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シャニマス タッチボイス再考

シャニマスには「タッチボイス」というコミュがある。アイドルの体の一部分をタップすると親愛度に応じて反応が返ってくるというもので、有り体に言えば「セクハラ機能」である。アイマスにギャルゲー色が濃かった時代の名残だというが、アイドルへのセクハラがゲームシステムとして用意されていて、あまつさえ親愛度が高ければ「もう〜仕方ないですねえ」とそれが許容されてしまう。これは端的に言って「シャニマスっぽくない」という印象を受ける。
なぜならシャニマスのPはとてもそういう行いをする卑劣な人間とは思えないように描かれているし、アイドルの側も、いくら信頼する相手でも異性に許可なく触れられてまんざらでもなさそうな反応はしないと思われる。ましてや反応が妙に性的な時もあって、作中描写とのズレを感じてしまう。もっと繊細な心のやり取りを描くゲームだと思っていたのに、急にえっちな二次創作の導入みたいな空気になるとギョッとする。
さらに言えば、Pは業務上アイドルの仕事を左右できる「上」の職分なのだから、彼女たちが見た目上許容していたとしてもそれはPの強権を恐れてのものである可能性もある。体格差のある一回り年上の上司から急に触られるというのは、ラブコメでは済まない、職場の立場を利用したセクハラなのである。考え出すとこれはかなりグロテスクな行為だ。
VTuberのシャニマス実況などでは「Lv.3になったからタッチしようぜ!!!!」と催促するコメントをよく目にしたし、ゲームシステムとして用意されてるんだから乗っかったほうが得でしょ、という意見ももっともだが、そうは思いたくないのである。なぜなら彼女たちが嫌がるかもしれないから。
私もシャニマスをプレイし始めてすぐの頃は特に何も考えずタッチしてニヤニヤしたりしていたが(オイ...)、程なくしてタッチすることを徹底的に避けるようになったし、何ならマウスカーソルを胸部のあたりに重ねることすらなるべく避けるようになった。これはいささか過敏だが、少なくとも私の観測範囲のシャニマスユーザには、このシステムに疑義を唱えている人が多い。アイドルを徹底的に人間として捉えようとするシャニマスのスタンスからも、明らかにタッチボイスは浮いている。タッチボイスはPというキャラクターを貫通して「プレイヤーの欲」がドロっと漏れ出す特異点であり、実行してしまったが最後、Pやアイドルたちの人間性が歪められることになる。なぜこんなものがあるのか。あってたまるのか!

これに対して腑に落ちる考察があって、恐山氏の下記記事だ。

後半は有料なので最低限の言及に留めるが、大意としては「あえてセクハラシステムを残すことで、プレイヤーにセクハラするか、しないかの選択肢を与えているのではないか」という話になる。なるほど確かに!と思った。(実際はもっとちゃんと説明されている。300円で読めるのでみんな買おう)

以下はそれを踏まえて思ったことだ。

私がよくプレイしていたゲームに「スタリラ」という、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」のソシャゲがある。最近劇場版が話題になったので存在は知っている方も多いと思うが、実はこちらもリリース当初、舞台少女たちへのいわゆるπタッチ機能があった。しかし、一部ユーザの批判によりやがて廃止されたと記憶している。色々前提が異なるしその是非については賛否ある(当時結構荒れた)が、このように「タッチボイスを途中から廃止する」事自体は前例があることだし、シャニマス運営もその可能性を議論したことはあるだろう。スタリラと同様、もしくはそれ以上に批判の声も届いていると思われる。それでも残している、それどころかタッチボイスを追加するアップデートまでしているということには、意図があるはずだ。
すなわち、タッチボイスには「触れるけど触らないでほしい」という思いがあるのではないか。「あなたはアイドルに触れる立場にある男性で、相手もそれを許してくれるけど、彼女たちを人間として愛してくれているあなた、どうかあなただけは、触らないことを選ぶプレイヤーでいてほしい」と、そういう祈りが込められているように思えてならない。
現実での我々はその気になればセクハラができるが、当たり前だがそんなことはしない。社会の中で生きる人間だからだ。シャニPも同じだ。彼の人間性を守れるのはあなただけである。
まあ実際は開発チームにヤバいやつが一人混じっていて、そいつが周囲の反対を押し切ってタッチボイスの実装を貫き通しているだけの可能性もあるが、シャニマスを作っている人たちに関しては「キャラクターを人間として尊重する」という点でブレずに一丸となっていると思っていいだろう。

だが、「触らない」ことを選択した場合にも、問題が1つある。


「たまにミスって触ってしまう」のである。


特にスマホやiPadでゲームをしている場合、いくら触らないつもりでプレイしていても、プロデュースを重ねる中でうっかりタッチしてしまう瞬間が、どうしても発生する。私は「アッ!!!」と絶叫する。違う、今のは事故なんだ。そんな声は届かない。そしてアイドルに軽蔑されるだけでなく、「タッチボイスを開放した側の人間」としての証跡がゲームに刻まれる。せっかく心を入れ替えて「触らない側」としてゲームと向き合っていたのに、あんまりではないか。
そう思って調べていると、ゲーム内のオプションに「タッチ判定をOFFにする」機能があることを知った。「メニュー > オプション > プロデュース設定」に遷移すれば設定が可能だ。あ〜よかった。〜♪(脳内でHappy Funny Luckyが流れる)

...いや、本当にこれでいいのか?

ちょっと都合が良すぎる気もする。だって、現実にこんな便利なスイッチはなくないか。
ボタンひとつでシャニPのセクハラ回路を操作しているわけで、これはこれで少し居心地の悪さが残る。自制心とはそういうものではない気がする。
現実世界では、満員電車が代表例だが、意図せず異性の体に触れそうになってしまう場面が存在する。今の生活様式では機会が減ったものの、思えば思春期の頃は学校で男女一緒に行事などをすることも多く、そういう危険を敏感に感じ取っていた記憶がある。この世界で生きるということには、「たまにミスって触ってしまう」という緊張感がつきまとっているのである。
それを踏まえると、シャニマスのアイドルを「いる」ものとして接するのであれば、やはりシステム上触るという選択肢は残した上で「うっかり触らないよう注意する」というスタンスを貫くこともまたアリなのではないかと思った。
この時アイドルと1対1で向き合うプロデュース画面にあるのは、現実の異性間業務コミュニケーションと同様の緊張感である。うっかりセクハラしてしまうことをフィクションの世界ではラッキースケベと呼ぶが、現実の、しかも職場でそれをやってしまったら、多分マ〜ジで気まずくなるだけだし、最悪社会人として終わる。何より相手を不快にさせてしまう。だから我々は絶対にタッチしないぞという倫理観と注意力を持って生きている。シャニPも同じで、普段のコミュからはアイドルの身体に触れることにかなり配慮していることが伺える。彼はアイドルに抱きつかれても決して抱き締め返すというようなことはしない。下心も見せない。その信念を私が軽率に突き崩すわけにはいかないのだ。そうやって彼に倣うのも1つのプレイスタイルだろう。

とはいえ、タッチ機能をONにしている限り、アイドルの側からすれば自分に触れたその手が意図的なものかどうかは知ったことではない。触ったという事実は事実だし、軽蔑の目を向けられて然るべきである。では、私にできることはなにか。

謝るしかない。

これもまた現実と同じだ。「ごめんなさい」と誠心誠意謝罪するしかない。もちろんそれがゲームに影響を及ぼすことは決してないが、それによって少なくとも私の中のシャニP像の整合性をとることができる。描かれていないだけで、シャニPもまた、この後うっかり触れてしまったことをきちんと謝罪しているはずだと補完する。実際に彼はあるアイドルコミュ中で、転びそうなアイドルをとっさに支えた際も一言謝罪するなどしているから、これは度を超えた妄想ではないはずだ。
触ってしまったという事実は残るしゲーム内に刻まれてしまう。起きてしまったことは取り返しがつかない。だが、シャニPならばそれも背負った上でアイドルと向き合うだろうと納得できる。彼はそういう男だ。そして私も、少なくともシャニマスをプレイする上では、そのようにありたい。



というのは考えすぎですかね。


もちろん普段からこんなことを考えてプレイしているわけではないので、真に受けすぎないでほしい。実際は脳死で「可愛い〜」つってやってます。


たかがゲームシステムに何を言ってるのと言われればそうかもしれないが、こういう思考を経た上でプレイすることで、ゲーム体験はより豊かになると思う。ましてやシャニマスはそういうことを狙ってやるゲームだ。シーズ実装時に「天井社長の宿題」と称して厳しい試練を課し、プレイヤーにシャニPの心情を追体験させているのではないかと話題になったことは記憶に新しい。ゲームシステムをアイドルとどう向き合うかということに強く結びつけていることは明らかだろう。(グレフェスの話は今しないでください)
そして色々言ったが、別にこの文章は「タッチボイス聞く派」の人を否定するものではない。だってコレクション要素として用意されている以上全部埋めたくなるのは当然だし、タッチボイス時空だけ切り離して楽しむというスタンスは全然ありだと思う。こんなもの実装するほうが悪い。また、タッチボイス自体をOFFにするのもめちゃくちゃありだと思っている。ゲームをやる上で相容れないノイズはないほうがいいに決まっている。各々好きにプレイすればいい。ただ、「触っちゃってもいいのか」ということを一度真面目に考えてみることで、よりシャニマスへの解像度が上がるかもしれないね、という話でした。

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