見出し画像

第一章アルバイト #03まかない

仕事にも少しずつ慣れてきた。相変わらずみんな優しい。私が一番嫌いだった天ぷら売りの仕事は幸運なことに無くなることになった。売り上げが悪かったのか、売り場自体がなくなるらしい。私のせいじゃないよね。

蕎麦屋というのは、結構常連客というのがいるもので、代々受け継がれているノートに常連さんの情報が事細かに書かれていた。いつもかけそばを頼んで1分もしないで食べ終わって帰っていく人。この人はせっかちだから注文からお出しするまで急ぐこと!など、お客さんへの対応マニュアルのような感じだ。注文を取って、料理を運ぶことの他に、開店前の掃除、薬味の用意、食器洗い、会計、箸やおしぼりの補充などなど結構やることはたくさんある。優しい皆さんのおかげで少しずつ仕事もできるようになってきた。と思う。私が楽しみにしていたのは休憩時間のまかないで、いつも蕎麦なんだけど、調理場の人の気分によってのせてくれる具が違っておもしろいし、何よりおいしい。フリーターの高田さんはいつも結構いいものをのせてくれる。他の人はだいたい山菜と気分が良ければ大根おろしくらいだけど、高田さんは天ぷらとか、たまにデザートであんみつを出してくれたりした。こんなにまかないに出して大丈夫かな、と思ったりもしたけど、「店長にはないしょね!」と言ってたからきっと大丈夫じゃないんだと思う。バレたら私も同罪だ。けど、不思議と悪い気はしない。それにしても、高田さんって23歳で蕎麦屋でバイトって、なんでかな。と思ってても聞ける訳がない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?