「数字にすること」そのものが間違いだと言っているのではないのです。会社での仕事だってKPI(重要業績評価指数)を求められますし、あいまいな目標ではなく「きちんと数値化せよ」というのは職場でも良く言われることでしょう。数値化をないがしろにしていたのが昭和時代の古い日本の悪いところだったので、数値化は決して悪いことではありません。
しかし仕事での業績評価と、個人としての人間の成長の目標は異なります。仕事で営業成績を上げれば、それはそのまま社内評価につながり給料のアップだって期待できます。しかし個人の成長のために読書をしたり記事を読んだり、あるいは社会で承認を得るために著書を出したりツイッターを運用したりしているのであれば、数字は決して目標にはなりません。
数字は目的ではなく、「途中経過」にすぎないのです。
目的は別のところにあります。
「良い本を読むのは、新たな世界観を獲得して自分の知肉にするため」
「玄関本を読むのは、その分野についての全体的なイメージを獲得するため」
「ウェブメディアの記事を読むのは、つねに最新の情報を押さえておくため」
「著書を出すのは、自分の考えている思考や世界観を社会に問うため。あるいは社会から広く承認を得るため」
「ツイッターのフォロワーを増やすのは、自分の考えを広く伝えるため。あるいは他者からの承認をえるため」
この目的を押さえておかないと、数字に振り回されるようになってしまう。この危険性は、つねに意識しておいたほうがいいでしょう。わたしは、何でも数値化すれば目標に達せられると思ってる人たちを「ケミカルな人」と呼んでいます。化学的に合成した製品のことをケミカルというのですが、ケミカルな人はそういう化学製品のにおいしかしなくて、人間的なふくらみが乏しい。
数値だけでは把握できないこともあるのです。読んだ本の冊数よりも、驚くほど良い本に一冊でも出会えたかということのほうがずっと大切なのです。年間10冊しか読んでなくても、その一冊で世界観ががらりと変わる体験をしたのなら、そのほうがずっと素晴らしいのです。自分の人生がケミカルになり過ぎてないかを、気に留めておきましょう。
さて、そのうえで良書をどうやって、どこで見つけるのか。
それを考えるうえで、ひとつ重要な前提のポイントがあります。それは本を読む人が100人いれば、100通りの良書があるということ。良い小説を読みたい人がいれば、良いビジネス書を見つけたい人もいる。歴史書や哲学書もある。同じ小説ジャンルであっても、SFなのか純文学なのかミステリーなのかで、好みはまた違ってきます。
くわえて読者のレベルの問題もあります。日ごろ本を読んでいない人に、いきなり小難しい本をオススメしても通読することさえできません。読書初心者には初心者向けの、ハイレベルな読者向けにはそのレベルに応じた本というのがあるのです。
だから「誰にでも勧められる良書」というのは、現実には存在しないのだということをまず肝に銘じておきましょう。世界には「あなたにとっての良書」しか存在しないのです。
では「あなたにとっての良書」に、あなたはどうやったら到達できるのでしょうか。
そこでわたしが薦めたいのは、「芋づる式良書検索メソッド」です。これはだれかが発明した方法ではなく、わたしがこれまでもやってきたことで、本日本邦初公開です。なにが「芋づる式」なのでしょうか。ここから説明していきます。
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