川柳句会ビー面 2024年7月
匿名互評の川柳句会の選評と投句一覧。目次に無記名の句一覧があるため、無記名句一覧の仮想体験も可能。
素材のままの愛し方習う
絵にかいた寝首だったねケセラセラ
交際はしない台風だと思う
自殺してくれなくなったヴァイオリン
万国のかわいい皿よ団結せよ
親指の爪くっつけて生れる山
ローマのテラス詰めた枕のための風
皮膚の手前でたらスパ食べたい
セルフィーの彼氏の髪が伸びている
やさしさのない録画じっとする膝
面会はミモザ香るの止しなさい
宙返りまた別の扉を撮った
キューコン!と笑顔で笑う男の子
待ち受けを真っ赤にしてる口裂け女
なんだろう歯間ブラシが落ちている
長い鮫を上から落としてやろう
ミールスそれつー未来からのパラパラ
ドアノブだったら光らせられる
わびさびの抜けた町には海がくる
肉親の背中に立って待つ反旗
Googleマップの影勾玉やん
なしくずしの死カラメル乗せで
きなくさいきな粉で町を活性化
自己開示する、八月を針が降る
数人の局部が旗を編んでいる
淋しいの隙間で風が分かれてる
狼のコラージュは完成しない
素材のままの愛し方習う
私も習いたいですよ、この人は習える環境にあるんだ、習わせてくれるひとと素敵な関係を築けてるんですね。温かいな。もとからほっこりしてる温かさじゃなくて、冷たいところから温度が上がってきたからこそ感じられる温もりのような。
────────南雲ゆゆ
そう言われて初めて、料理されたもの・加工されたものに囲まれて暮らしているなあと思いました。そういうものを消費するとき、たとえば口ではいただきますとか言ってバランスを取っているようにふるまっていても、消費されるものの総体にぼんやり敬意を払っているにすぎず、咀嚼消化とともに毎回欺瞞を体に貯めている。それがどこかで容量を超えたとき、いきものはぱったり死ぬんじゃないか、とかなんとか思ったり思わなかったりした。ちょっとヴェイパーウェイヴの本読んで考えが神秘に寄りすぎてるかもしんない。でもこの文字列、かなりヴェイパーウェイヴのにおいはします。素材のままのの定型句感、愛し方の急な登場、習うにまとめる強引さ(だって……習える?)。気になる。作者さんは直球で読んでほしかったかもしれないけど、この切り貼り感はそれはそれで魅力です。
────────西脇祥貴
この句自体が素材のままという感じがします。自己言及的な句だとしたときに、エモに振ろうとしたのがプラスかマイナスかで言うと、僕は「身をかわしてる(素材で戦おうとしていない)」と思ったのでマイナスでした。
────────雨月茄子春
絵にかいた寝首だったねケセラセラ
並選で入れました。でも、ケセラセラの選択が甘いと感じました。絵、寝、ね、からのE音は言葉に作らされてる気がします。〈うっすらとほほえんでいる斧である/八上桐子〉の「斧」はhohoとonoで選ばれてると思うんだけど、ここまで緊張感があると言葉を支配したなと思える。
────────雨月茄子春
このテンションは寝首かけちゃったっぽくて良い。絵に描いた餅と寝首をかくの合わせ技を無理なく収めていて、軽やか。でも終わりの五音はケセラセラでなくてもよかった気がする〜
────────城崎ララ
上・中はいいと思った。でも下五……万能の結び過ぎません? それにつけても金のほしさよ、みたいな。作者さんの中での必然性はあるんでしょうけど、ケセラセラはこの常套句そのものが常套すぎる気がする。
────────西脇祥貴
交際はしない台風だと思う
しない○○だと思う、の、川柳外を大きく掴む文法は、まだ有効だと思います。交際と台風はちょうどいいねじれの位置にあると思いました。
────────雨月茄子春
77の延長として89で読んだ。感情や欲が強い制御できない恋愛だったら回避できない台風や竜巻っぽい。距離があって冷静なら交際っていう関係に目をあてて、相手を観察できそうだよね
────────公共プール
すごいのは、「だと思う」での結びに取って付けた感じがないところ。だって台風について言ってるんだもん。断定できるかよそんなの。そうであっても断定するのが川柳、という向きもありましょうがぼくは支持します。さらに言うならその前の話題が「交際」するか/しないか、なんだもん。ど口語話題。そりゃだと思う、でいいですよ。小池さんの「憶測ですが藤棚の蜂刺しません」の句を思い出しました。あちらは最初に主観だと示してあとを言い切ってますが、この句は最初にでかい憶測(交際はしない台風)を持ってきているから、そのでかさでもってあとが主観になるのをゆるしている。バランス、だね……。
────────西脇祥貴
自殺してくれなくなったヴァイオリン
弾くのが上手くなったら確かにそう思うかも。ギターみたいにフレットがないからなれないうちは音がすぐ外れるし。それにもっと上手くなったら、周りを殺しだすような凶器になりそう。自殺も殺すも、演奏による感動の振り幅を誇張する比喩として読んだ。演奏は再現できる、かのように思えるから。演奏のほかに、ヴァイオリンという楽器そのものと、換喩?としてヴァイオリニストをヴァイオリンと読むこともできそう。その歴史は川柳より長いし、演奏の良し悪しでにんげんが実際に命を落としたり助かったこともあったろう。それに、演奏家の実感として、楽器に育てられると感じたり、経年変化や使い込みで楽器そのものも育っていく感じもある。ミイラ取りがミイラになるというか、自然が芸術を模倣するっていうか、こういうことかも。と、ここまでヴァイオリンに重心を置いて読解したけれど、「してくれなくなった」っていう発話者の謎の特権も気になる。ヴァイオリンと自殺がパワーのある名詞だから見過ごしそうだけど、受身で不満がある奴なんて意地悪な性格してる
────────公共プール
単純に意味だけとると怖い内容なのだが、ヴァイオリンと発話主体の間には深い信頼のようなものがある気がしてくる。自殺してくれなくなった今でもそこに険悪さとかは感じない。むしろヴァイオリン側の申し訳なさも雰囲気として漂っている。読む人によってそこに見える関係性は違うかもしれないけど、そこに形容するのが難しい関係が見えてくるのは間違いないと思う。
────────スズキ皐月
ヴァイオリニストが楽譜の一部を「自殺」と名付けているのだろうか。私は演奏家ではないけど、演奏もほかの芸術活動と同様に、演奏者の意識的な行為のみでなされるものではないと思う。「楽器に演奏させられる」ような状態があるんじゃなかろうか。だが「自殺」はうまくいかなくなったようだ。このあとどうなるのかは分からないけど、「自殺」してくれないときの、楽器がいつもより重く感じる感覚だったり、弦の滑らなさだったり、焦る心情だったりが伝わってくる。
────────南雲ゆゆ
ケセラセラの句と同様に、甘いと感じました。ヴァイオリンを掴まされたな、という印象です。くれなくなった、がおもしろい分、目が厳しくなりました。
────────雨月茄子春
自殺の一回性とは。あとエンタメ性とは。
────────西脇祥貴
万国のかわいい皿よ団結せよ
インターナショナルだ! インターナショナルを、労働者→かわいい皿へ変換して脱臼。かわいい皿……よく見つけて来たな……。使われるもの、なのは変わらないもんな。そして「かわいい」。ポップ→ギャルマインドへつなぐなら、それはりっぱな抵抗・自立のアティチュード。こんな戦い方じゃなきゃ今後勝てない、みたいな話も、どっかで聞いた気がする。そしてなんなら勝ち負けもどうでもいいようにさえ見える。ただ集まってチェキ撮ろ、みたいなお誘いにも見える。やったれ。やったってくれ。その意気で革命を、たぶん宇宙一たのしい革命を、やりきってくれ。応援してる。特選です。
────────西脇祥貴
あざとさを「やってる」と思いました。もっと芯を食うこともできると思います。既存のあざとさにフリーライドするならとことん、です。個性でやるなら、皿が甘く入ってる気がします。これっていわゆる逆額縁法(既存のフレーズから作る)だと思うのだけど、流石にかわいい皿は強度が足りないッショ!
────────雨月茄子春
もちもちのお皿になって馳せ参じたい句。一方で、あらゆるお皿に自我を問い、かわいいかどうかを自問させているのはちょっと罪深いし、皿を団結させて何をするつもりなのか気になる。
────────城崎ララ
親指の爪くっつけて生れる山
本当に句はそのままなのだけど、読み手に動きを誘発させることができるのはいい川柳だと個人的に思っている。
────────小野寺里穂
爪の先と先を、のやり方で合ってるかな。くっつけた親指どうしが山∧になるぐあいで。これをだからどうしたというのはかんたん。だから「川柳」としてこれがここにいるんだ、ということを、きちんと説明して周りに示せるようでありたいと思う。ちょっとまだ無理だけど。でもこの動作、できあがる形、それを「山」と呼ぶことにはぜったいに意味や来し方があるし、説明のできない意味があったところでそれは意味がないってことと一緒なんじゃないですか、なんてふざけたことはぜったいに言わせない。ことばにできるかどうかなんてそんな大したことか? もちろんこういうことをしようとして失敗することは多々あると思う。この句について言えばただ一文字「山」で終わっている、そこにのみ成功の鍵が隠れていると思う。あなたの思う山をそこへ重ねてみること、そうして黙ってしばらく見ているうち、ことばにならない意味がわかってくるんじゃないですかしらんけど。
────────西脇祥貴
「生れる」の書き方を評価しつつ、意味がわかってしまった感がマイナスに働いた感じです。山が爪でつくる形に小さく収まってしまった。理知的な把握から、大胆なところに持っていこうとするのはおもしろかったのだけど……
────────雨月茄子春
天保山だ
────────城崎ララ
ローマのテラス詰めた枕のための風
盛り盛りなのですが、どこも削るところがなくて、がっちり組まれてるところがよかったです。ずっと予想できない言葉が出てきて嬉しい!テラスを詰めた枕なんて変なの!
────────雨月茄子春
縮尺をぶっ壊す気概はいいと思う、けど音が長くなるためにちょっと詰め込み過ぎてる感じがある。たぶんこれが完成形じゃないと思う。
────────西脇祥貴
皮膚の手前でたらスパ食べたい
不思議な願望が書かれてる。皮膚の手前ってなんだろう。物心の前、とかに近いのかな。純度の高さは感じられて、この感覚は僕にもあった気がする。たらスパの選択もいいですね。たまごの集まりは皮膚の手前って感じする。
────────雨月茄子春
たらスパ川柳である、という魅力には抗いがたいけど、食べる行為ってつねに皮膚の手前で行われてない? と何だか思えてしまった。思えてしまったものの、なにかが引っかかる。じつはそうじゃないんじゃないか、と思わされるなにかがあると思う。皮膚、という大仰な書き方に秘密がある気がする……と思うと、じっと見てしまう。たぶん見た目の字面もいいんだなこの句。「老人ホームで死ぬほどモテたい」の残響さえ利用している気がしてくる。繰り返し見て/読んでしまう。たらスパ食べたい、というダルな口ぶりもなにやらサイケな空気を呼んでいる気がしてくる。気が……気、が重なって、どんどんこの句に手の届かない深みへと連れて行かれる気がする。絵としてはたらスパ。無数の魚卵。目のようにも見える無数の命。そして、ピンク。だからぼくいまヴェイパーウェイヴの本読んでて。ああもうだめだ魅力だ。白旗を振るわ、並選よ!!!
────────西脇祥貴
皮膚の手前という表現にまず大事なものを感じた。極めて思弁的な触覚は、皮膚の手前を考察することがないと思う。それは極めて遠いか(故に、極めて近いか)、あるいは触れるかになるから。だからか、この皮膚の手前は文字通り、余計なことなしに皮膚の手前だ。そう、この句はキモい。
────────ササキリ ユウイチ
セルフィーの彼氏の髪が伸びている
セルフィーと伸びる、の相性のよさに唸りました。
────────雨月茄子春
怪談じゃない。でもバック・トゥ・ザ・フューチャーっぽくもある。あと「セルフィーの彼氏」って呼び方はおもしろい、アッシーメッシーみたいなのの令和版な感じがする。
────────西脇祥貴
やさしさのない録画じっとする膝
撮りたくもない映像を撮るときに録画ボタンを押す瞬間を想起した。映像を撮影するときって一応カメラの近くにいる必要があるし、膝もじっとしていないといけない。そこに居たくもないのにいやだよね。わたしは感覚的にこの句の波長に乗れたけど、この句が言いたいのはそんなことではないのかもしれない。
────────小野寺里穂
「じっとする膝」がとても良かった。なんとなく主体は子どもとして読んでいた。映像が流れる間期待を抑えきれず動き続ける膝、そして子どもには刺激的なシーンになると膝の動きがとまる。そんな景の臨場感の伝わる面白い句。
────────スズキ皐月
気味の悪いリズムでびっくりした。単に悪いと言っているわけではない。常に気持ちよくなることが成功しそうな予感を与える。それは決して言葉の音数だけの問題ではないと思う。それは録画と膝との微妙な空間の近さと無関係ではない。これは直感であるため、いますぐに多くを書けない。ただし、言葉の音数だけの問題でないことは、一つでも例を考えることで簡単に正しいと感じることができるだろう。
────────ササキリ ユウイチ
いいリズムで、内容も静かなところがいいです。でも、目に見える範囲から出ないところを僕はプラスに取れなかったです。
────────雨月茄子春
録画されてるからじっとしてるのか、膝が録画してるのか。録画で切るとわかりやすいけど、膝が録画する読みもできるからちょっとぼんやりしすぎかも。
────────西脇祥貴
面会はミモザ香るの止しなさい
ミモザの後でも切れるよな、と思いつつ、面会は、で切りたい句。面会について説明しようとして、途中ミモザを制するイメージ。ミモザが香るのかどうか知らなかったんですけど、調べたらやわらかい香りだそう。じゃあ制することもないのでは? と思いながら、そんな香りさえ制さないといけない状況のほうが、ひょっとしたらシリアスかも。だとすればミモザの選択はすごいです。ぱっと見そんなシリアスさは感じさせないで、踏み込むと思ったより深さがある、という点でいい句。好まれそうな句。嗅覚も伴うし。ミモザの季節には思い出しそう。ただ……よくできすぎ具合に抵抗が……ほんと何を求めてるんだおれは……。並選にはします……。
────────西脇祥貴
面会は止しなさい、面会はミモザ、面会はミモザ香る、ミモザ香るの止しなさいなど、いろいろな読み筋があり、評映えしそうです。面会とミモザは音で呼びすぎかもしれない。
────────雨月茄子春
宙返りまた別の扉を撮った
リズムが遅い?初句切れが句を遅延させてないですか?不思議な感覚がする。気になる句。
────────雨月茄子春
また別の、だから反復動作なんだろうな。宙返りして扉を撮る、のくりかえし。扉がいくつもある光景って、その先に何があるのかわからない不安がたくさんあるとか、選択肢が多すぎて選べない不安とか、とにかく落ち着きませんよね。そんな中だから、宙返ってみる。なかなかハードワークですけど、目の前の狂った光景を補正しようとするならそれくらいの動作は必要かな、とは思えました。そして、撮る。見る、では自分を納得させられないから、撮る。レンズ越し、画面越しに世界を見ることで、自分の視野や視線にとらわれずに世界を見るために。……でもそんな扉だらけの世界で、あと何度宙返ったら正しいところに着地できるって言うんだろう。無間地獄の謂いなのかもしれない。撮る、の手触りだけがリアル。
────────西脇祥貴
無重力空間で宙返りをする度に別の世界線に飛んで、次々と目の前に新たな扉が現れるようなSF味がある。扉というもの自体がこことは異なる場所への入り口であり、それを記録するカメラの存在もSF設定にはまっている。
────────小野寺里穂
理由や動機不明のエネルギーや運動って不気味だけど、現代で撮影はネットにアップするのが前提になっていて、ユーチューバーとかが目立つためのやってるのかな?って思った
────────公共プール
キューコン!と笑顔で笑う男の子
とっかかりがちょっとなさすぎました。
────────雨月茄子春
笑顔で笑う、の重複は狙ってるんかな、と思ったけど、その前のキューコンに可能性がありすぎて(求婚、球根、吸魂、ポケモン)どっちからどう片付けようか、ってなっちゃった。
────────西脇祥貴
待ち受けを真っ赤にしてる口裂け女
微妙なこだわりが人間くさくておもろい。確かに赤好きそうって納得感
────────公共プール
なんというか、身も蓋もない?ですかね。
────────雨月茄子春
赤が好き、なんでしたっけ。下七口裂け女のすわりがやや悪いか。
────────西脇祥貴
なんだろう歯間ブラシが落ちている
本当にありそうなシチュエーション。それでいて、単なる会話の切り抜きではなく、ちゃんと川柳になってる。というか、実際に歯間ブラシが落ちてたら、こんな言い方はしない。「なんだろう」よりは「なんで」と言うはずだし、「落ちている」という説明は会話の相手ではなく、会話を聞いている第三者に向けて言っているように聞こえる。演劇的で、舞台設定の工夫がある。一番好きなのは「歯間ブラシ」というチョイスですね。めっちゃ笑いました。最高です。軍手やマスクはたまに落ちているけど、歯間ブラシは見ない。じかで持ち歩かないので、落とした人は道端で歯間ブラシを使っていたのかなと想像しても面白い。歯間ブラシは小さいから、見つけた人たちは目を凝らしたり、膝を屈めたりしているだろう。たかが歯間ブラシのために。状況の滑稽さと、しょうもないことに行動を起こさせられている人間の滑稽さが合わさって余計に面白い。だいたい、歯間ブラシを使ってる姿が滑稽だと思う。
────────南雲ゆゆ
なんだろう、ってひろゆきの口ぐせとそて2024年のネットミームになっちゃったよね
────────公共プール
うむ……としか言えないです。
────────雨月茄子春
ひろゆき、、、ではないか。
────────スズキ皐月
のり弁の歌を知っててやってるならどこを目指してるんだろう、ってなるし、知らなかったなら、ていうか斉藤さんの超代表歌だからそれもちょっときびしいとおもうけど、なんだろうで頭五音はかなりもったいないし、なんだろうにするとして、それで上がるハードルに答えきれるかは、もう少し落ち着いて考えた方がいいと思った。本歌取りでのり弁に対しての歯間ブラシなんだとしても、本歌をどこか一点でも超えられているかというとびみょうだと思う。というか、なんだろう始まりにした時点で超えられないと思う。
────────西脇祥貴
長い鮫を上から落としてやろう
この口調はだんだん有効じゃなくなる気がします。
────────雨月茄子春
長い鮫って。
────────西脇祥貴
ミールスそれつー未来からのパラパラ
「それつー」??おもしろい句な気がするので、評が楽しみです。
────────雨月茄子春
ミールス=南インドで食べられるベジ料理を中心とした定食。ごはんとおかずを手で混ぜて食べる……またハイカラな……。で、それつーはなんなのそれつーは。説明もないまま未来からパラパラするし。奇行。これが奇行ですよ太代さん。そしてこの奇行はやり過ぎ。ミールスの語感(ソ連の宇宙ステーションがミールって名前だった)と未来、そしてパラパラが導かれる流れになんとなくレトロ・フューチャーな匂いを嗅ぎ取れるのは、たぶんぼくがいまヴェイパーウェイヴの本読んでるせい。奇行に走った場合、その先に待つのは福音かゴミかの二択だけ。この句はどっちか……ちょっと一週間では判じかねました。
────────西脇祥貴
ドアノブだったら光らせられる
「それはもう世界中のデッキチェアがたたまれるほどの明るさでした」って歌ありますよね、って打って、表記合ってたかなと思って調べたら、「それは世界中のデッキチェアがたたまれてしまうほどの明るさでした/笹井宏之」だって。脳内改ざん甚だしかった。ともあれこのお歌と並べてみると、あ、川柳のいちばん良くはたらく範囲って、この句ぐらいのかんじなんじゃないかな、と思いました。返しとしても(返しのつもりないかもですけど)いい対比だし、なにせほかのなにかが明るい、に対して自分が光らせる、ですもんね。いい自尊心。でも微妙にもつれる日本語で終わってるのがいい。読み上げるときはぜひもつれてほしい、もつれてなお光るものがあると思う。この句で終わる句集があったら、百部買ってみなさんに配りたいくらいには好きです。ごめん。百は無理。十くらいにさせて。
────────西脇祥貴
このまえ演劇部の公演があってそこで出た言葉です。楽屋を回って上手から下手へ移動するとき、暗いので蓄光テープ使って動線がわかるようにします。ドアノブだったら光らせられるとのことでした。
────────雨月茄子春
わびさびの抜けた町には海がくる
迷った句。個人的に侘び寂びがひらがなで描かれたことと海があることで、うっかりわさび抜きが連想されてかわいくなった印象も。さておき。「わびさびの抜けた町」は、抜けたが面白い。失われたでなく抜けた。わびさびのほうからどこかへ去ったような、愛想を尽かされたような。それで、そこに海がきている。激しい海ではなく、滑り込むような……染み入るようで良い。
────────城崎ララ
「くる」、使いやすい分、カラくなります。難しいっす。災害をテーマにしてる?わびさびが抜けた町への罰と捉えたら胸がきゅってする。
────────雨月茄子春
町に海がきた光景を見てしまっている世代としては、この句を読むのはむずかしい……。もちろん津波のことじゃないかもしれない、単に概念上の海がこんちは! って来ているのかもしれない。けれど……ちょっとまだむずかしいんじゃないか。川柳はなんでもありの575には違いないけれど、やや無邪気すぎるかも。この暴れ方は、暴れる対象がちがう、という気にさせられる。
────────西脇祥貴
肉親の背中に立って待つ反旗
肉親の「肉」っておもしろいな、と思いつつ、意外と実体のない肉だなという気づきがありました。直感に反して、かなりぼんやりした句ですね。
────────雨月茄子春
ずいぶん安全なところで……という皮肉とも取れるし、わざわざ「肉親」と言っているあたりに奥行きを求めることもできそう。でも、反旗を待っている場合なんだろうか。そういう揶揄としては利いていると思う。
────────西脇祥貴
Googleマップの影勾玉やん
言われてみればそうかもしれない、の塩梅が良い。しずく型のロゴに穴が開いてるのを、少しどうにかしたら勾玉になりそうで、光の当たり具合によれば勾玉にみえるのかもしれない。いい気づき。
────────南雲ゆゆ
Googleマップの影ってなんだろう〜と思った、物体的なGoogleマップ……?アイコンの形かなと思ったけど違った。もし手のひらに乗せれるタイプのGoogleマップがあって、方位磁針みたいに使えたらそれも面白いなと思う。で、その影が勾玉みたいだと。そういうない風景を見れる川柳が好きだ。
────────城崎ララ
「やん」の勾玉みたいな尻上がり感はおもしろいと思いました。
────────雨月茄子春
なしくずしの死カラメル乗せで
「カラメル乗せで」があまり音的に良くないように思いました。
────────雨月茄子春
七七。セリーヌから来ているとして、カラメルは組み合わせる材にしてはだいぶ近くない? いや、そりゃもちろん統一されるムードというものもあるし近くてもいいんですけど、なにかポップというよりはライトな方に転び過ぎたように見えてしまいました。世界観は悪くないのに、文体やキャラクター設定がラノベすぎるラノベみたいだと思ってしまった。西野亮廣みたい、とまではさすがに言わない。
────────西脇祥貴
きなくさいきな粉で町を活性化
だじゃれと町おこし、公募川柳にありそうな技法とモチーフなのに、それらとは異なるベクトルにある。何故か?きな粉を名産品として活性化しようとしている町は実在している。「〇〇町まちおこし川柳」的な公募が開催され、きな粉にまつわる句が入賞した、というのはいかにもありそうな状況だ。が、町を「きなくさい」で修辞することで、町おこし公募川柳っぽさから脱している。町の現状を肯定的に捉えることを要求される場面において、「きなくさい」を使うことはありえないからだ。句の組み立て方は公募川柳なのに、出力されたものが非公募川柳(現代川柳と断定するには、現代川柳とは何か?という問いに私は答えられていないのでこんな言い方になるのですが)なのが面白い。「きなくさい」と「きな粉」じゃないとこれは不可能なんじゃないかと思えるし、そのような組み合わせを見つけたのがすごい。
────────南雲ゆゆ
「きなくさい」はきな粉を読んだときの評者側で出したい気がします。
────────雨月茄子春
自己開示する、八月を針が降る
17音。自己開示って、本来自分を救うためにするはずなのに、針が降る、っていうので引っかかりました。にしてもいいですねこの「を」。月内一面に降る感じが出てます。ただでさえこの国の八月は業火に燃えるっていうのに。でもそれまで八月に乗せなくてもいいかなとは思いました。それよりもっと自分に近い、近すぎる痛みの句だという方がしっくりくる。ぼく自身は段階的に相手を選んで自己開示して、這うような速度で回復してきた(orした気でいる)身なので、この自己開示はひょっとしたら開示する先を間違えたか、開示しているまさにその最中のことを表しているのかなと読みました。「する」ですし。開示することそのものと同じくらい、開示の済んだ後、開示された相手が返す反応が重要なので、開示している間はもうまるっきりの無防備。しかも自分の非や負債を開示しているのだとしたら、それはもう針が降る思いでしょう。フラジリティそのものになったからだが、どうかその後受容の毛布に包まれ守られますように。読点だけは要るかな、とちょっと悩ましかったです。
────────西脇祥貴
句読点の前後での関連を考える。自己開示することで針が降るならば何らかの罰、災いなのか。八月「を」という言い回しは八月というかたまりに対して作用していると読める。自分を外に開くことは簡単なことではないので、何らかの理由で自己開示をした折に空から針が降ってきたのであれば、災難としか言いようがないけど、句読点でつなぐことでその曖昧さが保たれたまま微妙なバランスで成立している。
────────小野寺里穂
どこがかはわからんですが良い感じと思うのですがどうですか。
────────雨月茄子春
数人の局部が旗を編んでいる
極めて政治的な句として読んだ。局部という個人的なものによって、何らかの主張をマスに示す旗が編まれるというのはビジュアル的にも思想的にも面白い。数人という、主体が明らかにされていないところがポイントか。「個人的なことは政治的なこと」を体現している?
────────小野寺里穂
「数人」の局部だからエログロまではいかなくてグロとかゴア表現かなと思う。局部が編んでいる時点でだいぶ怖いけど、「何の」旗なのか?を考え始めたら震えが止まらなくなった。この局部がいる場所って、心霊スポットみたいな人里離れたところだろうけど、そこに旗を掲げたら、場所が分かりやすくなって、人が来やすくなってしまう。局部に案内されてしまった人間は、果たして……。
────────南雲ゆゆ
「数人」がおもしろすぎました。言っても視認できるだろ、と。旗を編む、隠語ですか。舟を漕ぐみたいな。
────────雨月茄子春
旗はにんげんが結束するために掲げられる。しかも複数人で編むなんて、絶対に逃れられない絆がありそう。局部は、単純に体の一部と読んだ。性器や陰部よりも、どこかわからない体の部位が集まって、別の生き物みたいだ。そういう不気味さやグロテスクさの糸で作られたものなんだろう。
────────公共プール
絵画的な句です(言ってみたかった)
────────西脇祥貴
淋しいの隙間で風が分かれてる
淋しいに林があるのがいいですね。風はその隙間を抜けていくことができる。
────────雨月茄子春
体内にある淋しいの隙間。そこへ風が吹き込んでくるとき、分かれて入り込んでくるのが分かる。という、体の感覚と外からの刺激についての句だと思って読みました。淋しいの字を「淋」にしたのは、林があって隙間があるから? だとすればちょっと狙い過ぎかも……あるいは意味通り心のさみしいだから淋しい、ということならごめんなさい、ぼくがひねくれてます。よくできた句だと思う。取ろうかどうしようか迷う点があるとすれば、そのよくできすぎ具合にだけ問題がある、と思うくらいにはよくできていると思う。こういう風の吹き込み方に心当たりはあるし、実際今後この句を思い出すこともあると思う。……うーん、おれはビー面になにをもとめてるんだ……。でも他の並選句と並べてみたうえで、こんかいは申し訳ない、予選にしておきます。
────────西脇祥貴
狼のコラージュは完成しない
今回の句会で一番だと思った。完成という語が括弧に入れられている。特別な理由はないんだと思う。意味がない。論理的な破綻はむろんなく、事実的な破綻も、ギリギリのところでない。この事実的な破綻がギリギリなところでないところがこの句に格別の無意味さを与えていると思う。かくして、狼のコラージュがひとまず像を結びたがり、ひとたび結ぶと、この像から無理のある連想(例えば、半分狼の犬、いや、狼人間……)がはじまる。私はそれを心地よいと思う。
────────ササキリ ユウイチ
何かが欠けている句が好きだから「コラージュは完成しない」だけでも大好物なのだが、「狼のコラージュ」と来たらあまりにもかっこよすぎてもう選を入れるしかない。コラージュの完成って作っている人次第のような気もするから、この狼のコラージュはこの人の納得いく何かが永遠に欠けているのだろう。
────────スズキ皐月
気になる句。狼になにを見るか。日本狼?あるいは何によって狼のコラージュを完成させるか、そのための素材のほうか。
────────城崎ララ
人狼? ことばの響きだけですけど『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』を思い出し、狼ってとこだけですけど『かがみの孤城』を思い出しました。どちらも未読です。ほんと申し訳ない。つまりややファンタジックなイメージを伴って、リアルを撃とうとする句だと思ったということ。狼がどういうイメージを持った呼称と解されるか、に尽きる気がしましたが、それがはっきりさせられなかったです。ごめんなさい。
────────西脇祥貴
「完成」が甘く入ったかも!でもいい最終句。優勝!
────────雨月茄子春
総評
川合さんの論
を評に反映したかったけど、さすがにまだ無理でした。あとヴェイパーウェイヴの本、ほんとおもしろいよ!(『新蒸気波要点ガイドhttps://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK237)────────西脇祥貴
素材のままの愛し方習う (城崎ララ)2点
絵にかいた寝首だったねケセラセラ (公共プール)2点
交際はしない台風だと思う (城崎ララ)3点
自殺してくれなくなったヴァイオリン (西脇祥貴)5点
万国のかわいい皿よ団結せよ (スズキ皐月)4点
親指の爪くっつけて生れる山 (南雲ゆゆ)2点
ローマのテラス詰めた枕のための風 (ササキリ ユウイチ)2点
皮膚の手前でたらスパ食べたい (小野寺里穂)3点
セルフィーの彼氏の髪が伸びている (南雲ゆゆ)1点
やさしさのない録画じっとする膝 (城崎ララ)3点
面会はミモザ香るの止しなさい (太代祐一)1点
宙返りまた別の扉を撮った (ササキリ ユウイチ)3点
キューコン!と笑顔で笑う男の子 (太代祐一)0点
待ち受けを真っ赤にしてる口裂け女 (スズキ皐月)0点
なんだろう歯間ブラシが落ちている (太代祐一)2点
長い鮫を上から落としてやろう (西脇祥貴)0点
ミールスそれつー未来からのパラパラ (小野寺里穂)0点
ドアノブだったら光らせられる (雨月茄子春)1点
わびさびの抜けた町には海がくる (公共プール)2点
肉親の背中に立って待つ反旗 (南雲ゆゆ)0点
Googleマップの影勾玉やん (小野寺里穂)2点
なしくずしの死カラメル乗せで (ササキリ ユウイチ)0点
きなくさいきな粉で町を活性化 (公共プール)1点
自己開示する、八月を針が降る (雨月茄子春)1点
数人の局部が旗を編んでいる (西脇祥貴)5点
淋しいの隙間で風が分かれてる (スズキ皐月)1点
狼のコラージュは完成しない (雨月茄子春)4点