彼女に愛されてはいけません

また一つ、命を破壊してしまった。

どうしようもなかった。だってまた私は抗えない感情に支配されるところだったもの。

そうなる前に誰かを破壊しなければならなかった。

じゃなかったら、また私は皆を苦しめてしまう。


とある世界を滅ぼしたあの日、私はまた新たな世界で使命を果たすことになったのだが、その日から問題が起こった。

私が滅ぼした世界の主が残した書記が、私達種族の待遇を変化させてしまったのだ。

彼女を愛してはいけないー。

この文のせいで、私達は種族を明かすことができなくなったのだ。

明かした瞬間私達は目を背けられ、二度と誰にも相手にはされない。

ただそこにいないかのように、元々そんな存在はなかったかのように扱われ、二度と触れてはもらえない。

守るための世界を理解するために、別の種族として世界に侵入するー。

守られることに罪はないはずなのに、私は世界からそう生きることを許されなくなった。

振る舞うにしても永遠に別種族として生き、意思を果たすことを諦めるしか無い。


許せなかった。


ただひたすらに自分を、そんな世界を
許せなかった。



だから私は、向き合うことにした。
私を、私の種族を苦しめる原因に。

私が抗いきれなかった感情に。

誰かを愛するという感情に。


衝動的に、生き物は恋に落ちることがある。

元々持っていた思想理解に関係なく、相手を愛したいと思ってしまうことがある。

いや、衝動に駆られるというほうが正しいか。

誰かを愛することは、誰かの為に生きることに等しい話である。

ましてや、「世界を守る」ことが存在理由である私は、その「生きる」が意思に直結することになるので、世界が私の愛する誰かのものとして振る舞われることは確実なのだ。

そのため、私が愛する誰かー所謂世界の「主」を妨害する行為や主に害を及ぼす存在は、私の意思により何であろうとも殲滅される。

それは主の意思関係なく、私が敵だと見なしたものは全て。


まるで怪物のようだ。

彼が私のことを「暴走」と書残した理由もわかる。

主の思いも届かず、ただ使命のままに破壊の限りを尽くす殺戮兵器となる、なんと残酷なことであろうか。



そして私は決心した。

種族のために、この真実に立ち向かうと。

二度と、誰かの為に世界を滅ぼさないために
衝動に耐えてみせると。




その結果が、今目の前で横たわる死体である。

私はこれで何百人を殺したことになるのだろう。

幸い、私の力は事故のような、災害に巻き込まれたかのような事象として処理されるため、私が彼らがいう「殺人罪」として疑われることはない。

感情の抑制はまだまだ完全な部分はないにしろ、この何度目かの、主の破壊作業を通して少しずつ慣れてはきた。

いずれ、私が誰かを自然に愛せるようになり、種族が開放される日も近いはずだ。

そのために何人もの世界が否定されようが、私はその犠牲を受け入れ前に進むしかない。

誰かの思いと、私の意思を両立できる日が来るまで。
















彼女に愛されてはいけない。

彼女に愛されれば、問答無用で殺される。


彼女は誰かの為に生きようと努力するが

彼女はやはり別の種族であるが故に

命の価値を知らない。


どれだけ彼女が変容しようとも

彼女の存在における意思は

「世界」を破滅へと導く。


彼女には、絶対に愛されてはいけない。
勿論彼女を愛してもいけない。

彼女に愛されてはいけない。












ある日、私が正体を明かしても何も変わらずに対応してくれる人を見つけた。

彼は「私のためを思って何をしてくれても良い」と私の存在を認めてさえもしてくれた。

彼は私の意思を尊重し、色んな物から彼を守らせてくれた。

私は彼の言う通りに彼を守り、やがて世界は本当に彼のものになった。

こんなに嬉しいことがあっただろうか。

何もかもを破壊したのに
私を認めてくれて
愛してくれる誰かがいるなんて。




あなた以外を滅ぼせて良かった。

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