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「裏日本はウラハラになればいい」から学ぶ都市と地方のズレ 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.636

特集 「裏日本はウラハラになればいい」から学ぶ都市と地方のズレ
〜〜「都市」の意味を再定義し、あらたな都市観を発明する(第1回)


 日経COMEMOという日経新聞系の媒体に、地方創生についての記事を書きました。今回はこの記事をさらに深堀りしていき、「都市」「都会的」という言葉を再定義してみようと思います。

 古い「都会的」よ去れ、これが21世紀の「都会的」だ!というのが、今回のメルマガのテーマです。

 記事を読んでいただければと思いますが、地方創生のトークセッションで新平が言った言葉というのは次のようなものです。

「日本海側は以前は『裏日本』とも呼ばれ、これはネガティブな用語だと思われていたけれど、これを『裏原宿』みたいなイメージでとらえなおしたら、また新しい発想が生まれてくるんじゃないかな」

 裏原宿、通称「ウラハラ」というのは東京・原宿の裏通りにならぶインディー系のアパレルを指す用語です。ウラハラ的というのは、これも記事の中で私が説明していますが、こういうことです。

「マス向けに大々的なキャンペーンを展開するのではなく、『わかってる人たち同士』が路地裏の店に集まり、ショップスタッフも客も同じサブカルチャー的な文化を共有する。モノを売ってるんだけど、モノを売ってることを『売り』にはしない。文化的な価値観の共有こそが大事なんだとアピールする」

 つまりマス消費文化のように、企業vs消費者という2軸にわけるのではなく、ショップの側も客の側も同じ文化や価値観を共有する「仲間」であり「内輪」であるというのがウラハラ的なカルチャーというわけです。

 これを都市と地方の関係に置き換えるとどうなるか。観光にしろ移住にしろ、これまでは「都市の視点/ニーズ」と「地方の視点/ニーズ」がそれぞれ存在し、それぞれの視点やニーズをどうマッチングするかが課題になってきました。たとえば地方からは、「この土地にこればこんな美味しいものがありますよ、風光明媚ですよ」と観光の魅力をアピールするけれど、都市からは「美味しいものも大事だけど、泊まるところは魅力的なのかな」とそれぞれニーズがあり、うまくマッチングすれば集客が見込める。

 このマッチングはうまく行かないことも多く、地方の側は立派なショッピングモールや施設を作り、新幹線を誘致すれば観光客が来るだろうと期待するのだけれど、都市からは「いや、都会にあるようなモールは別に観たくないし」「交通の便が悪いほうが、観光客少ないし秘境感があって惹かれるんだよねえ」という感覚があり、ずれてしまう。まあこれで失敗した典型が青森市とか長野市でしょう。わたしがよく利用する北陸新幹線でも、マッチングに成功してるのは金沢と軽井沢だけだと言われています。

 公共交通機関に対する意識のズレなんかもよくありますね。地方に住んでるとひとり1台で自動車持っていて、ローカル鉄道やバスに乗るのはお年寄りか高校生ぐらいしかいません。しかし都市から地方に行く人は、まず移動手段を気にするのです。若い人だとそもそも運転免許を持っていない人も少なくないので、「鉄道でどこまで移動できるのか」「バスの便は」と聞く。すると地方の人は「ええーっ、電車とバスですか!乗ったことないからわからない…」と驚くのです。


 だいぶ昔の話になりますが、カヌー乗りとして有名な作家の野田知佑さんからこんな話をうかがったことがあります。「とある清流で有名な川のほとりにある自治体から、村営キャンプ場をつくったのでぜひ見に来てほしいと言われて、遊びに行ったことがあった。そうしたらすごく美しい河辺なのに、キャンプ場の地面をコンクリですべて舗装しちゃってるの。駐車場みたいになっててガッカリしたんだけど、村役場の人たちは『これで都会と同じように過ごせて、土もつかないからいいでしょう』と胸を張ってて…意識の落差にびっくりだよ」

 このように、つねに都会と地方で意識はズレがちで問題を起こすのです。これが地方創生の困難さの根源のひとつになっているのは、わたしの経験からも間違いありません。

 これを乗り越えるための一つの方向性として、新平が言った「ウラハラ」は大きなヒントになるのではないかと思います。つまり都市に住んでいるか地方に住んでいるかは関係なく、同じような価値観や文化を共有できる「仲間たち」をネットワーク化し、ネットワークが中心となって、人々がそこにぶら下がるという構図です。「都市vs地方」の二項対立が中心となるのではなく、ネットワークが中心となるのです。

 ではそのネットワークとは、どのようなものなのか。ここでジョン・アーリというイギリスの社会学者の論考を補助線に持ち出してみましょう。アーリは「移動」とはなにか、という概念をあらゆる方向から考えた社会学者で、邦訳も出ている『モビリティーズ』が有名です。

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