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七草にちかは「誰の靴」でステージに立っていたか

七草にちかW.I.N.G.実装から約1週間、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。私はにちかさんのことばかり考えてしまって普通に生活に支障が出ています。なにしろにちかさん関連の記事を書くのがすでに3度目です。なんで?

シナリオを読み返すたびに新しい発見があったり、自分の解釈を改めることになり、いまだにはっきりこれだ、という読み方を見つけられていません。
前回の記事は多くの方に読んでいただきましたが、正直すでに過去の自分と解釈不一致なところも出てきています。

インターネット上の反応を見ても、にちかさんやシャニPの心情に対する理解には様々なものがあり、一様ではありません。

なぜここまで解釈が割れているかというと、「肝心な部分が演出によって意図的に見えにくくされている」ことが大きいと思っています。
いくつか具体的に挙げてみます。

・不穏なBGMや背景の演出、プロデューサーにボイスが無いことなどにより、会話の印象が悪い方に引っ張られる
・社長の過去というにちかさん自身と直接関係の無い事情のインパクトが強いため、シャニマスに詳しい人ほど呪い云々のようなことを言いたくなる
・最終的には他の子と同じでちゃんと入所試験を受けて合格しているが、「正規ルートではない」印象が強くなっている (まあ研修生なんですが...)
・終盤のにちかが「誰の靴」のつもりでステージに立っていたかがボカされている

今回は、特に最後の点に的を絞って再考してみたいと思います。
なぜかというと、ここの解釈次第ではにちかW.I.N.G.に対する印象が大きく変わると考えているからです。

シーズン4〜W.I.N.G.本選までの流れ: にちか視点

まず、にちかさん視点での流れをおさらいします。

・シーズン4: 「そうなの?」の白盤を見つける
・W.I.N.G.本選: 「こわくてたまらないです」
・優勝後: 「本当は悲しいと思っていた」ことを吐露する

ものすごくざっくりですがこんな感じです。重要なのは、にちかさんはW.I.N.G.出場前の時点で「八雲なみは他に歌いたいことがあったんじゃないか」という疑念を抱いており、「彼女は幸せだった」「特別なアイドルだった」ことをすでに信じきれなくなっていたという点です。
物語の構造上これが明かされるのは優勝後なので、初見だと「最後まで八雲なみの靴を履いたまま優勝してしまったんだな...本当に彼女はこれで良かったんだろうか...」と救いがないように感じてしまいますが、ここは実際にはかなり解釈の余地があると考えています。

シーズン4、白盤発見後のレッスンの様子を見てみると、にちかさんが気になる発言をしています。

Pが「これなら先生もうなる」と太鼓判を押していることから、シーズン3でにちかさんがこだわっていた「入れなくていいステップ」も完全にマスターできていることが伺えます。
にもかかわらずにちかさんは、「バリエーションもつけときたい」とまだ納得がいっていない様子です。これに対しPは「先生にアレンジをお願いしたい...か?」と尋ね、にちかさんは首肯します。

これはよく考えると少し違和感があります。
なぜなら、「八雲なみの靴に合わせる」ことを本当に徹底するのであれば、レッスンの先生にアレンジしてもらうことは、そこにヒビが入ることを暗に示しているからです。
レッスン中の描写が多いわけではないので断定はできませんが、少なくとも「八雲なみのパフォーマンススタイルを改変すること」を積極的にお願いすることはなかったのではないでしょうか。Pに言われても「入れなくていいステップ」をやめなかったくらいですから。

加えて、にちかさんは白盤発見以降、W.I.N.G.に決着がつくまで自分から八雲なみの話題を一切出しません。あれだけ、何かあるたびに「なみちゃんのおかげ」「なみちゃんを信じてて良かった」と口にしていた彼女がです。

このことを踏まえると、にちかさんはW.I.N.G.本選で八雲なみのステップを模倣するだけでなく自分なりのステップも取り入れていた、つまり「ある程度は自分の靴で臨んでいた」のではないかという見方ができます。

シーズン4〜W.I.N.G.本選までの流れ: P視点

一方、P視点では白盤のことは知る由も無いので、「にちかは八雲なみの靴に合わせようとしたままである」という認識でお話が進みます。これがプレイヤーのミスリードを誘います。

・シーズン4: 「本当にこれで君はハッピーなんだろうか」
・シーズン4突破: 「笑ってくれ、にちかのために」
・W.I.N.G.本選: 「もう笑顔じゃなくてもいい」

シーズン4突破時の「笑ってくれ」は、Pの言うところの「アイドルであることに喜びがなきゃ、アイドルでいられなくなる」「幸せなステップを踏んでもらいたい」といった気持ちが凝縮されたメッセージでしょう。Pにとって、笑顔でいることは「これからもアイドルを続けるために必要なこと」です。
八雲なみの靴に合わせるという方針自体は「ここまできたんだ、思い切りやってもらいたい」と肯定しましたが、「これからもアイドルでいるために、せめて笑っていてほしい」という、祈りのような心情なのだと思います。

それに対し準決勝前のにちかさんは、「笑顔を作る」ことで応えます。

鏡を見て作った笑顔では心からの笑顔(ハッピー)とはいえませんから、Pは少し微妙な反応です。
P視点だと「作った笑顔=八雲なみの靴のまま」と写ってしまいますが、今回はこの時点でにちかさんは「少しは自分の靴」であると仮定します。すると、「笑おうとしている=自分の靴を履こうとしている」と見ることもできると思います。
Pに「言ってください、上手くいくって」と要求するのも、八雲なみの「そうだよ」という言葉ではもう安心できないからでしょう。

準決勝突破時のにちかさんの反応は、喜びというよりも、驚きと、少しの落胆が混じっているように思えます。これは単純に「早く苦しみから解放されたい」という気持ちもあると思いますが、「自分の靴で突破できてしまった」「八雲なみが特別でないことの証明になってしまった」という感情もあるのではないでしょうか。「なみちゃんのおかげではない」から「嬉しいかどうかわからない」のです。

そして決勝前ですが、にちかさんは尋常では無いほどの緊張に震えています。これは単純に大舞台だからという理由では説明がつかない気もします。
ここまでの仮定に従うと、これは「自分自身の靴が評価される場面に来てしまった」ことによる恐怖ではないでしょうか。「特別」ではない「平凡」な、ただの人ごみであるはずの自分がW.I.N.G.の大舞台にいるということは、彼女にとって相当恐ろしいことのはずです。
他の多くのアイドルが決勝前で吹っ切れた顔を見せることが多いのは、自分自身、あるいはPを信じることができているからです。にちかさんはそのどちらも、そして八雲なみを信じることも満足にできていません。

しかしP視点ではやはりそれは知らない話なので、少しでも不安を取り除けるよう「もう笑顔じゃなくていい」と告げることを選びます。

「仏頂面でもいい、にちかがこれまで作ってきたものだけで十分戦える」というのは、「たとえハッピーでなくても、八雲なみを信じて、これまでやってきたように八雲なみの靴のままステージに立ってもいい」という意味だと捉えられます。
それに対するにちかさんの返答はこうです。

やはり、笑おうとしています。
たとえ作ったものであっても、笑おうとしている=ハッピーであろうとすることを最後まで諦めない姿勢を持っていることがわかります。

そして優勝直後、緊張で倒れて息も絶え絶えの中で、やはりにちかさんは笑顔を保っています。

Pがにちかさんの本心を知るのはこの後ですから、笑うことを選んだのも、笑おうとし続けたことも、にちかさん自身の力です。つまり、にちかさんがPが言う所の「アイドル(単なる職業ではなく、幸せなステップを踏む存在)」になるための一歩を踏み出せたのは、彼女自身がそれを貫いたからです。

優勝後、にちかさんが泣いているのは、自身の中の八雲なみ像を悼んでいるというか、「あなたも特別ではなかったんだね」と一人の人間として共感することができたからだと思っています。八雲なみは、もはや「カミサマ」ではありません。
この時点でにちかさんは、「八雲なみの靴」に苦しめられることからはほとんど脱却できていると言えます。

そしてにちかさんの思いを聞いたPは、「幸せになるための仕事をさせてくれ」と改めてにちかをプロデュースすることを決意します。
それは、自分がにちかさんに見た「アイドルとしての素質」を、ようやくはっきり認識することができたからです。
「明るくてまっすぐで努力家で、その内面にどこか悲壮感を抱えながらも、笑顔でいようとする、人を惹きつける魅力のある女の子」として。
ひょっとすると、W.I.N.G.に優勝できたのもにちかさんのそういう、「この子に幸せになってほしい」と思わせる魅力が影響したのかもしれません。
また、TLに流れてくる感想やファンアートを見る限り、にちかさんのそういうところに魅力を感じているシャニマスユーザは多いはずです。というか私がそうです。何回長文を書けば気が済むんだ。

にちかはある程度「自分の靴」でステージに立っていた

最後の方でやや脱線した感もありますが、結論としてはにちかさんはいくらか「自分の靴」でステージに立っていたということになります。
そして、そうすることを選んだのはにちか自身です。
こう解釈することで、一見すると救いがなさそうなにちかW.I.N.G.をさらに肯定的な生まれ直しの物語として読むことができるのではないかと思います。

ということで本記事は以上ですが、少し都合のいい解釈である点は自分でも理解しています。明日にはまた全然違う感想を抱いているかもしれませんが、そういうものとしてご容赦ください。
にちかW.I.N.G.は本当にいろんな読み方ができるシナリオで、読み返すたびに新たな発見があります。みなさんもぜひ、にちかさんの魅力に狂いましょう。


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