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第一章アルバイト #02天ぷら

ドキドキ最高潮で迎えた面接は、意外にもあっさり終わった。「とにかく大事なのは大きな声で元気に挨拶すること。そこは厳しくいくから。じゃあまた!」店長らしきおじさんそう告げられ、はじめてのバイトが決まった。大きな声を出すことが苦手な私は、急に不安になりながらも、バイト決定というちょっとした達成感も感じていた。

店長らしきおじさんは店長ではなくて専務で、ほとんど店には来なかった。主なメンバーは、店長と大学生のバイトとフリーター、そして私。一番年下ということもあってかみんな優しかったし、三日月庵というその名前も何だか気に入っていた。タンちゃんが辞退してくれてよかったのかも。

初めての仕事は、天ぷらを売ること。店で揚げた天ぷらをデパ地下の天ぷら売り場に持っていって売る。レジの打ち方も分からないし、夕飯を買いにきたおばちゃま達の勢いに圧倒されてしどろもどろだし、もう最悪。蕎麦屋で働くつもりだったのに、これじゃあ天ぷら屋じゃん!!一緒についてくれた先輩の酒井さんは呆れてたと思う。「佐藤さんって何考えてるか分からないよね。」と言われたけど、酒井さんこそ何考えてるか全然つかめない。大学生の男って一体何を考えてるのだろう。とりあえず、働くって難しい。

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