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世界が注目する新たなカーボンクレジット「Jブルークレジット」

こんにちは、笹川平和財団の活動をレポートするquod編集部です。

このnoteでは、笹川平和財団の取り組みを通して「環境問題」「国際問題」といった、なんだか聞くだけで難しそうなテーマを、できるだけ分かりやすく、そして興味を持ってもらえるように紹介していきます。

第一話では“海のSDGs”とも言われる「ブルーエコノミー」について取り上げました。
第二話では、このブルーエコノミーの取り組みを加速させる、新たなカーボンクレジットの仕組み「Jブルークレジット」を紹介します。

■“海のSDGs”「ブルーエコノミー」のおさらい

二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの削減が世界で注目され、日本でも2050年のカーボンニュートラルの実現に向けさまざまな取り組みが進んでいます。

その中で今、注目を集めているのが、「ブルーエコノミー」という概念です。

海の環境に配慮しながら、経済を成長させる新しい考え方のことで、実は今、漁業をはじめ、観光業、海上輸送業など様々な分野で、ブルーエコノミーに関連する取り組みが始まっているんです。

笹川平和財団では、このブルーエコノミーをもっと多くの方々に知ってもらう活動として国内外で進む最先端のブルーエコノミーの現場を、笹川平和財団の角南篤理事長が訪れ、今後の可能性や課題を探る企画「SPFブルーエコノミープロジェクト」をスタートしました。

                          (quod編集部)

■ブルーエコノミーの切り札「Jブルークレジット」とは

第2弾は、「Jブルークレジット」について紹介します。

YouTube動画には盛り込みきれなかった部分を含めてレポートします。

2023年6月、笹川平和財団の角南篤理事長と、フリーアナウンサーの瀬戸あさ美さんは、大阪府の最南端に位置する阪南市の海を訪れました。

そこで2人が目の当たりにしたのは、再生・保全活動が行われている海草「アマモ」が持っている二酸化炭素の吸収源としての実力です。

そして、再生・保全活動に刺激を受けた漁師さんたちが、牡蠣などの養殖に取り組み始め、地域経済の活性化にもつながっていることがわかりました。

まさにブルーエコノミーの理想的なモデルが大阪府阪南市では、実現していたのです。

これだけでもスゴいのですが・・・実は、阪南市では、さらにオドロキの仕組みが取り入れられているというんです。

◇地域を越えて広がるブルーエコノミー

瀬戸:アマモの保全活動をすることによって、経済がどんどんまわっていくというお話をここまで聞いてきましたけれど、それだけではないんですか?
角南:そうですね。アマモを保護することによって、そこに魚たちがいっぱい集まってきたり、きれいな海で牡蠣の養殖が行われていたりと、漁業面での経済効果を見てきたわけですが、それだけでは、『浜の単位』の中だけですよね。実は、ブルーエコノミーをもっと広げていくために、『カーボンクレジット』を参考にしたシステムをつくりました。それが『Jブルークレジット』なんです 。

森林のCO2の吸収量や削減量をクレジット化し、企業などに販売する「排出権取引」はよく知られていますが、2020年度にスタートしたJブルークレジットは、アマモなど海の植物が吸収するCO2を取引する、最先端の仕組みです。

瀬戸:各地で今、CO2をどう削減するか取り組んでいる中ですが、それがなかなか難しい、という企業などがJブルークレジットを買う、ということなんですね。
角南:そうです。そして、クレジットの販売で得られた資金は、新たにアマモを再生するための資金としても循環する。これこそ、まさに“ブルーエコノミー”なんです。

 ■Jブルークレジット 誕生の地へ

ブルーエコノミー推進の切り札ともいえる「Jブルークレジット」。
この優れた仕組みはどのように生み出されたものなのでしょうか?

quod取材班は、その源流を知るため、Jブルークレジットを生み出した、神奈川県横須賀市の「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合」(JBE)に向かいました。

JBEの本拠地があったのは、国土交通省所管の「港湾空港技術研究所」の建物の中。というのも、JBEのトップ、桑江朝比呂理事長は、この研究所の研究員でもあるといいます。

JBE本部で、さっそく桑江さんに話を聞くことができました。

桑江:私自身、ブルーエコノミー推進のためには、CO2の排出削減量を企業間などで取引する『カーボンクレジット』が非常に有効なツールだと以前から考えていました。この仕組みをなんとか社会実装したいと考え、2020年に設立したのが、JBE=ジャパンブルーエコノミー技術研究組合になります。

そして、桑江さんが、頼れるパートナーとして紹介してくれたのが、JBEの理事であり、笹川平和財団 海洋政策研究所の上席研究員を務める渡邉敦さんです。

笹川平和財団は、JBE創設にあたっても、力強いサポートをしてくれたといいます。

渡邉:Jブルークレジットの取り組みは、笹川平和財団の中でも重要なプログラムに位置づけられています。私自身、海外によく足を運び、COP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)などの現場でJブルークレジットの取り組みを世界に紹介しています。
桑江:笹川平和財団は、元々国際的な取り組みには強い財団ですし、国際的なことはすべて渡邉さんにお任せしています。一方で私は、基礎研究とか技術開発に強みがあります。両者の強みをコラボさせたのがJBEなんです。

◇20年のアマモ研究で得られた成果

世界最先端のアマモ研究が行われているという「港湾空港技術研究所」の中を、桑江さんが案内してくれました。

桑江さん自身、20年以上にわたり、アマモなどの海草や藻場の研究に打ち込んできたといいます。

桑江:例えばこの水槽では、アマモと一緒にアサリを入れて、アマモの成長が良くなるかとか、CO2吸収力が高まるかとか、そういった実験をやっています。結果は、これから出てくるところですが、期待しています。

アマモの可能性について語り出すと止まらなくなるといった雰囲気の桑江さん。でも、ここまでたどり着くには、様々な苦労もあったといいます。

実は、アマモなどが生育する海の沿岸部は、元々CO2の吸収源となるどころか、逆に増大に寄与していると考えられていたというんです。

街から川をつたって流れてくる栄養分が、浅瀬でプランクトンなどに分解される際、C02が排出されます。また、アマモなどの海草が光合成の際に使うのは、海中のCO2であり、大気中のCO2ではないと考えられていたため、トータルでみると、大気中のCO2は増えている、という理屈です。 

桑江:ただ、私は、光合成をして酸素をたくさん出しているアマモの姿を観察しながら、従来の考え方は違うのではないかと直観しました。様々なデータをとって調べたところ、アマモは、CO2削減に大きく寄与していることを証明できました。

桑江さんの研究チームが解明した大きなポイントは、アマモが大気中からもCO2を吸収しているということ。アマモは、干潮時などに海面に顔を出すタイミングで、大気からもCO2を吸収していて、その割合は平均17%に上ることを突き止めました。

こうしてアマモは、日本のブルーカーボンの代表格となっていったのです。

 ◇科学的な計測に基づいて認証される「Jブルークレジット」

港湾空港技術研究所の中を案内されながら歩いていると、ドローンを飛ばしている研究員に偶然出会いました。

再び桑江さんが、ここぞと解説してくれました。

桑江:実は、今後、Jブルークレジットの発行が増えていくにあたって、一番期待しているのが、このドローンなんです。近赤外線を撮れる特殊なカメラを搭載していて、これを使って上空から撮影すると、海の中の植物の活性データがとれるんです。

このドローンを使えば、アマモなどが吸収するCO2の量を簡単に計測できるというのです。

「Jブルークレジット」を全国の自治体や漁業組合などが発行する際、JBE=ジャパンブルーエコノミー技術研究組合が担っている重要な役割が、CO2の吸収量を計測し、クレジットを「認証」するという役割。 

この最新ドローンによって、今後は「認証」がさらにスムーズになる見通しです。

■「Jブルークレジット」が加速させるブルーエコノミー

Jブルークレジットがこれまで発行されたのは、瀬戸内海の沿岸を中心に、全国21カ所に上っています。東京近郊では、神奈川県葉山町などが参画しています。

Jブルークレジットの取引で得られた資金は、その地域の海の環境保全に使われるため、購入しているのは、クレジットが発行された地域の企業が多いのが特徴だといいます。

ただ、大手企業もJブル—クレジットの購入に踏み切っています。代表的なところでは、商船三井や東京ガス、鹿島などがあります。

いずれも、事業の性質上、CO2の排出を当面は避けられないため、クレジットを購入することで、それを相殺(オフセット)しようとしているのです。

桑江さんは、今後、Jブルークレジットの普及はさらに加速するとみています。

桑江:たとえば、CO2の吸収源である森林を伐採しながら、太陽光パネルを設置して表面上の排出削減をしているというプロジェクトと、海の藻場を再生しながら漁業者が幸せになって地域振興にもつながっているプロジェクトの2つがあった場合、購入者である企業がどちらを選ぶようになるのか、その答えは明白なんだと思います。

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■「Jブルークレジット」の学び

→「Jブルークレジット」

企業等が排出する二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの削減量・吸収量をクレジット化する「カーボンクレジット」の一種。
アマモなど海の植物によるCO2吸収量をクレジット化した国内初の仕組みで、クレジットの売却益は海洋植物を再生するための資金として循環する。

→「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合」(JBE)

海洋の保全、再生、そして活用などブルーエコノミー事業の活性化を図ることを目的とした技術(方法論)の研究開発を、異なる分野と立場の研究者、技術者、実務家らが密に連携して実施している。

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次回は、株式会社フェリーさんふらわあ(10月1日付で商船三井さんふらわあに社名変更)が、国内で初めて導入した、環境に優しいLNG燃料フェリーに潜入取材。ブルーエコノミーのさらなる可能性について迫ります。

次回の記事もお楽しみに。