光らない君の物語
これはフィクションです。
中学生のある日、プロレスラーの名前で呼ばれている同級生のKが椅子に座っているkをいきなり殴った。僕は反射的に大文字のほうのKを殴った。
小文字のk君はクラスでも一番背が低い。そのkをKはいきなり殴った。
どんな理由があろうともKは僕を殴ったりした事はない。
小文字のkが小さいから殴ったのは明白だった。
Kは顔を覆って僕の方を見ていた。
その後僕が教師から咎められる事は無かった。
Kの家へはたまに遊びに行く仲だった。彼の家は繁華街にもほど近い高級住宅街にあり、父親の系統は銀行や大企業のオーナーでプロ野球の球団を持っていたり、横綱のタニマチだったり。
Kは学級委員長であり、優等生だがそんなに頭が良いほうではなかった。成績も中くらい、他にも目立つところはないのに優等生ではあった。
ある日彼の家に遊びに行くと、母親がいた。お茶や菓子をいただいて話をしていた。僕が殴った前か後かは憶えていないが、いくら僕でも殴った後に行くような根性は無いから前だったのだろう。
Kの母親は色々な事をぺらぺら話す人だった。僕の素行をKから聞いていてバカな奴だと思って何でも話してくれたのだろう。昔は本当にいろんな人がいろんな事を話してくれた。バカのメリット 笑
Kの母親は真っ黒に灼けていた。派手な服でこれはハワイでゴルフをした時に買ったもので、あれはどこでなんて事も話していた。みるからにゴルフ灼けで、でかい茶色いサングラスは芸能人のように派手だった。
Kには3つくらい下の可愛い弟がいた。母親はこの子は寿司屋になるんだと言った。理由はあまり頭が良くないからだそうだ。そしてKは医者にするんだと言った。僕は意味が分からなかった。頭が良くないから寿司屋と言うのだったらKも寿司屋にしたほうが良いのではないかと思ったから。
へんな親だなと思った。自分の事は棚に上げて寿司が好きだの寿司屋が儲かるとかそんな話しばかりしていた。彼女の兄弟は大臣経験者だった。世の中にはいろんな人がいる事が分かって勉強になった。それにしても彼女自身は何者だったのだろうか。
そんな事でKはその後実際に医学部を目指したようだ。後年僕が就職をした頃に駅でばったり出会い、立ち話をしたら体を壊していたらしい。それでT大学の医学部に行くだとか行っているとか言っていた。あまりよく憶えていない。どうでもいい話しだったからだろう。本当に記憶が無い。T大学と言えばスポーツでは名門だが、医学部では最低ランクだったと思う。
こいつが医学部に入れるなら世の中の大半が医学部に入れる事になる。
でもT大ならたぶん金で入れるのだろうと思った。あとは金を積んでカンニングでもしてテストに合格すれば医者にはなれる。あの頃はザルだったからやろうと思えばできたし、実際に事件もあった。
その後彼の話しは全く聞こえて来ない。たまにPCR検査で儲けた医者がロールスロイスや豪邸を買った、なんて言うニュースを見ると彼かなと思って顔を見るが違う。たぶん医者になっていれば母親の目論見通りの金持ちになっているだろう。
医者になろうと言う人間が受験で体を壊していたなんて洒落にもならない。
学級委員長をして優等生だったのも受験用だったと考えれば納得できる。医者になったら立派な事を言うのだろうけど、本当の理由は母親の贅沢志向から。彼は幸せになっているのだろうか。少し知りたいと思ったけど、知らないほうが良いような気もする。
寿司屋を押し付けられた、可愛い弟君には幸せになっていて欲しい。