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川柳句会ビー面 2023年1月


カービィに頼めば税も返ってくる

カービィの万能感がすごい。妙な説得力と、私もカービィに頼みたいなという思い。──────────────佐々木ふく
カービィに頼むところがもう変だし、税が返ってくるのも変〜!!カービィが税に詳しいとは全然思わないのですが、でもなんでもどうにかなっちゃうのはカービィっぽくてすごい。カービィはそもそも誰かに何かを頼まれて動いたりはしないと思うんですが、確定申告とかしてくれるのかなあ。カービィと税の取り合わせがすごい句です。──────────────城崎ララ
カービィはヒーローなのでそのまんまっちゃそのまんまなんですけど、カービィが吸ってた税を吐き出してもらってるって見方をしたら面白い句でした、──────────────二三川練
ピンクの悪魔呼んだ割に、頼みごとが小せぇ……。税より、年金の運用で出した損益分を返してほしい。──────────────西脇祥貴

ハードルを下げて天狗を寄贈する

川柳っぽいなあ、と思うのは天狗、のチョイスからでしょうか。しかしながら何から下げての天狗なのか問題。そもそも天狗は墜ちてなるものなので、それを寄贈されて受け取る側もなかなかの好き者。いや待てよ、天狗の確保そのものがなかなかだぞ……?
なまものだし、場合によっては人身売買になるんじゃないか。うわわ闇社会。ハードボイルド。あ、ハード、から始まってるからそう思っただけかも。でも全体に煙たいかんじがするのは、確かなんですよねえ……。。。──────────────西脇祥貴

陸軍中野学校卒an・an四月号愛と塀特集

たぶん、の雑感なんですけど、ゴールデンカムイすぎると思う。からなんとなく理解がある気になれていて、ちょっと困った。──────────────工藤吹
「愛と塀特集」がダメ押しでした。不謹慎もここまでやりきればありかなと言う気分です。──────────────佐々木ふく

沿岸をまるめて物心がついた

「沿岸をまるめ」るという大胆さ、そこに接続する「物心がついた」という着地点。言葉の直接的な派手さはないが、句の中に込められた情景のダイナミックさが目を引いた。沿岸をまるめるという動きは人によって想像するものは違うと思うが、わたしは空から大きな手が伸びてきて、粘土を捏ねるようなゆっくりした手つきで沿岸の地形を変えていく様子を想像した。それはもしかしたら、津波とも呼べるのかもしれない。津波が人格を持ち、物心がついた世界の話。──────────────小野寺里穂
沿岸をまるめたら、アレみたいだなと思いました。あの、アイスを薄く伸ばしてロール状に巻くお菓子。あるいはクッキーを巻いたやつ(調べたらシガールという名前でした)。沿岸は沿岸でも、岩肌が険しい沿岸だと、細かな凹凸が楽しめそうですね。まるめた沿岸の鑑賞会を開いてほしいです。──────────────南雲ゆゆ
物心、というわけのわからないものについて言及するだけでもチャレンジなのに、わりとうまくいっているような気がします。沿岸をまるめて、の具体的な動作がいいんでしょうね。リアスは丸めにくそうですけど。
しかし沿岸には、いろいろあるぞう……(沿岸にて漁業が盛ん→戦後最大級の台風被害で崩壊→経済成長の煽りを受けコンビナート造営→全国的に悪名高い公害被害を生んだ――そんな沿岸をもつ市の人間のため息)。物心もついてしまいましょう。いやでも。もう少し、ちゃんと子どもでいた方が良かったんじゃないのかな。へたな大人になるよりは。──────────────西脇祥貴

ウォー水源涵養保安林爱你アイニー

我と你の距離! 間に保安林!! でも愛は届いてるってなんか救い!!! 視覚的にも想像が繋がるし、しかもその保安林がばか広大なことで、愛の言葉がよりささやかに聞こえます。いいささやかさ。いちめんのみどり。Cuckoo。──────────────西脇祥貴

痕跡は刻一刻と立ち止まる

立ち止まると読み終わって、この句の意味を理解しようとしたときの思考も一時停止させられる。刻一刻に目をやれば時間の経過は、何かに刻まれるものだということを思わせられるが、何に?という問いに対して、例えば老いた皮膚や朽ちる樹皮、風化する岩石などのざらざらした触感に行き着くとも言えることができるだろうか。時間は目に見えないし感知する内臓もにんげんはもっていないというのに、何かしらを誰かに言葉や記号で、それこそ文字を刻み付けて伝達しようとしてにんげんは時間を知ることができたのかもしれないな。痕跡は運動体の衝突した結果だろうから、衝突したふたつのもの同士を思う時、それに気がついてしまったが故にその痕跡に足止めをくらう。
なんだか、この句は袋小路に誘い込んで閉じ込めようとする感じで、わたしには新鮮で魅力的でした。──────────────公共プール
痕跡の過ごす時間を切り取った、という目からうろこ句です。痕跡だけに刻一刻、なのが説得力。「痕跡」の語が来し方を想像させて、何度も味わえます。──────────────西脇祥貴

満月もほぐせば金のシャチホコで

あの丸く光っている満月がちょっと複雑な形のシャチホコになる。言葉からくるイメージなら満月の色も金のシャチホコの色もなんだか似ている気がする(実際はわかんないけど)。綺麗な幻想だと思った。──────────────スズキ皐月
満月とシャチホコ、どう考えてもほぐすというよりは握るに近い変形だと思っていて、握るとほぐれるの動きの相互作用がほんの少しよかった気がしている。なんで「ば」なのか全然わからなかった。──────────────工藤吹
……で? って聞きたくなる句とそうもならない句の差を思わされる、あわいの句です。どっちに転ぶかが日によりそう。金のシャチホコ、が音数の割に金→シャチホコとつながりやすいので(東海地区限定?)あまりスリリングじゃないような。しかも色で行くと満月→シャチホコもあまりスリリングじゃない。もっと言えば、名古屋城に月がかかると距離的にも近い……。ほぐせば、に勘どころがありそうな気はします。──────────────西脇祥貴

ここはどこわたし最後の交響詩

大きいことの大きさゆえ敬遠しそうなのですが、なんとなく切り捨てたくもなく……。しかし、大きい。「ここはどこわたし」の大クリシェ。そこへもって「最後の」「交響詩」……。うう、いかにもすぎる……。
でもなんだか、切実ななにかを感じるんです。なんだろう、こんなことをあえて考えるのはへんですが、「作者がこれを、100%本気で言っているのだとしたら?」と思うと、なんだか捨て置けなくなる……。パッションの部分まで汲み上げないのは、おしいような気になってくるんです。具体的ななにかをもう少し見せてほしいという気持ちは変わりません。ただ、このど直球で言いたい気持ちには、思い当たるものがあります。そういう点で、作者さんを信じることはできる句でした。──────────────西脇祥貴

家電のその放映用の動き

放映用。「お手洗いに行ってくるね」を「放尿してくる」や「排尿してくる」などと言うみたいな奇妙さ。家電という不当な上位概念化した表現。川柳的な技巧が詰まっている。自宅で映画鑑賞をするとき、ディスプレイに繋いだり、電灯を暗くしたり、スピーカーに繋げたり、そういう準備の瞬間を切り取ったと想定したとして、これらをまず「家電」と言いくるめて、「動き」と言いくるめる。放映用は放尿の汚い響きと共にある。──────────────ササキリ ユウイチ
「家電の放映用の動き」だとすごく言いづらい。「その」が良い働きをしていますね。──────────────南雲ゆゆ
普段は放映不可な動きしてる、その家電とは一体、という興味の惹かれ方。家電、とぼかしたのがここでは生きてます! そして字足らず。字足らずが、家電の動きの一心なせつなさが生む余韻を、汲み上げてくれています。
家電って、せつないですよね。来る日も来る日もおなじ動き・おなじタスクを繰り返して。それはおそらく、放映用の動きのはず。だいたいどんな家電の動きも、テレビを通して見られますもんね。ではない動きをする時間を、家電は持っている。そういう可能性を暗に示してくれるためにも、この句は短くなければならなかった……そう思うほどにはもろもろうまくいっていると思いました。──────────────西脇祥貴
写実的な書き方で、でも写実ではないところに脳の普段使ってないところがキュッとなりました。派手さのないところも好みです。──────────────雨月茄子春
家電の動き。「その」という指示語が重要な気がする。具体的な情景を浮かべるのが難しかったが、なんとも気になる1句。──────────────小野寺里穂

じゃんけんは踊場だけで行われる

そんなことはない。そんなことはないんだけど、学校の階段でじゃんけんは付き物のような気がする。そんなことをした気がする。この気がするだけで点を入れたくなるんだからすごい気がする。──────────────スズキ皐月
……すなわちじゃんけんが行われているすべての場=踊場、と……? と受けとめるとなんだか世界の見方が変わりそうです。──────────────西脇祥貴

I miss youを通過したのが斎藤さん

直感ではこのyouと斎藤さんは別人のような気がしていて、そこで面白さが出ているように思う。
そこまでは感じるけど意味や景を定めるのは難しい。自分はこの「I miss you」を発話した人間の脳裏に脈絡なく斎藤さんを思い出してしまう状況を思い浮かべた。
そこまで考えなくても「I miss you」という重たい言葉から「斎藤さん」というよくある名前が前面に出てくるだけでもう面白い。──────────────スズキ皐月
納得しちゃったのでこの句の勝ちです。斎藤さんは動くでしょう、もちろん。だから? って言っていい権利がこの句にはある=断定の力がみなぎってます。トレンディエンジェルさん、ジャングルポケットさんという補助線もありましょうが、それよりこの斎藤という字のいまさらながらの複雑さ。そっちのより普遍なところが味方しての強さかと思われます。具体的なだれかが浮かんでしまうと、逆に魅力が損なわれそう。斎藤さんをブラックボックスにできる限り、この句の脱臼していくスピードは保たれ続けます。なんだか、字面のバランスもいいですよね……!──────────────西脇祥貴
私とあなたの間、その対峙の緊張を横切ってしまう斎藤さん、と読んだ。その悠然とした振る舞いが伝説となって語り継がれていく感じが「のが」に凝縮されている。しかもこれは日本にとどまらず国際的な逸話になりかねない。いずれ、斎藤さんはSAITOSANのネットミームになって、いい感じの二人の間に分け入って通過するショート動画が流行って炎上とかしてしまうかもしれない。ツイッターでバズって、次の日にはネット記事でまとめられるだろうし、数十年後にまだテレビ番組が残っていれば、「あの人は今?」的な原初の斎藤さん探しの番組とかも作られて、「あの時はすごく急いでたんですよ」的なつまらないネタバラシもあったり。そうなればZ世代と呼ばれる人たちのなかのごくわずかがノスタルジーに浸ったりするんだろうか。そして、さらに若い世代でSAITOSANの真似をしようとする人も出るかもしれないけれど、人口も減ってそのIもyouも見つけるのも難しくなるかもね。──────────────公共プール

くつ下ぬがす桂馬のうごき

くつ下を脱がすときにフチを外側に引っ張るとYの字になるので、それと桂馬の動きをかけたのかと思いました。でも「動き」だからそうなると「はかす」の方がふさわしいですよね。どうなんだろ。──────────────二三川練
勢いがあって好きです。──────────────南雲ゆゆ
動く前の桂馬に指を置きますね。で、う~~~ん、ってねばって、えいっ、と斜め前に出す。ぬげる。優勝。──────────────西脇祥貴

食パンマンは誰でもない

アンパンマンの世界で異質さを放つのがドキンちゃんが発する愛情で、もっと異質なのがその愛情を受ける食パンマン。これは個人的な話になってしまうけど食パンマンに魅力を感じたことがなくて、そのことをよく考えてみたら食パンマンが味無しパン屋郎だからなのかって少し納得した。食パンは味がない、つまり誰でもない。自明でありすぎて見えなかったものを見せてくれた句だなぁと思う。──────────────雨月茄子春
以前アンパンマンの世界の登場人物について調べたことがあって、その時サンドイッチマンという人物を見つけたことがある。「サンドイッチマンがいるなら食パンマンってただの素材じゃん!」となった。
アンパンマンやカレーパンマンはそこから他の何かにはなれないが、食パンマンは素材だから他の何かになれる可能性がある。
まだ食パンマンは誰でもない、のである。──────────────スズキ皐月
ほんまや、ひらがな表記やなくなっただけで、あんただれ……?? こわっ!!!──────────────西脇祥貴

コウシテ川ヘト分ケ入ッテアナ タニは い る

は い る、だけがひらがなであること。川に分け入る前は海であること。ここ最近、その海に起こったさまざまのこと、いや、少なくとも戦後この方、海にしてきたいくつもの仕打ちのこと。それを一気に逆流してたどりつくアナ タ⊃わたし。
なにがはいってくるのか、それは意志なのか、意志として悪意なのか、それとも自然としか言いようがないのか、いずれにしてもわたしの中はどうなるのか――。一読怖ろしいのですが、これまでを振り返るに、自分の無為による海への仕打ちの酷さがあまりに思いやられて、たとえ自分が死んだところで受けとめなければならないだろう、というよくわからないこころの融解を体験しました。わたしは所詮部分。部分が全体に戻る過程が生きているってことなら、怖がるよりも受けとめよう、という気持ちが湧いてきます。もちろんそれで、なんら気が晴れることはないんでしょうけど。せめて。これもひとつの祈りと言えないでしょうか。だからねえ、はいってきたあとは、いろんなこといっぱい話そうね。──────────────西脇祥貴
「ヘト」が気持ち悪いのかな。すごく律儀に、丁寧に説明していて、知的水準は高そうなのにやってることはサイコでものすごくシンプル。シンプルゆえにサイコ。川も怖い。心霊と水の相性の良さを思う。──────────────雨月茄子春
むしろこれは、現代散文詩的な技術が詰まっている。テクストが乗る下地の上で、なぜ空白(あるいは、改行もあるとすれば…)があるのか。散文詩は、読む仕方そのものにまで介入しようとする。韻文は、読む仕方それ自体に介入しようとするわけだが。この句でもって、韻文としていかに介入するか、おそらくそこに、連作や句集がある。──────────────ササキリ ユウイチ

受け取ってくれない色の花なんだ

「受け取ってくれない色」でひとつと見て、その想像できなさで買いました。さりげなくくれない、が入っているのが微妙に色づけてくれてます。長く残りそうな句です。──────────────西脇祥貴

乗り物とするには綺麗すぎた星

カービィ句があったのでついカービィの乗ってる星をイメージしてしまいました。フィクションの星ってすごく可愛くて、ひかってて、素敵ですよね。「綺麗すぎた星」は、無敵スターのほうかなあ。フィクションの星にも格があったりするのかも。──────────────城崎ララ

蝶柄の蝶 更紗

なんだこの綺麗は……!? どう見ても短い、どうみても切れ端、なのにぐっとつかまれてしまいます。
とはいえちゃんと見ていくと、更紗はほとんど音のみのはたらき、あるいは手触りの付与だけで働くので空白のあとにいるのがベスト。そして、そして、「蝶柄の蝶」……!! すげえ。理屈が言えない。豹柄の豹や象柄の象では絶対に出せないなにかが出てます。なにかな、蝶の細密さとか儚さから来てるのかな、あー、野暮!! 野暮でやんなる!!! もうこのままいただきます。『相席食堂』なら額にして飾ってるとこです。お見事でした。──────────────西脇祥貴

この裏にクレッシェンドの始末あり

音がおっきくなる記号クレッシェンド。その始末……ぶつ切りか、デクレッシェンドか? ──────────────西脇祥貴

食べるから食べられるからここは海

食べるし、食べられる。海のものは美味しくいただくさが。そして、「ここ」がいいなと思いました。ここ、どこのことを指すのか。この句は海のなかにいるのかもしれないし、あるいはここ、読み手のいる場所を指すのかも。この世界は結局海に囲まれた大地があるだけで、大目に見れば海に浮かぶ島なわけで……全部海から出たわけで……そんな海のなかで、食べるし、食べられる。この食べられるが受け身なのか可能であることを示すられるなのかでまた解釈も変わります。句の場所も立場も読み方で変わる、陸のような海のような句……素敵です。──────────────城崎ララ
海との関係がいい。食べる食べられるの関係はよく考えると成立してないのでは、ともなる。しかし、海という存在の複雑さがその不正確さを許している気がして良さがある。──────────────スズキ皐月
一覧を読んでいていちばん粘性があると思った。読んで自分が句を咀嚼しているわけではないけれど誰かが勝手に噛んで吐き出している感じがある。食べるよりも海のほうでそう思う気がする。──────────────工藤吹

精液をリサイクルするリサイタル

広辞苑で精液をひいたら、最初の字義が「純粋な液」だった。リサイクルしなくても不純だね。──────────────公共プール
なんともはっきりしないのに、なにかを射抜こうとしているかんじが捨て置けなくて予選にしてみました。
が、なんだろう……精液ってなまものなので、リサイクルしようにもそれまでの保存にそれなりに気を遣わなきゃいけないらしいし、冷凍しちゃったらその後の保存期間が長いので、リサイクルのサイクルに乗る感じがしないんですよね。だからたぶん常温なんでしょうけど、どうリサイクルするんだろう……。一瞬でもジャイアンシチューを思い浮かべた自分が気持ち悪いです。──────────────西脇祥貴

  骨がそこ にあるかもしれないから撫でる

二拍の空白ではじまる意味。言いよどみなのかためらいなのか。骨。実際口に出すには、たしかにためらいを覚えることば。知った人のにしても、そうでないとしても。しかもそこ にあるかもしれない(一拍の空白!)。そう遠くないところに。
と、実際の距離を思ったのですが、じつはそれより前に、地図かなあ、というイメージが浮かんでました。地図上の、骨がそこ にあるかもしれないところを、撫でる。遠くて取れない接触コミュニケーションを、地図でもって図ってみようという――ううう、せつなすぎます。骨である以上間に合っていないうえ、あとからさえ訪ねていくことができない壁がある(戦禍とも、コロナ禍とも、放射能禍とも、あるいはもっと根の深いなにかとも)。ただ撫でるしかできない。つらいけれど、この句も普遍になってしまう予感があります。あるいはずっとあったものが、いまようやくこうして書き出された、と言うべきか……。
けれどあまりにせつないからこそ言っておきたい、それが書きだせたことで救いははじまっている、書き出されることでの救いがある、ということ。はじめの空白のおかげで、句の終わりにも見えざる空白があるのでは、と思わせてくれますが、この句はそこで、つらいそれぞれにちょいちょい、って手を振って、隣に呼んで寄り添おうとしてくれる。いいんです、実際寄り添えなくたって。その意志だけでいい。わずかな意志しか、それを信じることくらいしか、生きていく足しになんかできない。でもその足しがあるからこそ、生きてけそうだ、って思えるんじゃないかと思うんです。
こういうことを書き出させてくれる川柳にはほんとうに敬意しかないし、まだまだまだまだ見えていないすごさがいっぱいあると思う。その強みは「軽み」と、「うがち」のある色合いの中にあるんじゃないか、と最近は踏んでいますが、ビー面ではそういうものがこうしてもろに出るからすごい。……あーやだ、分析みたいな話はおしまい。すごいものはすごい。ほんとすごい、毎月こういうことが起こるんだもんな……あらためて感謝。特選です。──────────────西脇祥貴

嘘をつくかわりに蜂蜜を舐めて

嘘をついたらスズメバチをなめさせたい──────────────公共プール
上五で切るか、かわりにで切るか……かわりにかな……と一瞬でも思った時点で瑕はつくのですが、行為の対比がおもしろいしどちらも無理のない行為なので読みやすくはありました。でもなんか舐めて、が少し尻切れに見えてしまうのは、なぜ……。──────────────西脇祥貴

お昼寝を極めた民らの独裁者

「お昼寝」という言葉は、「お」が付いているせいか、どうしてもかわいいイメージです。そのせいか、この独裁者も、なんとなくかわいい印象…いやでも独裁者やけど、という葛藤。
独裁者に対して、わざわざ「民ら」と書いて、民たちの存在をアピールしているのもおもしろいと思いました。──────────────佐々木ふく

ゲンナーをめくるめくイラブチャー銘文

おお。どっちもブダイ。むかし、パラオから来た同僚と水族館に行ったとき、サンゴ礁の魚の水槽のところで、あれは焼くとおいしい、あれはよく釣れる、あれはおいしいけど釣っちゃだめなことになってる、と続けざまに食欲を開陳されたことを急に思い出しました。
で、この句。……? めくるめく、がどう生きるのかわからんし、イラブチャー銘文……かりにそういう銘文があるんだとして、え、にしてもめくるめく……? イラブチャーはアオブダイらしいから、ゲンナーをめくるめくと青が生じる、のか……?? わからん……わからんけどお気づきのように、これだけ楽しませてくれたらわたしは満足です。ケイト元気かな。──────────────西脇祥貴

肺胞にしんしん眠る鼓笛隊

しんしん「と」じゃなくてしんしん眠る、とすることで、眠ることにも行動の意味合いがにじんでくるのがおもしろいです。肺胞だからちっちゃな鼓笛隊でしょうし。いつかぷあーっとやらかすために、いましんしん眠ってるんだな。実生活で使いたいです。でもあんまりこれまでしんしん眠れたことはなさそうだな。。。──────────────西脇祥貴

加速する剃刀研ぎをだきとめて

ライ麦畑のキャッチャーみたいな。だが、いくつかの点で異なる。加速と剃刀研ぎは同じことをさしている。自傷のための剃刀の鋭利さを向上させる研ぎの行為は、ライ麦畑の崖へと速度を加速する行為と同じだろう。こういったことを、「剃刀研ぎ」に「加速する」をつけてやることで表現しつつ「だきとめて」で締めることで全体で示唆するようにしている。狙いはそうでなかったかもしれないが、技巧的なようにおもえる。だきとめてが平仮名だからこそこのような評になる。──────────────ササキリ ユウイチ

朝顔の殺意に振り向いたとき

朝顔の種には毒があるということを今回調べて知ったが、そんな直接的なことをこの句は言おうとしているわけではないのかもしれない。「振り向いたとき」で終わってその先に何があったのかを明らかにしていないところが、句に持続性を与えている。──────────────小野寺里穂
とき……! 以後をぶち切るミニマリズム。CMみたい……。ピークそのものが空虚ではあるものの(褒めてます)、ピークを作る装置としての性能で言えば満点でしょう。こういう句ばかりならべてただただ焦らされる連作、見てみたいです。──────────────西脇祥貴
花のこういう見方の切り口はなんとなく現代短歌感を感じる──────────────ササキリ ユウイチ

新しい犬が来るまではしりとり

「しりとり」という名詞で止めることで、どこまでも続く余韻が生まれています。ぽつぽつと、言葉を繋ぎ続けるしりとりのように。──────────────南雲ゆゆ
スパっとまとまっていて、景も思い浮かぶすごさがある。いま目の前にいる犬とそのうち来るであろう新しい犬。景色とゆったりとした時間の流れがある。──────────────スズキ皐月
もう一読いい句だ、って。いい句だねー、こっちおいで、ほら! って片手出しちゃう。犬呼ぶみたいに。まだ犬来てないのに。
しりとり、がすごいです。いつもの虫食いにしたとき(新しい犬が来るまでは○○○○)、やっぱりしりとりは入れられないでしょう。いや、入れられそうな予感はあるものの、実際なかなか入れられないという点で、たぶんより高度。だからこそしりとりが冴えて、生き生きしています。生き方が半端じゃないので本来の意味を越え、新しい犬が来るまでの時間・空間の総称をこそしりとり、と呼ぶんじゃないかと思わされるほど。目からうろこ句。じゃあ猫が来るまではなんだろう。ばば抜きかな。──────────────西脇祥貴
新しい犬、新しくお迎えする犬なのかなあ。しりとりは、前の犬の名前から始まって、新しい犬のお名前が決まるまでやるのかな〜とか思いました。なんだか妙に寂しくて、静かな句です。──────────────城崎ララ

Tel:アントナン・アルトーの語呂を知れ

「Tel」と「知れ」の矛盾が良いなと思いました。知らないと電話をかけられないけど、「知れ」と言いつつ、教える気はない印象です。──────────────佐々木ふく
アルトー川柳に出会う日が来るとは夢にも思わなかったので驚いた。固有名詞、特に人名を入れることはその人物の背景を含めて想起させられるので、句の奥行きを出すには効果的なのではないかと当たり前のことかもしれないが思い至った。しかもあの、アルトーですよ。電話の内容なのだろうか。「語呂を知れ」という言い回しも音としても心地がよい。全体として謎めいているところがアルトーらしい。──────────────小野寺里穂
Tel:って言ってるのに数字以外のものが来てます。数字に直せる暗号なのかな。脱出ゲームに出て来そうな文が続いてますし。語呂を知れ、って、なんかへんな命令文で、そこも脱出ゲームっぽいです。
……語呂を知れ……語呂:「言葉や文章の続き具合、調子」(デジタル大辞泉より)。を、知る、って何することなんでしょう。アントナン・アルトー、って名詞じゃなくて、アルトーさんの仕事の語呂、ということ? であればだいぶ深くなるので手は出せませんが、ううむ、ふしぎな命令文。気になるので予選。。。──────────────西脇祥貴

よいものをよいものたらしめて蜂

文体とリズムで刺しに来てる。かっこいい。──────────────雨月茄子春

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