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【作り話】うたうウグイス

「ホーホケキョ」

合唱部の後輩のヒノキが練習してる。あいつ、歌の推薦で入学してきた天才肌で、羽並も良いから女子にモテまくる。悔しい。

「ホー、ホケほけほけきょ」

悔しい。おれだってもっとうまくなりたい。はやくうまくならないと、他のやつらに、あの子をとられちゃう。

あの子とは、毎日一緒に家まで帰る仲だ。といっても、付き合っているわけではない。残念ながら。この間の帰り道、「実は気になってる女子がいる」ってついに言ってしまった。前の晩、兄ちゃんが「こう聞いた時の相手の反応で、その子が自分のことをどう思っているかがわかる」って言ってたから。実際の反応は、ずいぶんあっさりしていて、あの子の気持ちなんかわからなかった。「気になってる女子って、だれ?」とすら聞かれなかった。残念ながら。

あ、うわさをすれば、あの子、うめちゃん。演劇部で、おれの幼馴染。顧問の先生の話を聞いているようで聞いていない、何か考え事をしているときの顔だ。何を考えているんだろう。
うめちゃんは小さい頃から映画が好きだ。もちろん、おれたちの世界では、映画を観ることなんてめったにない。だけどこの街ではたまに、人間たちが屋外上映会というのをやっていて、うめちゃんは毎回それを観に行く。
だから、うめちゃんは演劇部でいろんな役を演じるんだと思っていた。でも実際は、小道具や演出といった裏方担当らしい。何でって聞いたら「裏方の仕事は、映像では観られないでしょう」だって。こういうところも、好きだ。

うめちゃんは多分、おれのことをただの幼馴染としか思っていない。だから歌をたくさん練習して、うめちゃんに好きになってもらうのが作戦だ。
うめちゃんは優しいから、おれの歌も結構好きって言ってくれるけど、本気で好きになってもらわなきゃ困る。先走って告白して、振られてしまったら、もう一緒に帰ったり、遊んだりできなくなるかもしれない。

もしうめちゃんと付き合えたら、いっぱいデートしたい。今までもずっと一緒にいたわけだけど、同じ場所でもこれまでとは違う世界に見えるに違いない。まずは屋外上映会に行きたい。ラブストーリーだったら完璧だ。

「おーい。ホウ助大丈夫か?何をニヤついているんだ。練習、練習」

やばい、先輩怒ってる。周りの部員に笑われる。

「ホー、ほけっきょ」

あれ、前よりちょっと、うまく歌えたかも。
いまの歌、うめちゃんに聞こえているといいな。

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