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小説 確認男 らじらー

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らじらーでハマった即興劇を文章化してます。
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#noteでよかったこと

確認男 残業編

「あ、中田先輩、お疲れ様です」 「あ、新内」  声をかけられて初めて、隣に新内が立っていることに気づいた。  明日のプレゼンの資料を血眼で作っていたら、いつの間にか0時近くになっていた。自分の周り以外は、真っ暗で不気味なオフィスに、今更ゾッとした。。 「あ、よかったら、コーヒーどうですか?」  新内は缶コーヒを差し出してきた。 「気が利くねぇ」と俺は、笑って缶コーヒーを受け取り、椅子にもたれかかった。さっきまで前のめりになっていたせいで、腰がコンクリのように固まっていた。

確認男 パン屋さん編

 自動ドアが開くと同時に、焼きたてのパンの香りに包まれる。  甘さと香ばしさが混じった香り、ここに来て初めて、自分が空腹であることに気付かされる。  ここのパンはどれも美味しい。毎朝通っているから、ここのパンは全種類一通り食べた。ここまで外れのないパンを売ってるパン屋は他にあるのか? と声を大にして言いたいくらい全部美味しい。  中でも、メロンパンが一番好きで、最近はほぼ毎日買っている。  この店は親子三代でやっているようだが、店主の孫に当たる、文字通りの看板娘のみなみちゃ

確認男 コンビニ編

 立って寝る能力を身に着けた。  コンビニの夜勤を初めて早1年。幹線道路沿いでもないし、近くに24時間のスーパーがあるから、ここのコンビニに深夜に来る客は知れている。  主な業務は掃除や品出しの作業だが、その合間合間に寝ることができるようになった。店長も事務室で爆睡しているから、別に問題ない。  それに、微かな音ですぐに目が覚めることができる。入店の音楽がなった瞬間や、事務室から店長が出てきた瞬間に、寝てた様子を残すことなく起きれる。  ピンポーンと入店の音と同時に起きた。

確認男 修学旅行編

 自由行動。  みんなその時間を一番楽しみにしていた。  友達と遠出の旅行に行ったことのない高校生にとっては、好きな友達とワイワイ騒ぎながら、好きなところへ行ける自由行動は最高なのだろう。  俺にとっては、全部ツアーみたいに、ガイド付きで案内してくれたほうが気楽だった。自分でわざわざ観光スポットを調べる必要もないし、効率がいい。なにより、自分に友達のいないことが露呈しない。  でも、自由行動反対派なんて俺くらいだから、そんなマイノリティな希望は多数派にかき消される。  

確認男 バスの手紙編

「あ、樋口さん?」  バスに乗ってきた樋口さんを見つけて、俺は呟いた。 「あ!」  樋口さんも俺を見つけては、飼い主と久しぶりの再会した犬のように、笑顔をはじけさせた。  街外れの海岸線を通る路線バス。  俺はいつもこのバスに乗って、高校に行く。田舎というほど田舎ではないが、この辺りでバスに乗る学生は数人。あとは病院に行くおじいちゃんおばあちゃんくらいしか乗っていない。だから、乗客とは自然と顔見知りくらいの仲になる。  ある日、絶対に落とせない再試のために、俺はいつもより

確認男 卒業式の教室編

「卒業おめでとうー」 「おめでとうー」  高校最後の学び舎の教室で、みなみとお互いの卒業を祝いあった。  さっきまで校内を練り歩いて、ひたすら写真を撮りまくっていたが、教室に財布を忘れたことに気づき、1人さびしく教室に取りに来た。  3階の校舎の端の教室。  階段を上がるのが面倒で仕方なかったが、もうそのしんどい思いをしなくなると考えると、寂しい気もする。  窓から校庭を眺めて、もうこの景色を見るのも最後かと思ったら、いつもと変わらない景色でもセンチメンタルになった。  教

確認男 お見舞い編

 ピンポーン  今となっては珍しい、音だけが鳴るインターフォンで慎吾は目を覚ました。  熱のせいで全身に汗をかいていた。昼からずっと寝ていたから、今が何時かもすぐには把握できていない。窓の外はすでに真っ暗。夜であることは間違いなかった。  慎吾は起き上がると、ゴホ、ゴホッと咳もこみ上げてきた。寝ている間は忘れることができた喉の痛みも、思い出したように喉を手で擦る。 「はい」  慎吾がしゃがれた声でドアを開けると、大学で同じゼミのまあやが、心配そうにドアの隙間から顔を覗かせ

確認男 夜桜の下の男女編

「今日、楽しかったですねー」  会社の後輩のみなみちゃんは、公園の街頭に照らされている夜桜を眺めている。  桜を見上げているみなみちゃんの目も街頭に照らせれていて、初めて夜桜を見たみたいに輝いていた。  桜なんか目もくれず、みなみちゃんの顔に見とれていたら、不意に目が合って焦った。「いやー、楽しかったね」なんて、ありきたりな相づちを打った。 「そうねぇー」  みなみちゃんは、会社の花見という名の飲み会の後で酔っ払っているのか、先輩の俺に対して何のためらいもなく言った。普段聞

カニを食べに来た男女

「さゆりんごー」 「ふじもりんごー」  20代後半にもなって、彼女とこんな呼び合いをするなんて思ってもいなかった。  彼女の名前の”さゆり”と、彼女の好物りんごを合わせて、あだ名が”さゆりんご”らしい。付き合って一週間で、彼女に「さゆりんごって呼んでね!」なんて言われたら、断れるわけがない。それどころか、俺の名字の”藤森”から、「わたしはふじもりんごって呼ぶからね」と宣言されたら、俺だけあだ名を呼ばずないわけにはいかなかった。 「じゃあ、今ね。目的地着いたから」 「うん。

確認男 試合の帰り編

「はぁ」  試合が終わってから、何度目のため息だろうか。  帰り道、幼馴染のみなみと二人っきりになっても、俺からため息は漏れていた。 「試合お疲れ様ー」  みなみは改めて労ってくれた。わざわざ休みに応援に来てくれた。なのに、ダサいところしか見せられなかったのが余計に悔しい。 「最悪だよ……。あんなに練習したのに」  今日の試合で、今までの努力を全否定された気がした。俺の努力に対しての見返りがゼロだ。あんなに頑張ったのに、なにがダメだったんだというんだ。 「そうだね……。練