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ネパールの子どもたちの失われた学びを取り戻すために私たちが出来ること

こんにちは、理事の畠山です。新型コロナによって発生した学びの損失を取り戻すための2年計画を実施しますので、今日はそれを紹介させて下さい。

1.新型コロナによる学びの損失とは?

新型コロナの流行により、世界中で学校が休校となりました。多くの先進国では学校が休校になっても、オンライン授業に移行するなどの手段が取られて、ある程度は子供達が学習を続けることができました。しかし、多くの低中所得国では、そもそもオンライン授業を実施するだけのICT環境が整っていない事もあり、特に公立学校や低コスト型の私立学校に通う子供達にとっては休校=学びの中断となってしまいました。

ネパールもその例外ではありません。ネパールは、新型コロナが大流行したインドに隣接している事から、新型コロナの教育セクターへの影響が色濃く出た国の一つとなってしまいました。2020年に約半年間の完全休校を経てから、部分的に学校が再開される期間が半年間続きました。しかし、その後また休校となりましたが、部分再開され、そして完全に学校が再開されたと思いきや、再び休校となり、また再開されるという大混乱を子供達は経験し、合計40週以上も学校は閉まっていました。
(ネパールに詳しい人であれば、普段からお祭りやストライキ(バンダ)でしばしば学校閉まってるじゃん!、と突っ込みたくなりたくなるかもしれませんが、それでもやはり2年で40週も閉まる事は無いと思います…多分…)

一体学びの損失の大きさがどの程度のものなのか、怪しい推計は沢山ありますが、パッと見た感じでネパールに関するものである程度信頼できそうなものと(リンク)、ハヌシェク&ボスマンという教育経済学で超おなじみのコンビが編み出した手法(リンク)とサカロポロスという国際教育協力と教育経済学の交差点を世銀に生み出した人のグループが編み出した手法(リンク)を組み合わせるという、これ合ってるのか?とやってみて自分でも思った計算をしてみると、ネパールでは子供達に2学年分の学びの遅れが出ていて、生涯賃金が15%ぐらい下がるだろうという感じになっています。即ち、新型コロナで学校が開いたり閉まったりバタバタしていた間、子供達は何も学んでいなかった可能性があるという事です。…なんかやっぱり計算結果は合っている気がしてきました。。。

ちなみにですが、日本では学年ビリが難関大学に合格!というストーリーに人気が集まるようなので、2学年程度の学びの遅れなんて簡単に取り戻せるよ!と思われる方もいるかもしれません。しかし、先ほどの怪しい計算結果を、Center for Global Developmentという国際協力の超大型シンクタンクのまとめ(リンク)と照らし合わせてみると、この学びの遅れを取り戻せるのは、学力向上効果が上位10%に入るような、会心&高額なプロジェクトでもちょっと届かない程です。

先ほど、生涯賃金が15%ほどダウンする恐れがあると言いましたが、要するに子供達が学んでいないという事は、知識やスキルをそれだけ身に付けられていないわけで、大人になった時に得られる賃金が低くなり、貧困から脱出しづらくなるということです。また、たちの悪い事に、新型コロナによる学びの損失は、日本でもそのようなデータが出てきましたが、基本的にはオンライン授業を満足に受けられない・学習教材や塾で学びの補填が出来ない貧困層に集中してしまっていて、将来的に格差問題も悪化することも考えられます。

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2.新型コロナ禍でサルタックは何をしてきたか?

新型コロナ禍で、子供達が殆ど学べなかった中でも、サルタックは何もしてこなかったわけではありません、ただ、規模が小さすぎて焼け石に水になってしまった感は否めませんが…。

第一に、政府と協働して低学年向けの学習教材を作成しました。そしてこれをSarthak Self Learning InitiativeとしてFB上で公開しました。ただ、5300以上の「イイね!」を集めたこのイニシアティブも、結局のところネットでわざわざこれをダウンロードして使うのは、基本的には富裕層だろうということで効果は限定的だったのかなと思います。

(話は横道にそれますが、日本には1万人を超える就学年齢のネパール人の子供達がいるので、我々の教材がその子供達にも役立つのではないか?と思ったのですが、どうも日本にいるネパール人の子供達は、日本語or英語で基本的に学んでいるので、ネパール語の教材はそれほど需要が無いということを学びました。この点について相談に乗って頂いた上智大学の田中先生が、この点にも触れた面白そうな本を執筆されたので、日本に行ったら買ってみようと思っています。)

第二に、バグマティ農村地区と協働して、幼児教育から小学校3年生までの1680人に学習教材の配布を行いました。詳細は別の記事(リンク)をぜひ読んで頂きたいのですが、ある程度学習教材の配布は効果的であったものの、サルタックの現在のキャパシティでは持続的に農村部でプロジェクトを展開するのは難しいという教訓を得ました。農村部の学びの貧困へのアプローチは、皆様からのさらなるご支援を得てからにしたいと思います。

3. 新型コロナによる学びの損失に対して、サルタックはどのように立ち向かうのか?

実は、新型コロナによる学びの損失対策で脚光を浴びているのは日本です。世界銀行がまとめた新型コロナによる学び損失に関する報告書でも、グッドプラクティスとして、日本の奈良市の事例が触れられています。奈良市でも休校で子供達の学力が落ちたものの、①休校中でも先生がオンラインで授業を実施した、②自主学習を推進した、③宿題&添削を実施した、④夏休みを削減した、ことにより学びの損失を回復しました。ぜひJICAさんには、これを大々的に国際教育協力で売り込んで頂きたいものですが、①はネパールのインフラ的に厳しい&既に休校は終了していますし、④は流石に(弱小)NGOがどうのこうのできることではありません。となると、②と③は実施の余地があるのかなと思います。

実際にアメリカでも、バイデン政権は新型コロナ対策としてAmerican Rescue Planを実施しましたが、その教育部分の資金の使い道として教育省は、上記の②と③に近い活動であるTutoringを、エビデンスが実際にあるとして薦めています。その教育省の文章をより詳細に読むと、子供達の学びがどこでどの程度遅れているのか把握して、個々人の進度に応じて個別ないしは小集団指導を行うと良いよと勧めています。

上記の②と③及びTutoringをどう実施するかよくよく考えてみると、・・・これって日本の個別指導塾じゃん!ということで、サルタックもこれまで実施してきた学習センターを改良して、コミュニティーベースの安価な、個別指導塾っぽいものを実施してみる事にしました。具体的な活動は以下の通りです。

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まず、学習センターの数を8校まで増やし、各校では20人程度の子供達の支援を行います。これまで同様に、地域からボランティア(ネパール語でサティ、ジャスコの一部であったサティとは特に関係ないはずです)を募集して、書類と面接で審査をして、それに通過したサティに対して研修を実施します。従来と違うのは、研修の対象人数が多いのと、サティが増加するので離職者が出ることが見込まれるので、年度ごとに集団研修を実施することにしました。

学習センターは、これも従来通り公立学校の校舎を放課後に使用させてもらい、対象となる子供はそこの公立学校に通う幼児教育+低学年の子供達となります。

まず、公立学校を対象とする点ですが、ネパールは教育の民営化が進んでいる国の一つで、ユネスコのPriyadarshani Joshiさんが色々と研究を出しているので、興味がある人はググってぜひ彼女の論文を読んでみて下さい、需要があれば、解説ウェビナーもしてみます。このため、最新の家計調査を分析してみると上位20%の豊かな子供の7割以上は私立学校に通う一方で、下位20%の貧しい子供の7割以上は公立学校に通っています。もちろん、民間が参入できる教育市場は基本的に農村では成り立ちづらいので、都会だけ見ればかなりくっきりと公立学校は貧しい子供、私立学校は中間ー豊かな子供と分断がされています。このため、都心部で公立学校に焦点を当てることは即ち貧困対策となるわけです。

次に幼児教育&低学年に焦点を当てる理由ですが、日本でも散々ノーベル経済学者のヘックマンが幼児教育・・・というのが言われていますが、近年の議論はDynamic Complementarityの方にシフトしていて、幼児教育への資金を増やすと初等教育以降の効果が高くなるし、初等教育への資金を増やすことで幼児教育の効果を活かすことが出来ると言われています。逆に言えば、幼児教育だけではダメだし、初等教育だけでもダメということです。なので、幼児教育・小学校低学年のどちらもカバーしていく事にしました。

そして学習センターでは、まず保護者とミーティングを行い、保護者からの支援を取り付けられるようにします。そして子供達にはカリキュラム理解度のテストを受けてもらって、カリキュラムのどこまでは学習できていて、どこからはできていないのかをチェックします。そして、子供達の学習理解度に応じてSarthak Self Learning Initiativeで作成した教材をやってもらって、サティ達にフィードバックを与えてもらう、tutoringを実施していきます。

ただ、不安もあって、確かに先進国ではtutoringは効果があると分かっているのですが、それって低中所得国でも当てはまるのかな?という点です。アメリカで出版された効果的なtutoringガイドをよく読んでみると、特に①良い学習教材があるか、②良いチューターがいるか、の2点が低中所得国で大丈夫かな?という課題となります。サルタックとしては、①にはSarthak Self Learning Initiativeで作成した教材、②にはサルタックスタッフによる研修と、日ごろからのモニタリング、で対処する予定です。ただ、これが本当に上手く行けば面白いので、研究資金が取れたらランダム化をやってエビデンスを取ってみたいと思います(もし研究資金があるよという研究者・資金提供者の方がいましたら、ご一報よろしくお願いします!)

学習センターの運営は、7月から2月までを予定しています(年度末試験と新年度のドタバタを避けつつ、新たなサティの雇用・研修を実施するためにこうなりました)。学習センター実施期間中は、サティ達には学習センターでの個別指導だけでなく、毎月子供達の家庭訪問をしてもらう予定です。そして、2名のサルタック職員は毎週サティ達と1週間の振り返りと計画策定のためのミーティングを実施します。さらに、職員達は定期的に学習センターを巡回して、改善点が見つかればサティ達と一緒にそれに取り組みます。

年度の終わりには、最初に実施したテストを再び実施して、子供達の学習理解度がどの程度進んだのかをチェックします。このようなプレーポスト比較は、勿論プロジェクトが効果的であったか否かの因果関係を導き出せるものではありません。しかし、予算の関係でランダム化などを実施する事はできないので、質的調査法による分析を行って、来年度への改善点を洗い出そうと思います。

もちろんですが、感染症対策には気を配って、必要な対策はその都度取っていきます。

4. プロジェクト予算(概算)

まずは、2年間学習センターを運営してみます。2年間の活動費の詳細は以下の通りとなっています。

テストの実施コスト(4回)ー10万円

サティ達への最初の研修(3週間)とフォローアップ研修ー120万円

学習センター運営(場所代・水道光熱費・サティへの謝金など)ー165万円

モニタリングコスト(含む社会福祉局の監査費用)ー15万円

2年間合計ー310万円

・・・となっていますが、サルタックの現状としては、上に計上していない2名の現地スタッフの給与の支払いでいっぱいいっぱいです。もし、継続的に支援してもいいよ、ないしは寄付してあげるよという方がいらっしゃいましたら、こちらのページからどうぞよろしくお願いいたします。(畠山)

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