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シリコンバレー銀行破綻に続く一連の金融危機とAT1債
2023年夏、シリコンバレー銀行(SVB)が破綻した。私の会社でもDatadogというSaasを使っておりその会社がSVBと取引があった為、少々影響があった。
この記事では、この破綻とその後に絡めながらマクロ経済の触りを説明していく。今後書く予定の安倍政権以降の日本経済の話の前哨戦という立ち位置にするつもりだ。
SVB破綻概要
SVBが破綻した理由は主に「FRBのテーパリング措置、利上げ及びSVBのポートフォリオの問題による大規模な取り付け騒ぎ」である。
以下で詳述する。
コロナショックから金融緩和、そしてFRBのテーパリングと利上げ
2020年世界中を巻き込むコロナウイルスの蔓延により、アメリカでは連日サーキットブレーカー(加熱した相場を安定させるための措置でS&P500指数が一定の割合下落すると発動し、取引を中止する制度)が発動するなど大混乱が起き、更には世界経済の見通しが不透明になった。
これを受けてアメリカのFRBでは大規模な金融緩和を行うことになった。
簡単にいうとフェデラルファンド金利(政策金利)をゼロにし、量的緩和(中央銀行が債券などを購入し、市場に金をばらまく)を行うことで、不況を食い止めようとした。
※FRB:アメリカの中央銀行(日本でいう日銀)制度FRSの最高意志決定機関
※フェデラルファンド金利は民間銀行と中央銀行の間における貸し借りの金利なので、民間の銀行はフェデラルファンド金利がゼロの場合、お金を借りやすい→民間銀行にお金がたくさんある状態になる→一般顧客などの融資のハードル低 となり市場に金が回る
しかし2021年末にFOMC(FRBの政策決定会議)で量的緩和を徐々に辞めていく政策(テーパリング)が発表され、さらには2022年には金利についても段階的利上げを発表し、0.75%ずつ金利を上げていくことになる。
多くの場合逆イールドにならないように政策金利↑の場合、長期金利(10年物国債利回り:以下10年債)↑となる。
※逆イールド:短期と長期の利回りが逆転すること。普通長く預けていた方が利回りがいいはずなので、これが逆転するとかなりあべこべな状態ということになる。今までアメリカでは逆イールドが発生した時はほとんどの場合リセッション(景気後退)が起きて、リーマンショックの際も逆イールドが発生していた。
このように利上げがあると債券価格は下がってしまう。
<理由>
例えばここに利回り1%の債券がある(すでに発行された債券)。利上げがあって、新たに3%の利回りの債券が発行されると後者の方がいいので、前者の価格は下がる。
これがSVB破綻の大きな理由だ。
大規模な取り付け騒ぎ
前提としてみなさんご存知の通り、銀行というのは預金者から預かった現金を有価証券や融資などで運用して儲けを得ている。
なので預金者が全員一気に預金を引き出すと銀行は手元にお金がないので対応できず、破綻する。
SVBはシリコンバレーのTECH系のスタートアップに融資をしているというのが大きな特徴だが、スタートアップ企業は金融政策に大きな影響を受けやすい。
このような政策変更により、TECH企業は業績不振に陥り預金を引き出す動きが相次いでいて、SVBはこの対策の資金調達手段として有価証券(債券など)の売却を行ないその売却損を公開した。
またSVBのバランスシートからSVBは利上げの直前まで債券投資を大規模に行なっていることがわかり、このことからSVBの財務状況に疑義が生まれ(利上げによって債券価格↓の様相)、大規模な取り付け(預金流出)騒ぎとなり、SVBは破綻した。というのがこの騒動の流れである。
つまり投資のバランス(ポートフォリオ)がよくなかったのである。
※この話は当時非常にTwitterを賑わせていた。
一連の金融危機とAT1債
欧州でも似たような事象が起きていてスイスではクレディスイスという銀行が中央銀行の利上げによって危機に陥った。
※これについては調べてみるともともと経営の問題のある銀行だったようで、別にSVBの影響ではないという見立てが強いがやはり中央銀行の利上げによる影響があったという点では似たような背景がある。
クレディスイスの危機はその後の影響という点で特筆すべきことがある。
それはAT1債という債券を所有していた投資家への影響なのだが、まずAT1債について説明する。
AT1債とは何か
これを説明するにあたって不可欠なのが、リーマンショックとバーゼル3だ。
・バーゼル合意
バーゼル合意を説明するにはまずBISについて説明しなければならない。笑
BIS(国際決済銀行)とは日米欧などの中央銀行で構成される組織で、スイスのバーゼルという場所に本部がある。いわば中央銀行の中央銀行的な立ち位置だ。
このBISの常設事務局であるバーゼル銀行監督委員会が公表する、国際的に大きな銀行の自己資本比率や流動性比率についての基準や規制がバーゼル合意(バーゼル規制)だ。
この規制は今まで3回策定されており、この3回目をバーゼル3という(たしか正確にはバーゼルⅢ)。
バーゼル3ではリーマンショックを受け、自己資本の比率についてTier1比率を6%以上にする規制が導入された。
このような規制からTier1(自己資本の中の項目の分類で良質な資本と言われている)の比率を高める必要が出てきたため、Tier1に組み込まれるAT1債(Additional Tier1債)と呼ばれる債券の発行量が増えることとなった。
以下、AT1債の説明である。(めんどくさいから引用)
債券と株式の中間的な特性を持つ証券のひとつで、原則、償還期限のない永久債として発行される。銀行の中核的自己資本であるTier1の一部として組み入れられる証券であることから、正式名称を「Additional Tier1」という。発行体である銀行が破綻した場合には、元利金の弁済順位が普通債などより低く、投資家の抱えるリスクが大きいため、高い利回りが設定される。
発行体の自己資本比率がバーゼル3規制で定める一定水準以下になった場合や、経営危機の懸念等が生じ監督当局からの命令があった場合には、強制的にAT1債の元本を削減したり株式に転換したりすることで、自己資本を増強する措置が取られる。
まあつまり、利回りは高いが弁済順位は低く(株式よりは高い)不安定な、債権と株式の間のようなものである。
弁済順位とは破綻した時などに保証される優先順位のことである。
一般に弁済順位は以下の通り。
![](https://assets.st-note.com/img/1699893815073-u2tA6FuUXo.png?width=800)
重要なのは株式よりかは弁済順位が高いという点だ。
クレディスイス買収時のAT1債の取り扱い
クレディスイスが危機に陥りUBSという銀行に買収されたのだが、その際株はUBSの株と交換されたのにも関わらず、クレディスイスが発行したAT1際170億ドルが無価値となる決定が下された。
このように弁済順位が逆転してしまったのだ。
おそらく投資する際の規契約にもこのような弁済に関する規約書いてあるはずなので、投資家はFINMAを相手取りスイス連邦裁判所に提訴した。これには日本の投資家も含まれるという。
下記記事によれば、青学駅伝部の原監督も保有者だったとのこと。
https://www.swissinfo.ch/jpn/business/-ポイント解説-クレディ-スイスのat1債訴訟/48590020
※ちゃんと調べたところ、契約には明記されていたようだった。
長島・大野・常松法律事務所 吉良宣哉弁護士
「クレディ・スイスの契約の書面には、順位が入れ替わることがあり得ることが記載されているにもかかわらず、市場では『AT1債』が無価値になるときは普通株式も無価値になると考えていた投資家も少なくないのかもしれない。今後、訴訟となった場合は『AT1債』を販売した際に株式の投資家より先に損失を被るリスクがあることが、契約書面に明記されていたことも踏まえ、リスクの説明の有無・程度が争点となる可能性がある」
このようにクレディスイスは破綻を免れ、買収されたが破綻と同じくらい投資家には混乱を招き、主に債券市場はかなり不安定な状態となった。
以上が今年あった一連の金融危機の概要である。
最後に
ここで取り上げたかった話題としては金融政策は民間にどのような影響を及ぼすかということと、昨今の経済ポピュリズムの問題提起である。
ここ10数年程度、金融緩和を行うことによって市場に金をばら撒く政策がよく行われている。
一見株価は上昇する素晴らしい政策に見えるが、これはあくまで株価しか評価指標を知らない素人から見た側面でしかない。
こんなことで経済が良くなるなら経済学者はいらないし、経済学者も全てを見通せるなら今頃全員金持ちだ。
でも実際はそうではない。
金融緩和を永遠に続けることはできないし、これをやめれば副作用に直面することになる。
この世界に確実な将来予測も、打ち出の小槌も存在しない。
しかしマクロ経済の基本理論を学ぶことで、大体こうなるのではないかという予測は立てられるし、今起きていることの原因をある程度説明することはできる。
このようなことの繰り返しによってのみ、経済を見通す目も、政策を評価する視点も養うことはできない。
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