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第六章 物語の始まり #01花火大会

こんなに楽しい夏は、今まであっただろうか。自分が浪人生だということを忘れそうなくらい、幸せだった。

付き合ってすぐに彼の誕生日があって、その日に花火大会へ行くことになった。初めてのデート。浴衣着ようかな、でも気合い入ってるって思われるのも恥ずかしいし、、私服で行こう。誕生日プレゼントって何あげたらいいのかな、、考えすぎて分からない、、お金もないしな。悩んだ末に手作りクッキーをあげることにした。クッキーと決めたものの、おいしくなかったらどうしようとか心配は尽きない。

当日、いつもの本屋で待ち合わせ。いつも通り、「ごめん!少し遅れる!」のメール。想定内。待っている時間に心を落ち着ける。待ち合わせ時間より少し遅れたやってきた彼を、平常心を装って出迎える。花火大会の時間もあるので、少し急いで駅へ向かうことにした。この辺りは、知り合いに会う可能性もあるので、誰かに会うんじゃないかとドキドキしながら歩く。花火大会会場の最寄り駅に着く頃には、いい感じに薄暗くなっていた。会場は、花火を見る人の行列ができていた。「すごい人だね。」「そうだね。」そんな何気ない会話もうれしかった。並んでる間も絶妙な距離を保って、他愛もない話をしていた。手を繋ぐタイミングって難しい。繋ぎたいけど、こっちからは、、なかなか出来ない。行列が動き出すと、慣れた感じで彼が誘導してくれた。「この辺だったら見やすいかな。ここでいい?」と言われ、私は言われるままに頷いて座った。花火が始まるまでまだ時間があるので気まずい。何話そう、と思っていると右手に何かが触れた。そっと握る彼の左手。そうやっていつも絶妙なタイミングでドキドキさせてくれる。顔を見ると少し恥ずかしそうに顔をそらした。大胆なことをするくせに実は恥ずかしがりなところがいい。「そろそろ始まるかな。」そういうと、一発目の花火があがった。「おぉ〜!」もう一発、もう一発。花火があがる度に、彼との距離が縮まる。飲み物を飲むために手を離す。飲み終わるとそっと手をにぎる。幸せだ。きっと幸せってこういうことを言うのだ、そう思った。

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