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トップ対談 "瀬戸内モデル"が世界に示す可能性「瀬戸内ブルーエコノミー構想」

こんにちは、笹川平和財団の活動をレポートするquod編集部です。

このnoteでは、笹川平和財団の取り組みを通して「環境問題」「国際問題」といった、なんだか聞くだけで難しそうなテーマを、できるだけ分かりやすく、そして興味を持ってもらえるように紹介していきます。

前回は、ブルーエコノミーとも関連する日本初のLNG(液化天然ガス)燃料フェリー「さんふらわあ くれない」について紹介しましたが、今回は運行会社である株式会社フェリーさんふらわあの赤坂光次郎社長(※撮影当時)と笹川平和財団の角南篤理事長の対談の内容をご紹介します。

※2023年10月1日付で「フェリーさんふらわあ」は「商船三井さんふらわあ」へ社名を変更し、赤坂光次郎社長は副会長執行役員に就任。

■「ブルーエコノミー」の“瀬戸内モデル”を世界に発信へ

海の環境に配慮しながら、経済を成長させる「ブルーエコノミー」。

「SPFブルーエコノミープロジェクト」は国内外で進む最先端のブルーエコノミーの現場に、笹川平和財団の角南篤理事長が訪れ、今後の可能性や課題を探る企画です。

第4弾では、日本初のLNG燃料フェリー2隻を導入したフェリーさんふらわあの赤坂光次郎社長と角南理事長が、ブルーエコノミーの先進地である瀬戸内海のモデルを世界に向けて発信する「瀬戸内ブルーエコノミー構想」について議論を交わしました。

また、笹川平和財団とフェリーさんふらわあの「深い関係」も明らかに!?

YouTube動画には盛り込みきれなかった部分を含めた今回のプロジェクトの全容をレポートします。

quod編集部)

■「瀬戸内ブルーエコノミー構想」どう進める?

2023年7月、大阪南港(大阪市)に停泊中だった、国内初のLNG燃料フェリー「さんふらわあ くれない」に乗り込み、その実力を目の当たりにした笹川平和財団の角南篤理事長と、フリーアナウンサーの瀬戸あさ美さん。

この後、フェリーさんふらわあの赤坂光次郎社長が多忙なスケジュールの合間を縫って来てくれました。

今回の対談のテーマは、角南理事長が以前から掲げている「瀬戸内ブルーエコノミー構想」についてです。

◇そもそも「瀬戸内ブルーエコノミー構想」とは?

瀬戸:角南さん、今回の対談テーマ“瀬戸内ブルーエコノミー構想”とはいったいどんなものなのか、まずはご説明をいただけないでしょうか。

角南:実は私は岡山県で生まれ育ちましたので、瀬戸内海に対しては深い思い入れがあります。このエリアには、大小700以上の島があって、本当に美しい場所なんです。
この美しい海を守りながら、もちろん経済も発展させたい。そしてそれを世界に発信したい。そんな思いから始まったのが、いまお話いただいた「瀬戸内ブルーエコノミー構想」です。
私と同じ岡山出身のグラフィックデザイナー、原研哉さんが主宰する「瀬戸内デザイン会議」でも、いま一緒に議論を始めているところです。

「瀬戸内デザイン会議」は、世界的なグラフィックデザイナー原研哉さんらが主宰し、瀬戸内エリアに縁のある財界人、学者、アーティストらでつくる有志組織です。

角南理事長はこの「瀬戸内デザイン会議」の場で、ブルーエコノミーの先進地である瀬戸内エリアの取り組みを世界に向けて発信していこうと呼びかけていて、瀬戸内モデルの確立に向けた取り組みが「瀬戸内ブルーエコノミー構想」なのです。

角南:「瀬戸内デザイン会議」に限らず、いろいろな方々と一緒に瀬戸内の未来を考えていきたいと思っていますので、赤坂社長には、我々の構想の仲間になってくれればいいなというふうに思っています。

瀬戸:角南さんからの熱いラブコールでしたが、いかがですか? 

赤坂:いま我々がやっていることと、瀬戸内ブルーエコノミー構想は、方向
性は似たようなところを走っているのではないか。そう感じております。

◇ブルーエコノミーの原動力「サステナブル消費」とは

角南理事長からの呼びかけに対し、「方向性は同じ」と応じた赤坂社長。

そして、日本初のLNG燃料フェリーの導入は、地球に多くの負荷をかけないモノやサービスを消費者が選んで購入する「サステナブル消費」を促すことにつながったと話します。

赤坂:商船三井グループでは、経営ビジョンの中で2050年までにゼロエミッションを達成するという目標を掲げていまして、その一つとして、このLNG燃料フェリーを建造したのですが、このフェリーには“環境に優しい”ということを理由に乗ってくれるお客様が増えました。
 
瀬戸:確かに最近はサステナブルな視点を持っている人がますます増えてきている印象がありますよね。
 
角南:やはりお客さんは そういうことを理解されているし、これから増えてもいくと思います。それこそが、まさに我々が考えるブルーエコノミーの原動力なんです。LNG燃料フェリーのお話を伺うと、明るい未来が少し見えてきそうな印象を受けました。

◇「モーダルシフト」がブルーエコノミーをさらに加速させる!

赤坂社長は、ブルーエコノミーの原動力としての「サステナブル消費」について触れた後、さらに、もう一つの重要な側面を指摘しました。

赤坂:通常、うちのフェリーは夜中に走るんですね。なぜかというと、物流のお客様は早朝に着いて午前中にデリバリーするというパターンを望まれているからです。うちのフェリーが支えているのは、旅客よりむしろ物流なんです。
だからこそ、うちのフェリーに、普段、CO2を排出しているトラックなどの車を載せることでCO2を減らしていくことが非常に大事です。“モーダルシフト”をどんどん加速させていきたい。それこそが、LNG燃料フェリー導入の一番の狙いなんです。

「モーダルシフト」とは、自動車から、環境負荷の少ない鉄道や船舶への転換のこと。

たとえば、大阪から大分まで、高速道路を走ってトラックで輸送することに比べると、LNG燃料フェリーにトラックを載せて夜間に移動する方が、圧倒的にCO2の排出量は少なくなるのです。

さらに、モーダルシフトは、「物流の2024年問題」の解決にも貢献するといいます。

2024年4月以降、トラックドライバーの残業規制が強化され、人手不足と労働時間短縮が相まって、輸送の滞りや混乱が予想されているのが「2024年問題」ですが、LNG燃料フェリーを使えば、その解決にもつながると、赤坂社長は言うのです。

角南:トラックの運転手さんが高齢化する、あるいは足りなくなるというのがもう見えてるわけですよね。ですから、拠点から拠点を運転しないで寝ていただいてこのフェリーは、とても重要な取り組みであると思います。

瀬戸:LNG燃料フェリーは環境問題だけでなく、雇用問題にも貢献しているということなのですね。
 

赤坂:まさに、そういうことになります。

■笹川平和財団と商船三井グループに意外な関係が!?

ここから話題は、笹川平和財団と、商船三井グループとの「意外なつながり」に関することに移っていきました。

そのつながりとは、笹川平和財団が創設に深く関わった“海のカーボンクレジット”「Jブルークレジット」を、商船三井グループが購入しているということでした。

瀬戸:フェリーさんふらわあの親会社である商船三井は、Jブルークレジットの購入に積極的なんですよね?
 
赤坂:商船三井は22年度にですね。7プロジェクトから12.7トン分を購入しています。商船三井自体、船を走らせてるので、ものすごいCO2を排出しているわけですが、その一部を購入したクレジットでオフセット(相殺)しようということですね。
 
瀬戸:素朴な疑問なんですけれども、12.7トン分ってどのくらいの量なんですか?
 
赤坂:商船三井グループ会社が走らせている電気推進タンカーがあるのですが、そのタンカーは、すべて電気で走らせることができなくて、一部で、重油を使ってエンジンを回すことが必要なんですね。そのときに出る排出量をこの12.7トンでオフセット(相殺)しています。

■対談を終えて・・・

「瀬戸内ブルーエコノミー構想」をテーマに、およそ1時間繰り広げられた対談。

最後に赤坂社長は、瀬戸内海に浮かぶ多くの島を活用した事業の可能性に言及しました。

赤坂:瀬戸内海というのはものすごく希有な自然遺産なんです。ベトナムでいうとハロン湾というのがあって、それも島が同じようにいっぱいあるはあるんですけど、全然規模が違うんです。
フェリーさんふらわあでは、そういう魅力を知ってもらうために、昔は小豆島に寄ったりとか、そういうこともやってたんです。けれども、それをやると今度は採算的に難しいとなってしまう。でも、どうすれば採算が合ってお客様に喜んでいただけるのか。瀬戸内海の価値をもう一度再認識してもらえるような航路を新たに作れないかと今日のお話を聞いて思いました。実現すれば、今までサボっていた、となるかもしれませんが(笑)

一方、角南理事長は、今後、フェリーさんふらわあをはじめ、多くの企業・団体を巻き込んで、瀬戸内ブルーエコノミー構想の早期実現を目指す考えを明らかにしました。

角南:本当に心強い社長からのコメントをいただきました。『瀬戸内』が世界に先駆けていくと期待していますし、そうなるべきだと思っています。瀬戸内ブルーエコノミー構想は、赤坂社長とともにさらに発展させていきたいと思います。

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■「ブルーエコノミー」の学び

→「瀬戸内ブルーエコノミー構想」
世界でも有数の閉鎖性の海域で700以上の大小の島があると言われる瀬戸内。その瀬戸内では、大阪府阪南市以外にも、兵庫県や岡山県、広島県などでアマモの保全・再生事業が行われているなど、世界的にも先進的な取り組みが進んでいる。その「瀬戸内モデル」をさらに発展させるため、様々な企業・団体との連携を目指すのが瀬戸内ブルーエコノミー構想で、笹川平和財団の角南篤理事長が提唱して始まった。
 
→「サステナブル消費」
地球に多くの負荷をかけないモノやサービスを消費者が選んで購入する消費行動。
 
→「モーダルシフト」
貨物輸送をトラックや自動車から、環境負荷の少ない鉄道や船舶への転換すること。

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大阪府阪南市や、フェリーさんふらわあのLNG燃料フェリーを舞台に取材を進めてきた今回のシリーズはいったんここまでですが、今後も取材は続けてまいります。
 
笹川平和財団のホームページや公式YouTubeなどで是非チェックしてみてください!