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「水」から読み解くSHHisの「ノー・カラット」

ノー・カラットを読んだので感想です。本編及び報酬sSSRコミュのネタバレを含みますのでご注意ください!


「水」をキーワードに読んでみる

まず初見で読んだとき、やたらと「水」が出てくるな〜と思いました。「飲み物」にまで範囲を広げると更にたくさん登場します。そりゃ水くらい飲むでしょと言われたらそうなんですけど、単に出てくるだけでなく物語の中でけっこう重要なメタファーになっていると感じました。また、シーズのロゴのモチーフの一つが植物と言われていることを鑑みると、草木の成長に必要な水が登場するのには意味がありそうです。
ただ、自分の観測範囲では意外と言及してる人を見ない気がしたので、本記事ではそこに焦点を当てて読み解いてみることにします。
(ちなみにW.I.N.G.でも、Pが好きな飲み物を把握しているかという点で2人は対比されていましたね。)

どちらかというと音楽関連のモチーフを軸に読むのが正統っぽいとは思うのですが、そちらはいろんな方が考察してると思うので今回はあまり触れない方針で行きます。
ということで以下では、本編中で水(広く飲み物を含む)が出てくるシーンを列挙しながらその意味について考えていきますのでお付き合いください。
この記事を通して、ヘッダ画像の「にちかさんが水を買いに行くだけの場面」が実は感動的なシーンなんだよ、ということが伝わればと思います。

仕事=水、プライベート=食べ物

・ビールと餃子を食べに行くお笑いコンビに悪態をつくにちか

Screenshot 2021-07-05 at 08-30-28 アイドルマスター シャイニーカラーズ


・TV初出演の際、控室で美琴さんと二人きりになるのが気まずくて飲み物を買いに出るにちか

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・夏のフェスに向けての練習中、バックダンサーと美琴さんの空気に混ざれなくて水を飲みに行くにちか

Screenshot 2021-07-04 at 17-43-58 アイドルマスター シャイニーカラーズ


・ライブハウスのDJイベントで、仲間と一緒に飲む美琴さん(ただし、アルコールは断っている)

Screenshot 2021-07-04 at 17-45-47 アイドルマスター シャイニーカラーズ


・同じくライブハウスで、シーズの名前を使ってウーロン茶をおごってもらい、乾杯で場を盛り上げるにちか

Screenshot 2021-07-04 at 17-47-27 アイドルマスター シャイニーカラーズ


このように物語序盤を見ると、にちかさんがよく水を飲みに行っていることがわかります。しかしそれは、本当にのどが渇いていて水分が必要だからというわけではなく、目の前のことから逃げる口実のように使われています。では本当は何を欲しがっているかというと、「中華屋さんのクーポン」に表れているように、美琴さんと一緒に食事をしてプライベートな時間を過ごすこと、もっと言うと「美琴さんに見てもらうこと、仲良しになること」だろうと思います。

Screenshot 2021-07-04 at 17-30-21 アイドルマスター シャイニーカラーズ


冒頭のお笑いコンビに悪態をついていたのも、自分がそれに失敗しているから八つ当たりしているのでしょう。仲良くビールと餃子を食べに行く彼らを睨め付けるにちかさんは内心羨ましそうに見えます。
(なんで「中華屋さん」「餃子」なのかなと思ったのですが、たぶん「他者と分け合う」イメージの強い料理だからですね)

Screenshot 2021-07-04 at 17-31-08 アイドルマスター シャイニーカラーズ


一方で美琴さんは、W.I.N.G.で寝食を忘れてレッスンに励んでいた様子から分かる通り、水や食べ物をあくまで「今生きるために必要な分だけ」摂取するというスタンスです。交友を深めたりするための余分なアルコール(嗜好品)には手を付けません。あのお笑いコンビの休憩とは違います。お酒がなきゃ仲良くなれないとは全く思いませんけど、なんだか植物が生きるために水を必要とするみたいで、ストイックで味気ない感じがします。

サポートコミュからですが、こんなシーンもあります(時系列的には序盤と思われます)。人間は普通そんな理由で水分補給をしないんですよ、美琴さん...。

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ここまでで、生きて仕事をするのに必要な水分を補給するための水と、プライベートな心の交流をもたらす食べ物や嗜好品との対比があるような気がしてきます。ざっくり言うと「仕事=水、プライベート=食べ物」という関係です。
もちろん食べ物だって生きるために必要ですが、アイドルに限らず多くの仕事では、水分は業務中に摂っていいけど食事は休憩時間(プライベート)に摂るものだと思います。ましてやアルコールは仕事が終わってからでしょう。また、人間は食べ物がなくても2,3週間は生きられるけど水がないと3日と持たない、なんて言われますし、あくまで比喩表現としてそういう区分けで今回は考えてみます。

水と食べ物をつなぐもの

物語中盤では、はづきさんと美琴さんの交流が描かれます。新鮮...!

・事務所で作業に集中する美琴さんにレモン水を差し入れるはづきさん(ぬるくなったから入れ直してくれるはづきさん、優しすぎ)

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・レモン水をきっかけに、にちかが以前に差し入れてくれたはちみつ漬けのレモンが手作りであることを知る美琴さん(画像はサポートコミュの方から。「水飲まないと怒られる」の続きです)

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味のない水を摂取してストイックにレッスンに取り組む美琴さんの姿には、危なっかしさと、どこか頭打ち感が漂います。本当に、人が成長するのには水があれば十分なのでしょうか?
そんな問いに対して、はづきさんが差し入れた味付きの水、「レモン水」は1つの答えを提示してくれているように思えます。水を入れ直してくれることもそうですが、そこには「おいしく飲んでほしい」という、単なる水分補給以上の心遣いがこもっています。
そして、美琴さんはその味からはちみつ漬けのレモンのおいしさを思い出します。にちかさんが作ったそれは食べ物であると同時にレッスンの差し入れであり、疲労回復など栄養補給の側面が強く、ちょうど「仕事に必要なもの」と「心遣いのこもったもの」、つまり本記事での「水」と「食べ物」両方の意味を持っていると言えそうです。
美琴さんのストイックな「水」とにちかさんが心では求めている「食べ物」をつなぐものが「はちみつ漬けのレモン」の差し入れで、その意味を美琴さんに気づかせるのが姉であり事務員であるはづきさん、というところが素敵です。
というかにちかさんのこの差し入れの渡し方めちゃくちゃ気遣いにあふれてますよね。初期sRでおにぎりあげようとして失敗した反省を踏まえてるんだろうな...もっと気づいてあげて美琴さん...

ずっと生きていくために必要なもの

リフター事件以降、二人の関係性は変化していきます。また、並行してPとはづきさんの会話も描かれます。

・はづきさんとにちかの話をする際に、コーヒーを淹れるプロデューサー

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2人とも大人なので飲みの席で話してもよさそうですが、Pは「残られるんでしたら」とあくまで真面目な仕事の報告事項としてはづきさんと話をするところがいいですね。リフター事件についての二人のやりとりは、Pがにちかを「さん」付で呼んでいることからも、仕事の同僚というより娘を預かる側とその親御さんの会話のようです。
ここでのコーヒーもレモン水と同じく、単なる水分補給でもなければプライベートの時間でもない、「仕事だけどあたたかみのある時間」の象徴なのかなと思います。(レモン水と違って、責任ある大人同士の話し合いなので苦い味のコーヒーなのでしょうか…)


・地下のスタジオで、美琴さんから水を受け取り嬉しそうにするにちか

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ここの嬉しそうな声、、、!!

ここで「中華屋さんのクーポン」のシーンが差し込まれることから、やはり「食べ物=仕事やレッスンの外の、プライベートな時間を共有すること(馴れ合い)」、「水=レッスンの間の水分補給、仕事に必要なもの(ビジネス)」という関係が見て取れます。ただ、ここでは美琴さんから水をもらったということが重要で、先程から続く「仕事だけどあたたかみのある時間」がようやくシーズの二人の間にも訪れたということなのかなと思います。この時間はにちかさんがリフターで勇気を出していなければ、きっとなかったでしょう。
このあたりのシーンは水のチャポン、という音やキャップを回す音のSEが細かく入っていて、やはり飲み物と一緒に時間を共有する、ということが重要そうです。

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帰り道、にちかさんの「あのつまんない二人組は 今日も餃子なのかな」「練習するね、私は」「仲良しとか、いらないから」という独白は、プライベートでベタベタ食事しなくても、仕事やレッスンの合間に一緒に水を飲む時間、ビジネスパートナーとしての信頼関係があればいいというにちかさんの決意表明だと考えられます。ほんとうの意味で美琴さんに見てもらえるのはそういう時間であることを、今は知っているからでしょう。


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これらを踏まえると、Pの「ずっと生きていくために必要なもの」は、今生きるために水を飲むだけでなく、互いに水を渡しあうこと、味を楽しむこと、互いの好きな味を知ること…にちかさんに言っていた「幸せになる」「にちかににちかのことを/美琴に美琴のことを見つけてほしい」に通じるものかなあと思います。言葉にするのは難しいですね。少なくとも、今回のお話を通じて、そのための一歩を二人は進み始めたのではないでしょうか。
とはいえ、じゃあ仕事しないでダラダラ仲良くしてればいいのかっていうとそんなはずもなく、このあたりはなんとなくノクチルの海出での「いっぱい生きること」と最終的にはつながってくるような気がしています。

・水をうまく飲めず、こぼしてしまう美琴さんと、それを拭こうとするにちか(赤ちゃんか?)

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水をこぼしてしまうというのは、単に大人に見えて実は結構抜けている美琴さんの可愛らしい一面か、あるいはストイック過ぎるあまりこれ以上成長の余地がなさそうに見えることの比喩でしょうか。美琴さんが取りこぼしてしまうものを拾えるのがにちかさんだとすれば、そこにこの2人がユニットである意味があるのかもしれません。

このあと、物語は不穏な引きで終わりますが、本記事ではそのへんは置いておいて、サポートコミュを見ていきます。

二人の「水」と「レモン」

・「offender」ライブの打ち上げで一緒に飲み物を飲む二人

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食事の席ではありますが、打ち上げなのでどちらかというと仕事の延長という意味合いが強そうです。二人ともあまり積極的に食べようとはしていませんし、わざわざ「和食」と明記されているのも「中華屋さん」との対比でしょう。でも一緒にご飯行けて仲良く遊べてスチームアイロンまでもらえて本当によかったねにちかさん。。。

・「lemon」事務所に向かう途中、一緒にスーパーに買い物に行く二人

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ここ…!!、、このシーンなんですよ、、、、、!!!!

本編の不穏な引きに心を持っていかれがちですが、「ノー・カラットのラストシーン」はここだと思いたいです。
「やっぱり水を買いに行く」と言ったにちかさんにとっての「水」は、気まずさから逃げるためだった最初とは違います。生きて仕事をするための水、中華屋さんでの食事よりも練習を選んだという意味での水です。
一方、美琴さんは「レモンとか、はちみつみたいなの」、つまり単なる水分補給ではない味のある食べ物を買いに一緒に買物に行こうとします。
二人の心が通った瞬間であり、互いの気持ちを知って、歩み寄るということが表れた行動です。一緒に同じメロディーを歌ったり、ピアノの連弾をしたシーンの変奏とも言えると思います。ただ二人でスーパーに買い物に行くだけなのにこんなに感動させられるのすごすぎる...!

ついでに言うと、この「lemon」では水に加えて「夏の日差しの強さ」も強調されています。よく読むとこのコミュだけ夏!って感じの描写が多いです。植物モチーフに立ち返ると、この「水」と「太陽の光」って光合成に必要な要素を表しているのでは?という気がするんですよね。とはいえ「レモン=太陽の象徴」はちょっと強引だし、二酸化炭素も必要だろうがって言われると痛いのでこの思いつきには穴が多いんですけど、光合成を持ってくることでこのお話の季節が夏である意味も綺麗に回収できるので、彼女たちはこれからもっと成長していけるという希望も込めてそういうこじつけを提示しておきます。

ここまで見てきたように、プライベートで遊ぶ暇があったら練習する、でも仕事やレッスンの時間だけお互いの心を通わせる、そしてその時間を大切に過ごす…そういう関係性は、これまでの283アイドル(特にノクチル)とは違いますが、現時点のシーズの落とし所としてこれ以上ないくらい美しいなと思いました。にちみこ、幸せになってくれ。。。

ℒℴѵℯ...

また、3つのサポートコミュで描かれるシーズの日常回的なエピソードは、それぞれ「ライブの打ち上げ」「移動中のタクシー」「事務所への道すがら」といずれも仕事の延長や移動途中の時間です。以下のふせったーではその観点から似たようなことを書いているのでよければ。

「大通りだなーと思って、見てた」は天塵の「海に来たんだな、みたいなことを思ってた」と対応してそう。

ということで、水や食べ物を軸にノー・カラットを読んできました。本編のラストで不穏な引きがあるせいで「やっぱり今のやり方じゃだめなのか...」とネガティブに捉えてしまいますが、このお話を通して少なくともにちかさんから美琴さんへのモヤモヤはほとんど解消されたと言っていいのではないでしょうか。ピアノのコンクールで評価されなかったエピソードや社長が語ったコマ大会の話はどちらかというと美琴さんの課題で、今回そこは提示するだけして未解決なので、暗い感想が多くなっているのは運営の狙い通りな気がします。1つのイベントシナリオでは解決できないくらい難しい問題だということでもあるかもしれません。どうしても美琴さんからにちかさんへのケアが薄いように思えるので、今後ルカの登場で美琴→にちかに湿度の高い矢印が向けられる展開があったらいいな。。

以上、読んでくださりありがとうございました。



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