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見渡す限りにピンクがある。/3月10日

有楽町線は地下だから嫌いだ。車窓の外の地下を眺めながら思う。というか地下鉄が嫌いだなんだな。窓の外もホームも改札もどこも同じような光景で、汚いし。多分ここは一生この汚さなんだろう。一定の汚さが保障されている。最寄りの駅が地上を走っているからその対比もある。どこを見ても汚い。嫌いだ。

家を出て、電車に乗る前にホームで本を読んだ。ちょうど日差しがいい具合にかかっていて、本が読みやすかった。良い天気だけ記憶に残るから、毎日いい天気みたいな気分だ。

でも、この前水族館に出かけた時にカバンの中で水をぶちまけてしまって、少し本を濡らしてしまったので、汚さが目立つ。新潮文庫だからページも薄くて、やや本自体が曲がっている。買った時は綺麗だったし、表紙が綺麗だったから買ったのに、少し残念な気持ち。

今日は根本宗子の、『腑に落とす。』という演劇を見に、中野まで行ってきた。

『もっと超越した所へ』という映画をちょっと前に渋谷でふらっと見たら非常に喰らってしまって、色々調べた。すると、この映画は元々が舞台で、その舞台を作っているのが根本宗子という人だという事が出てきた。

いつだかにNHKを見ていたら椎名林檎と対談していたり、Aマッソの加納とかいろいろな人が根本宗子の事を話したりしていて、根本宗子という人は凄い人らしいぞいつか見に行きたいぞ、と思っていたので、今回の『腑に落とす。』という作品を見に行った。

中野には時々お笑いライブを見に行くことがある。そこまで頻繁ではないけれど、その度に行く美味しいラーメン屋さんを知っている。二代目武道家という店で、家系ラーメン屋さん。今回も勿論行くことにした。

ちなみに1度父親とこのラーメン屋と行って、美味しすぎて2人で神速で食べ終わったことがある。

のんびり本を読みながら中野に到着し、店に向かう。中野には全てのチェーン店があって、羨ましい。

お店に到着して入ると、混んでいる。食券を買っても待つことになった。厨房は凄いきれいで、いい店なんだなあとしみじみ思いながら待っていた。店内にはなぜかワンピースの四皇たちの手配書が飾ってあり、ゴールド・ロジャーも飾ってあった。伝説の男たちは懸賞金が高いなあ、とか思いながら、この前買ったワンピースの最新刊を思いだして待っていたら席に案内された。

ふと厨房を覗いていると、ラーメンの器に店主さんがピトッとほうれん草を一つだけつけた。器の端の方に一つだけ。なんだろう?と思ったけれど、多分注文を覚えて覚えておく用のほうれん草なんだろうな、と結論付ける。ラーメン屋さんは口頭での注文が多いから、店によって覚えておく用の工夫が異なるのだ。頭がいい。ちなみに僕の家の近所のラーメン屋さんは食券の破り方で覚えてる。

取り放題のきゅーかんばー

美味しいラーメンだったけど、味の感想まで書くとラーメンブロガーみたいだから書かない。空気階段のもぐらがTwitterに載せているので、それを見れば食べたくなるはずだ。

味が濃い

食べている間に聞き始めたオードリーのANNにアンガールズ田中がゲストで来て、ずっと大喧嘩していた。

ラジオを聴きながら少し歩く。開場まで時間があるし、オレンジジュースを買って、中野散歩へと繰り出す。

少し歩くとすぐにTSUTAYAがあった。「TSUTAYAなんてまだあるのか……!」と興奮してきたので、久しぶりだなあとか思いながら入ってみることにする。

二階がDVDのコーナーになっていて、『怪物』とかがある。「こんな感じのケースだったなあ……!」と思ってなつかしさが込み上げてくる。借りる時の袋みたいなのも、好きだったので、売ってくれねえかなあ、とか思う。

『すずめの戸締り』とかはやっぱりよく借りられているからやっぱり人気なんだな、とか。星野源のCDの最新作がないのは潰れてしまうのが分かってるからかなあ、とか。店内に流れている広告の「information!」の感じが好きだなあ、とか。TSUTAYA懐古に浸り続ける。

奥の方に行ったら真っ黒な布に、「18歳以下は入らないでください!」と書いてあるのれんがある。18禁のコーナーだ。そういえばこんなのあったわ……と思いながら、子供の頃の感覚でいつもの通りスルーしようとした。

でも待てよと。よく考えればもうこののれん、僕はもう入っていいのれんだ。僕は18歳以下じゃない。この場所に入っちゃいけない理由はどこにもない。僕は、「別に入ってもいいのか」とか思い、「誰に見られてるわけでもないしな」とか思って、子供の頃の僕が必死に目をそらしていた場所に入って見ることにした。

俺はハタチだ!!!

入ってみたら、当たり前だけど「そりゃそうだ」みたいな光景が広がっていた。めちゃくちゃAVだらけ。パッケージには綺麗な女優のピン写もあるし、エロいにも程がある写真もある。

見渡す限りエロが広がっている光景は、なんかよく分からないけど面白かった。エロ文化特有の文字の多さや語彙がどこを見ても存在していて、「どんだけの大人が動けばこうなるんだ……」と思う。

少しこのコーナーを歩いてみる。当たり前だけど、新作とか準新作とかある。「新作は早く返さないといけないのに、どうしても旧作の方を観ちゃうとかあるのかな」とか野暮なことを思う。

まとめられてるコーナーにマジックミラー号のブースがあって、「あの頃の熱気を感じ取れ」というキャッチコピーが付けられている。下に「色褪せない本物がそこにある……」とあって、マジックミラー号はやっぱり「色褪せない本物」なんだな、と感心する。

好評につき

少し進むと全く知らないジャンルのAVとかもあって、「これを全部見ようとしたらどれだけの時間がかかるんだ……」とか「これ誰が好きなんだ……」とか考えたりしていると、AV女優でまとめられてるコーナーがあった。

知ってる人いるかな、とか思ったけど、本当に知らなかった。AVあんまり見てないみたいなスタンス格好悪いな、とか考えたけれど、本当に知らなかった。紗倉まなぐらいだった。なんなら紗倉まなも蓮見翔とのラジオとか最近の文芸活動でちゃんと知ったし。

「紗倉まなってこんな感じ!?」とか「俺なんてまだまだだな……」とか思って去ろうとする。が、入り口近くの新作のコーナーにMINAMOのAVがあって、「知っています!!!!」となる。

でもよく考えたらMINAMOもしくじり先生で知ったかも、とか思い出し、やっぱり「まだまだだな……」という気分になった。

まだまだ気分で歩いて、劇場HOPEというところに向かう。

おそらくは凄い小さい劇場で、客数も少ないんだろう。そこまで人は集まっていなかった。案内の人が凄い春の装いで、やっぱり春来てるんだな、と思う。

✌️

開場して劇場に入ったら、その劇場はやっぱりすごい小さくて、暗くて、深いところにあった。少し早く入れたので、自由席で良い席を確保する。トイレに行こうと外に出たら、そこここに事務用の道具が置いてあるのだが、ピンク色のかわいいもので統一されている。好きなんだなあとか思って、ほっこりした気持ちになる。

きゃわ

早めに座って待っていたら、たまたま両隣が開いてしまって、そこに二人組のお年を召したお客様が座ったから、「変わりましょうか?」と言ったのだけれど、年の功で言いくるめられてそのままになってしまった。本当に変わってよかったのに。

開演前に根本宗子が出てくる。ホンモノだ!とか思っていたら、注意事項と共に、「上演中に協力してほしい人が一人います」と誰か協力者を探し始めた。すんなり協力者は最前席の方に決まったのだが、「毎回協力してもらってるのかな……いい客層なんだな……」とやや怯える。実際その人は上演中に完全に役割を全うしていて、拍手を送りたくなった。

客席を案内しているボーイの人が非常に優秀そうだった。語尾が消える感じのしゃべり方。常に劇場をすべて把握してるみたい。一階トイレに行って、帰ってきたら「お帰りなさいませ」って言われた。そりゃ俺も紫の目立つ服着てたけどさ、優秀ですね。実際、その人も上演中少し役割があって、完全に全うしていた。凄かった。

劇はものすんごい面白かった。

60分ずーーーっと喋りっぱなし。本当にずっと。会話を浴びている感じ。役者は根本宗子さんと小日向星一さんの二人しかいないのにもかかわらず、永遠喋っている。何人かを演じ分けているのだけれど、すんなり受け入れられるし、言いあっている様がずっと面白い。

途中で根本宗子が「演劇って途中で関係性とかややこしくなったりするじゃないですか、でも今回は大丈夫ですからね、この二人が言いあっているってことだけ覚えていれば」と言っていて、本当にそうだった。

細かくは言わないのだけれど、こんなに早口なのに聞き取れる悪口と狭い劇場だから見れる表情管理と、どれもが一級品で、あっという間でした本当に。また根本宗子は見に行きたい所存です。

爽やかな気持ちで劇場を出る。良い演劇を見ると心地がいい。気分がいい。気持ちが逸るので、少しそのまま中野をぶらぶらする。

電子タバコも配慮されている
水流のロック
野菜すぎるけど野菜じゃない

オードリーのANNを聞きながら、中野の商店街や飲み屋街を歩く。先ほどの演劇の言い合いと、オードリーのANNの若林と田中の言い合いが重なって笑えてくる。

一度中野にお笑いサークルでライブに出て、漫才をしに来たことがあるのだけれど、その時の会場が中野twlという会場で、若林と田中の言い合いでも「お前中野のtwlでもよお!!!」と言っていて、おお!と気分が上がる。ちなみにその時のライブは対決ライブだったけどボコボコにした。

少し興奮も冷めてきたので、喫茶店にでも入ることにする。

駅前にすぐルノアールを見つけたけれど、Twitterで見つけた写真のせいで一度やめる。

ルノアールはトップだ

が、次に見つけたコメダ珈琲が馬鹿混んでいたので大人しくルノアールに入る。店内は混んでいたけれど一席開いていたので座る。またウインナーコーヒーを頼む。

ウインナー

山本文緒の『自転しながら公転する』を読む。だんだん面白くなってきたところで、ふへへ、という思いで読み進める。

店内が騒がしいし、何か音楽でも聴こうと思ったのだが、この前米津玄師のライブ映像が流れてきて、「すげえ……」となったので、米津玄師を聞くことにする。ある程度色々な曲を聞いてはいたけれど、アルバム単位で聞いたことないなあ、と思ったので『YANKEE』というアルバムを聴くことにした。これを聞くまでルノアールに居ようと決める。

ふと目の前を見ると、外国人と太っちょ日本人が喋っている。どっちもちょっとカッコつけている。足元を見ると外国人は靴を脱いで足を組んでいる。なんてむかつく野郎だ、と思って顔を上げたら、外国人が手を使ってグワングワンと大きな波をジェスチャーで表していた。何かが上下しているんだな、株かな、と考えながら、また本を読む。

ウインナーコーヒーにたくさんミルクとか入れてしまって、変な味になる。まだおこちゃまだから加減が分からない。最後は我慢して飲んでいた。

ルノアールって最後に暖かい渋いお茶が出てくるの知ってました?凄いサービスですね。単価が高いだけあるなあ、と思いました。店員さんも、「すいません」とか言わなくてもじっと見ていたら来るし。一度普通にぼうっと店員さんを見ていたら、足早に僕の席まで来て、慌てて本を読み始めた。

曲がドーナツホールになったので、お会計にすることにする。ふと近くの席を見たら、おじさんが色紙に美少女の絵を書いていた。その向かい席にいるおじさんはゲーム実況を見ていた。

だんだん暗くなってきたなあ、とか思いながら電車を待つ。すると視界の隅で小さい女の子が思いっきり奈落に向かって走り始める。思わず体が反応して止めようとするが、その前にお母さんが首根っこ掴んで止める。「超怖いじゃねえか」とか思って不安が止まらない。

友達が「ぼーっとしてたら電車とホームの間にすぽって、半分ぐらい体が入っちゃったんだよね」という話をこの前していたのを思い出して、その友達みたいになるんじゃないかと電車が来ても油断ならなかったが、何とか難を逃れた。

電車で久しぶりにTwitterをインストールして、色々な情報を掴んで、そのままアンインストールした。Twitterなんて嫌いだ。

段々本当にR1がいい大会になってきていた良い流れだなと思う。街裏ぴんく優勝おめでとう。最終ステージがあのメンバーになった時点で優勝は街裏ぴんくだよなあと思いました。吉住の顔が切なかったです。そりゃあ審査員はああやって入れる。来年は吉住だ!

そのまま帰路について家でこの日記を書いている。

若林が耳元で「俺だって怖いんだよ!常識が怖いんだよ!毎日さあ!夫ってこんな感じなのかなとかさあ!!!毎日勉強してんだよ馬鹿野郎!」と言っている。葛藤だ。

中野行って、美味しいラーメン食べて、AVコーナー見て、演劇見て、喫茶店で本読んで、米津玄師聴いて。まるで理想の一日じゃないか。凄い楽しかったぞ今日。

中野を歩いていたら、美味しくなさそうなドーナツ屋さんがあった。人がたくさん並んでいた。見た目は嫌いなんだけど、本当は美味しいのだろうか。

アメリカの警官はドーナツを不味そうに食べる。チーズバーガーも不味そうに食べるああいう顔で食べなきゃいけない決まりがあるんだろうか。

もしかしたら本当にドーナツもチーズバーガーもまずい可能性がある。

楽観主義でも悲観主義でもないけれど、今日は少なくとも理想の一日だったので、今日だけは楽観主義で居る。

ドーナツは綺麗な輪をしている。

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