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果実と砂糖の予約


サルヤマです。雨ですね。

朝起きて、成績確認して、本読んで、テレビ見て、ご飯食べて、本読んで、今です。『自転しながら公転する』を読みました。面白かったです。結局人生の不安の最初はお金かもしれませんね、と思いました。他にも思いましたが控えておきます。

書こうと思えば日記は書けるかなと思ったのですが、諦めムードなので諦めます。代わりに果実と砂糖の話を書きました。

脚本にしようかと思ったのですが、ひたすら小説を読んでいるからいつの間にやら小説になっていました。全然すんごい思ってもない話になりました。読んでください。

ファイルの方は縦書きなので、出来ればファイルの方が嬉しいです。

ではどうぞ





果実と砂糖の予約

「違います、シュガーの方です、よくいる佐藤じゃなくて、お砂糖の方です」

 砂糖が隣で電話をしている。「佐藤」と「砂糖」を間違えるなんて、よくあるやり取りだから、そこまで気にしていないみたいだ。二人用のソファなのに少しだけ狭いから、電話に緊張している砂糖の手がちょっと私の腰に当たっている。

 「はい、はい、え?あ、大丈夫です」

 ちらりと砂糖がこちらを見る。一瞬見えた顔が不安げな顔をしていた。ぐっ、と手の甲をより深く腰に押し当ててくる。

 数分前の、私の誕生日にちょっと高い料理でも食べる為、幾つかの選択肢を見せてきた時の意気揚々とした感じはいつの間やらどこかへ消えてしまった。

 「はい、ありがとうございます、はい、お願いします」
 普段使わない敬語。礼儀を無理やり纏って、慣れない方向に口を動かしながら電話をしている様子は、どうしたって愛くるしいと思ってしまう。

 「ねえ果実」

 携帯を顔から離し、液晶画面をタップして、砂糖がこちらを見る。いつもの通りの、やや抜けた声で私に身体を寄せる。

「ごめん、なんか思ったより高くなっちゃった、コース料金?わかんないけど見間違えちゃったのかもしれない」
「ほんと?大丈夫?そんなに、めっちゃ高いわけじゃないでしょ?」
「うん、そんなにだけど、ごめんね?」

 謝りながら不安な顔を深める。

「いいよ全然」
「ごめんね」

 放っておいたらいつまでも謝っていそうな、どうにかしてやりたくなるような不安な顔をする。一体、いつになったらこの顔を止めてくれるんだろう。この顔を見るのは何度目なのだろう。誕生日を祝いあうような関係になったら、もうこの顔を止めてくれると思っていたけど、予想は外れた。砂糖は私に合わせて色々変わっていくけれど、これだけは変わらない。

 この顔を私に向けてくれるようになってしばらく経った頃、怒らないからそんな顔しないでよ、と言ったことがある。途端に砂糖は泣いているように力が抜けていって、もっと不安な顔をさせてしまった。もうこの子はずっとこうなんだな、と思って、この話題を振るのはやめようと決めた。

 横目で砂糖を見る。肩に顔を乗せている。小さい顔の重さだけが私にのしかかっているのが分かる。ちょっと肩を動かして、砂糖を身体ごと私に寄せる。

「わ、なに?」
「うん?」

 今、なんで私は砂糖の身体を寄せたんだろう。

「え、なに?」
「何が?」

 ちょっと驚いた様子の砂糖を無視して、顔を手元に置く。物扱いしてるみたいだ。心臓が音もたてずに騒いでいるのを感じる。よく分からないけど、少しだけ興奮している。興奮?興奮というか、なんて言えばいいんだろう。

「え、いや、何?果実そんなに積極的だった?」
「いや、うん、なんだろうね」

 いつになったらこの顔を止めるんだろう。

「は、うわ、え」

 片方の手で砂糖の短い髪をなでる。片方の手で砂糖の顎を撫でる。手と手で砂糖を丸ごと包む。小さい顔はすっぽり収まって、物扱いが加速する。いつもはこんなことしないのに、と自分でも分かってる。

「果実?どうした?なに?こういうことする人なの?」
「うん?」

 この顔をやめて欲しいと思っているんだな、私は。

「うん?って、やめてよ、なに?」
「こういうことする人なんだね、私は」



 私の目の前に果実しか居ない。綺麗な長い髪と、どうでもいいみたいな目がこっちを見ている。こっちというか、私だけを見ている。確かに私だけを見ている。なのに、なんか、少し変だ。

「こういうことする人なんだね、私は」

 私を見てるのに、私を見てくれていない。使い捨てのものを扱うみたいな目線。

 出会った時みたいな雰囲気だ。ずっと疲れてるような、使い果たしたみたいな目だ。

 その冷たさも好きだったけど、隣にいてくれるときはそんな目をしてほしくなかった。だから時間をかけて、ようやくその目に暖かさを宿せたと思ったのに、急にどうしたんだろう。

 「ああ」

 果実がどさっと寄りかかってくる。果実の重みがする。

 「へへ」

 果実が笑う。なんで笑うんだろう。さらりと私の顔に髪がかかって、私の匂いがする。果実の髪から私の匂いがするようになって、飛び跳ねるように喜んだのを思い出す。ぐしゃりと束で髪を掴んで嗅いでみたいけど、今はそれどころじゃない。

「どうしたの?疲れてる?」
「…………」

 返事が無い。意味が分からなくて、どうしたらいいか分からない。

「疲れてるのかな」

 ぼそっと果実が呟く。

「……そうなんじゃないの?嬉しいけど、ちょっとどいてくれる?」
「いやかも」
「え」
「いやかもなあ」

 果実は動かない。だから私も動かない。



 言葉にしないと伝わらない。

 その顔止めて、と言えば済むだろうに。不安な顔しないで、と言えば終わる話なのに。

 でも、脳裏に、昔の泣きそうな砂糖の顔が映し出されて、ああそうか、と思う。言ったって無駄だ、とこれまで無意識のうちに何度も反芻してきた思考を、再び繰り返す。

 なんて言おうか、ちょっと悩む。思考を巡らす隙に、耳元に砂糖の息が吹きかかる。呼吸しているのが分かる。生きているのが分かる。

 「そろそろ苦しいんだけど、果実」

 砂糖がちょっと息苦しい声で言う。がばっと起き上がって、砂糖を見る。砂糖もこちらを見ている。

「なんなの、なんだったの」
「ごめんね?」
「謝らなくてもいいけどさ」

 砂糖が半笑いで前髪を整える。ちょっとだけまだ不安な顔をしている。この不安な顔は、私の今の行動の意味が分からないからだろう。だから、さっきの不安な顔はもう消えたってことだ。

「食べてしまおうかと思って、砂糖を」
「はあ?」

 砂糖が笑う。不安な顔が和らいで、昼時みたいな暖かい顔をする。

「もう終わりでいいの?」
「もう終わりで良いよ」

 私も笑う。このまま曖昧に笑っておこう。どうせ私の気持ちは伝わらないし、意味がない。

「もうなんなの」

 悩んだって意味がない。

「びっくりしたよ」

 このままずっと、生活の所々にあの顔がちらついていくんだ。

「もう終わりでいいなら、良いんですけど」

 もう終わりでいいんだよ、砂糖。

「そうだね」

 また、思ってもいない肯定だけをする。




お疲れ様でした。

雨に濡れてズボンが少しだけ湿っています。この湿り具合は不快感を漂わせます。

短く済ませようと、適当に書き始めてたのですが、こんな話になるとは思ってもいませんでした。脚本だとどうしてもふざけたくなるのですが、小説だとどうしてもこういう感じになってしまうのかもしれません。



今日、朝に成績を見て、二度寝しようと思ったらそのまま起きてしまいました。誤算の起床。

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