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老害が解説!デザイナーの「隠語」は本当に存在するか?

先日投稿した「デザイナーの隠語」が、思わぬ反響をよび、僕の意図とはやや違う形で広がっています。
また、この言葉は初学者の方向けではなく、あくまでコミュニケーション領域のプロデザイナー同士でごく稀に使われることを意図しています。
特定の状況での隠語なので、普通に使う分には褒め言葉です。

ただ、普段は初学者向けのツイートがメインで、たまにプロ向けの内容を呟いたので、誤解を産んだ気もします。初学者の方で、投稿を読んで驚いた方には謝罪します。
また、Twitterでは書きれない内容でもあり、デザイナーを続ける上で重要な考え方も含まれています。初学者の方にも参考になるように「具体的な事例」を紹介します。

以上を踏まえて、デザイナー間の「隠語」は存在するのかを、改めて考えてみます。


書いている人の経歴を紹介

どんな経歴の人が書いているのか、少し自己紹介をしておきます。
1976年生まれの中高年です。高2ぐらいからMacを使い始め、大学からは学生フリーランスでデザインもしていました。(知り合いの店のフライヤーなど)

職業デザイナーを始めたのはバブル崩壊後の、就職氷河期だった1998年です。
就職はどこも100倍で諦め、最初はグラフィック系のバイト(POPやリーフレットなどの販促ツール)から始めました。

その後、コンサルティング色の強いデザイン会社に入り、主にマス広告のビジュアルデザインやディレクターをしていました。(複数の会社でマンション、ジュエリーブランド、家電、車などの広告制作)
マス広告は、マーケティングが主導になる分野です。そこでは、認知度やブランド想起などのマーケティングスコアが数値目標になります。

デザイン会社の後は、広告代理店に転職しました。そこでは、デザインよりはマーケの課題に答えるコンセプトの企画が多かったですね。
デザイン実務は色々な制作会社と協力して進めます。グラフィック広告の会社、WEB制作会社、BtoBが得意な会社、ロゴ専門の会社、販促系が得意な会社、DTP作業に特化した会社、など様々です。
その過程で、色々なタイプのデザイナーと仕事をする機会がありました。

10年ぐらい、広告の仕事をした後にIT企業のマーケッターに転職して、2年ぐらいデザイン業界を離れました。その後は、プロダクトデザインやWEBデザインとコンサルの会社をやっています。独立してちょうど10年ぐらいですかね。

自分の会社でやっているデザインは、コンサルティング的なアプローチが多いですね。
最近では、WEBとマーケティングの融合が進んでいます。WEBデザインに加えて、コンテンツマーケや、CRM、リードナーチャンリグ(顧客の育成)などの提案をすることが多いです。

デザイナーへの「最高の褒め言葉」とは?

僕がいた会社は、コンサルティング色が強いということもあり、意匠は手段という環境が多かったです。
また、意匠はできて当然という雰囲気もありました。(できないと首になる厳しい状況で、いきなり給料が半分になる同僚とかもいました)
みんな、デザインの技術を身につけて生き残るため、不夜城で働いていた時代です。

そして、目的はコミュニケーションで課題を解決し、顧客に成果を届ける事です。

そんな環境の中、意匠を内輪で褒め合う事は逆に失礼という雰囲気もありました。(できてる人が生き残ってるので)

なので、「センスが良い」「かっこいい」などの言葉は、基本的には滅多に使わない物でした。この言葉が出てくるときは、何かしら問題のある場合ですね。(具体的な例は後述します)

滅多に使わないので「隠語」という表現にしましたが、どうもそれが問題になった気がします。会話の中で、そう言う意味で使うこともあると言う意図ですが。完全に=と捉える方もいるようです。

ちなみに、デザイナーとして言われて嬉しい言葉は、解決策のアプローチとかでした。例えば、「認知度の向上」と「機能的ベネフィット」など、複数の内容を同時に解決できたときなど、社内でアイデア面は褒められることはありました。

そして、最高の賞賛は、また同じ顧客から依頼がある事ですね。


「隠語」はいつ使っていたか?

僕の場合ですが、チームに中途でデザイナーが入ってきた場合に、わりと言っていたと思います。
マス広告のデザインはやりたい人も多く、結構色んな分野からデザイナーが入ってきました。この場合、ある程度の経験はあるけど、前職の分野が違い技量的に足りないこともあります。また、考え方が成果よりも意匠に向いたママの人もいます。

そこで、どうやって教えていけばいいのか?自分も苦労した点です。
一定の経験を積んだ人は、プライドの高い人も多く、結構本人のやり方にこだわります。そこで、良い部分は褒めつつ、問題点を指摘する感じで言っていましたね。

アーティスト

<アーティストなの。。興味ないことをしてくれない>
実際の独立アーティストを続けられる人は、表現の研究者で優れたビジネスマンです。
ただ、興味のない分野で露骨に手を抜く人に対して「アーティストじゃないんだから、、それだと苦手分野ができて苦労するよ」と言っていたと思います。

実際、広告に限らず商業デザインでは、あらゆる分野の表現力が必要です。
ハイセンスなラグジュアリーブランドから、スーパーのチラシまで、どんな表現でも作れると強いデザイナーになれます。(実際のこの2つ同じ会社で作る機会はなくても表現技術としては有用です)

あとは、商業デザインでは、伝えないといけないメッセージや意図があります。その辺を汲んだデザインができない時にも「アートじゃないから、この課題が解決する絵作りをしようと、具体的には〇〇がメッセージとして最低伝わる表現にしよう」と言っていました。

こういう人は、商業デザイナーとしては考え方が未熟で困ったタイプです。
ただ、造形力などは高い人が多く、辛抱強く考え方を教えていけば凄い戦力になりますが。。


センスある

<センスあるが。。感覚で作っていて技術にかなり問題のあり>
当時のデザイナーに「センス良いですね」というと、感覚では作ってないと怒られたものです。
ただ、デザインの技法が今ほどは普及しておらず、センスはあるけど技術がない人も存在しました。

そして、センスありすぎる人は、デザインに技術が必要だという話に、なかなか納得してくれない場合もありました。
そういうタイプの人が、チームに入ってくると僕がピンチです。「やばい奴がきた、どうやって教えていけばいいんだろう」と悩んだものですね。
そういうときは、「センスは全体的には良いけど、色の使い方が独特すぎるので、定石を使ってみよう」とか、そんな感じでなるべく理論に基づきデザイン添削をしていたと思います。

デザイン理論は、今では技術書なども売られていおり、考え方としてかなり普及しています。しかし、以前はそうでもなく、仮に知っていても身につけるには時間のかかる技術です。
しかし、センスがありすぎて、技術に関心のなかった人にこそデザイン技術は有用です。それは、感覚でつくている人は出来不出来の差が激しいからです。
自分がなぜ出来ているのか?そこを技術で分析することにより、再現性の高い仕事ができるようになります。

ついでに、僕がnoteに書いた技術解説も紹介しておきます。

かっこいい

<かっこいいが。。表現の偏りがあり同じようなトーンしか作れない>
デザイナーの中には、ハイブランドのようなカッコ良いものは作れるけど、わざと安く見せるような、トーンが作れない人もいます。

例えば、ハイブランドでも、シーズンキャンペーンなどで値段を下げて見せたい場合があります。
その時に、「カッコイイけど、、表現が偏って毎回同じものになっているね。今回の目的には、他のトーンのデザインが必要。色使いを増やしたり、余白を詰めたり、写真の大きさに差を出して、もう少しエコノミー感を出そう」という指示をしたりしてました。まず、一定の評価をして問題点を伝える感じです。

その方が、ただダメ出しするより、デザインに対する指摘が伝わりやすくなります。

デザインで言うトーン&マナーというのは、スタイルの方向性と価格感の両方の意味を含んでいます。
デザイナーの中には特定表現に特化する人もいますが、様々なトーン&マナーを作れると強いデザイナーになれます。
トーン&マナーを決める場合は、デザインのポジショニングマップを作り、競合などと比べてどの辺のトーンを目指すのかを設計します。

具体例として、少し前に行ったブランド分析の資料を紹介します。
ECOALFというファッションブランドを事例に、どの辺のトーン&マナーを狙っているか推測しているものです。

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デザインの「隠語」は存在するのか?

結論から言うと、現在は「隠語」は存在しないようです。つまり、デザイナー同士が普通に褒めあい、問題点を指摘する文化が育っているようですね。

僕の認識では、プロのデザイナー同士はお互いを褒め合うのは、失礼に当たると思っていました。
しかし、現役デザイナーにアンケートをとってみたところ、、、今では褒め合う人が95%と大半ですね。
つまり、僕の感覚がズレている「老害」状態です。

ただ、あくまでTwitterアンケートであり、これが絶対多数と考えるのも危険ではありますね(属性ごとにクロス集計できるわけではないので限界はあります。)

この辺は、デザイナーと言っても世代だったり、顧客層だったりが影響します。なので、現在でもデザイナーごとにそれぞれ違うと思います。

ただし、この結果を見て、僕の感覚もアップデートされました。
デザイナーはどんどん褒めあって良いようですね。確かにその方が楽しいと思います。
そして、問題点がある場合は、ストレートに指摘しても大丈夫なようです。
これは、デザインの技術が一般化して、納得してもらいやすくなった点もありそうですね。

ただし、デザイナーは意匠を作って自己満足できる甘い世界ではありません。顧客にどう成果を届けるか、そこが一番重要なのは変わらないと思います。
デザインを定正的な印象論ではなく、売り上げ、認知度、購入率などの定量面で分析できることも必要です。

先輩後輩に関わらず、率直にレビューし合うことで、デザインの技術面、メッセージの構造、商業的な効果をより理解できると思います。
こういう習慣が定着していくことで、デザイン業界全体のレベルも上がると思いました。

最後に:デザイナーも色々。もっと情報が広まると良い

僕はマス広告系の会社が多かったですが、同じカテゴリの中でも会社ごとにやっている事は様々です。
デザイナーの役割も本当にバラバラで、企画がメインになる場合もあれば、代理店からくるラフを形にする工場的な職場もあります。
広告代理店にいた頃には、色々な制作会社とも付き合いましたが、同じ会社の中でもデザイナーごとにやり方が違います。

これらを同じデザイナーと呼んで良いのか以前から疑問はあります。
なので、デザイナーを代表する意見とかは元々存在できないと考えています。

また、CGなど、色々な分野にデザイナーと名の付く職業が増えていますね。

その点で、全カテゴリのデザイナーを代表しているように見えたのが、誤解を産んでしまったようです。

しかし、Twitterの個人アカウントでの発言なので99%自分の体験と主観です。

ある程度経験の幅はあると思いますが、多数派ではないこともあるのでその辺はご容赦ください。

そして、今は、僕がデザイナーを始めた頃に比べて20倍以上にデザイナー人口が増えている時代です。もっと、情報発信を増やしてデザイナーという仕事の理解が進むと、色々なデザイナーも働きやすくなると思います。

今回、老害になった件を踏まえて。
今後僕だけでなく、他のデザイナーの情報発信をサポートできる方法を考えていきます。


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