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第六章 物語の始まり #02帰り道

帰り道、まだ帰りたくないなと思いながら駅へ向かっていた。もうすぐ駅に着きそうな時、「お腹すいた?夜ご飯食べて行こうか?」と聞かれた。私の心が読めるのかと思うくらい、いつもいいタイミングで言ってほしいことを言ってくれる。心が読まれるのは少し恥ずかしいので、考えるフリをして間を取って「はい。」と答えた。

お店はいつも彼が決めてくれる。私は優柔不断だから、そういうところ助かっている。焼き鳥がおいしい居酒屋へ。電車の時間を気にしつつ、たわいもない話をしながら焼き鳥を食べて、そろそろ帰ろうかとなった。そういえば、誕生日プレゼントのクッキーいつ渡そう、、と思いながら駅へ向かう。ホームで電車を待ちながら、今しかないと思い「これ、誕生日プレゼント。クッキー。」と手渡した。何か言われるのが怖くて顔を見れないでいると「えっ、作ってくれたの?マジで!今食べていい?」と嬉しい反応。嬉しいのと恥ずかしいのでいっぱいだし、おいしくなかったらどうしようと不安で「おいしくないかもしれないけど、、」と言うと、ガサガサ袋を開けてパクッとクッキーを口に入れた。ドキドキしながら見守る。もうどうにでもなれという気持ちだ。「うん、おいしい!ひろちゃんの味がする!」と言ってニヤッと笑った。「ひろちゃんの味ってどういう意味!?」と言いながらも嘘でも美味しいと言ってくれたことがうれしかった。

電車に乗り、彼の降りる駅が近づいたので「今日はありがとうございました。楽しかったです。」とバイバイするための言葉を言うと、「家まで送るよ。」とニコッと笑った。キュンとして胸が苦しくなる。「え、大丈夫ですか?」「うん、心配だから。夜道はあぶないし。」どこまでも優しい。

最寄駅に着き、駅に止めていた自転車を取りに行くと彼が自転車を押してくれた。こういうの青春ぽい。歩きながらいろいろな話をした。あと少しで家に着きそうな時、歩道橋の下で彼が自転車を止めた。「こっち来て」というと道の端にぎゅっと体を寄せられキスをされた。家の近くだし誰かに見られたらどうしようというドキドキと違うドキドキとで心臓がもたない。あぁ、もっと好きになってしまう。

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