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老いと特上カルビ

 人は誰しもが老いていく。ただ、人間は誰しもが自分は他の人間より若いと過信しがちである。なので、自分が老いたと思う瞬間というのは人によって年齢もシチュエーションも様々の千差万別だと思う。

 運動した後の筋肉痛が数日後に出現する、無闇矢鱈に膝が痛い、おでこが際限なく広くなってくる、鼻毛を抜いたら白髪だったなど自分が老いたと思う瞬間は突然やってくるし、その老いへの気づきは人によって無作為で内容も多種多様である。

 私が老いたなもしくは老いてると思うのは焼肉の時である。

 焼肉と私の老いの話をする前に豆知識を。和牛というのは明確に定義が決まっていて、黒毛和種、褐色和種、日本短角種、無角和種の4種である。国産牛と明記されているのはそれ以外の牛である。なので、焼肉店によっては和牛風のネーミングをしている所がある。例えば黒毛牛と名前を出して和を無くすことで、黒毛和牛かのように見せかけるなどがある。 

 牛の等級に関しても、基本的に味ではなく、牛肉の外観の評価となる。商品となる部分の肉がどれだけ取れるかによるAからCまで分かれる歩留等級と脂肪交雑、脂肪の色沢、牛肉の締まりときめ、牛肉の色沢で総合的に5段階で評価される肉質等級がある。5Aランクと言われるものは、味が美味しいのではなく、肉質等級が5で歩留等級がAの見た目の牛肉であるということである。

 そのため、若い時はとりあえず5Aランクの黒毛和牛であれば何となくすげえ肉と感じ、普通のカルビよりは上が良し、そして、特上であれば尚良しであった。

 しかし、年齢を重ねると、身体的な変化が生じた。特上カルビを食べると胸に違和感があり、胃が徐々に重くなってくる。そして、歳を追うごとに特上カルビのその違和感が胸焼けとなり、翌日の下痢に繋がっていった。

 老いを感じた瞬間だった。特上カルビという脂肪の山脈をもう私の老いた肉体では登頂できなくなってきているなと。脂が内臓を拒否してるなと。

 最初は私も抵抗して特上カルビに拘っていたが、その後のヒレやホルモンがたべづらいという弊害が深刻になってきたため、徐々に上カルビ、そしてカルビ、5Aとか気にしない。むしろ避け始め、老いを受け入れるようになっていた。

 見栄を張り老いに逆らうのではなく、老いにあった生活を見つけていく。5Aの特上カルビはそんなことを気づかせてくれた大切な存在である。

 


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