デッドマンスイッチ・ラブ・シャンプー
綿100%の下着しかつけない。俺は肌が弱いから。
そんな俺のこだわりがつまったボクサーパンツは吸水限界をむかえ、尻とパイプ椅子の座面との間は大量の汗によりビチャビチャだった。
真っ暗ながら足裏からむき出しのコンクリートを感じる。それに生乾きのまま何年もタンスにしまった服みたいなカビ臭さ。時折カサコソと背後で音がする。椅子にガムテープでぐるぐる巻きにされている俺は振り返ることもできない。
パンツ一丁で監禁され、どれだけ時間が経ったのか。
なんで、こんなことに? 頭がガンガンする。頭痛は酷く殴られたせいか、熱中症か。
ああ、そうだ。シャンプー。シャンプーのせいだ。サユリさんと親しくなりたくて、マルチ商法だってわかってたのに。
周りとは疎遠になった。マトモなとこから大学生が借りられる金額なんて高が知れている。俺はグレーなところからも借りて、それでも足りなくてヤバイところからも借りて、ついには詐欺手伝ったり、「植物をさ。ちょっと預かってほしいんだよね☆」とか頼まれるようになってた。
思い出してきた。その植木鉢置くのに部屋で山になってたシャンプーを捨てに軽トラ借りて……。
きしんだ金属音とともに、足元に一筋の光が差し込む。俺は顔をあげた。室内が明るくなっても腫れた瞼に遮られ視界は霞んでいた。
「界面活性剤が環境に悪いって知ってるよね?」
白の半袖シャツに紺色のミニスカート。女子高生? ハスキーすぎる声のせいで、女か男かわからない。俺は必死にガムテープでふさがれた口から声にならない声をあげ、パイプ椅子ごと身を激しくよじった。
「まだまだ、元気だなー」
その人物は「やれやれ」と頭を振り、部屋の隅に置かれていた棒状の物を手に取る。それがゴルフのパターだとわかったのは、殴られて意識が飛んだ瞬間だった。
俺が通称『デッドマンスイッチ』として自爆テロの爆弾にされるまで、あと四十八時間 ――。
■■■To Be Continued■■■▶