アメリカで国際比較教育学のアカポスに応募してみた敗戦記
こんにちは、理事の畠山です。卒業まであとちょうど半年になりましたが、未だに就活が迷走しています。というのも、いつかネパールで働いてみたいのと、40過ぎたらパワーリフティングで活躍したい(食事編・筋トレ編)以外に、特にこれといってやりたい事がないんですよね(日本の教育政策に関わってみたいとか、岐阜県知事になりたいとか、ケープタウンに住みたいとか、アングロサクソンチックなaccountabilityに基づいた国際教育協力ではなく日本やフィンランドの様に信頼ベースのプロフェッショナルな国際教育協力を実現したいとか、障害者の目線から教育の民営化政策を見直させたいとか、親の安心満足のためではなく子供の健全な発達のための幼児教育政策を実現させたいとか、やりたい事が完全に無い訳ではないですが)。昔持っていた文科大臣になって、教育関係の国際機関のトップを目指すという目標が消えて以来ずっとそんな感じなので、就職活動も特定の志望業界が無いので大迷走してしまっているわけです。
このため、国際機関を中心に、財団、INGO、アカデミアと、非紛争地の途上国の教育をやれるポストには全部応募しているのですが、紛争地が非常に多くなってしまっている・BLM運動で国際比較教育から人種問題を扱う教育へ大移動が起こっている・新型コロナでそもそも国際教育が虫の息、とそういったポストが消滅してしまって、数年前に卒業した先輩が応募したポストの数と比較しても私がこれまでに応募した数は1/3以下ぐらいに留まってしまっています。
というわけで、特に深い考えも無く、仕事が無いから応募するかという事でアメリカのアカポスにも手を伸ばしています。しかし、アメリカの教育学部で途上国の教育分野でアカポスを取るのは、国際機関・財団・INGOと全然違って、相当に早い段階から準備を進めなければならず、何となく応募してみるかーという私の舐め腐ったスタンスでは全く歯が立ちませんでした。
うちにインターンに来る子は博士課程まで行ってしまう子もチラホラいるので、参考になるようにアメリカの教育学部でアカポスを目指すプロセスについて、私の敗因を書き残しておきたいと思います。
①教育学部と経済学部の就職活動は全く違う
私も何度か、海外Ph.D.は日本の教育学部のアカポスで全く評価されないから気をつけるように、というありがたいようなありがたくないような忠告をもらいました(中には私が内心マジギレしたものもあるので、興味がある方は帰国した際に飲みの席で聞いて下さい)。しかし、経済学部はむしろ逆で、論文をちゃんと書いていることが条件にはなりますが、諸条件が一定であれば海外Ph.D.が評価されて、国内のアカポスも教育学部とは全く比べ物にならないレベルで取りやすい印象があります。
このため、教育学部に比べて経済学部は海外Ph.D.に挑戦する人が多く、自然とアメリカに残る人も出てくるので、ネットを何となく検索していると、アメリカでの経済学部のアカポス取得の情報に行きつきますし、事実私も就活を始めるまで教育学部もそのようなものだと思い込んでいました。
経済学部チックな米国アカポス就活事情は色々なサイトが解説してくれているので今更私が言及するまでもありませんが、かなりシステマティックなものになっています。例えば、博論の最も強い部分がJob Market Paperになって、年明けのアメリカ経済学会の最中に面接が行われて、それから実際に大学に行ってあれやこれやするフライアウトが行われて、その後にポスドクが出始めるというのが、標準化されている感じです。
教育学部は、システマティックの「シ」の字もありませんでした。Job Market Paperに当たるWriting Sampleの提出を求められる所もあれば求められない所もあるし、求められた場合でもフォーマットがバラバラで、実にめんどくさかったです。また、ポストが出る時期もバラバラで、学会で面接が行われるなんてこともありません。私も詳しくは分かりませんが、多分日本の教育学部のアカポスの就活とほぼ同じなのかなと思います。
②ポストがある分野の研究をする
アカポスにも流行り廃りがあるので、自分の研究でアカポスがちゃんと出ているのか確認しておいた方が良いでしょう。
アメリカの教育学部のアカポスは、日本人からすると某週刊誌と略称が同じなので紛らわしい事この上ないのですが、American Education Research Associationという全米最大の教育学会のジョブページに殆ど掲載されるので、これを見ておけばよいでしょう(リンク)。
BLM運動の影響を受けて、Education LeadershipやEducation PolicyのTenure-Trackのポストでも、人種問題を扱うものは数えられないぐらい出ましたが、新型コロナの影響で国境を容易に超えられなくなったので、私の先生がそれでポストを得たような国際比較かつメソッドに強いでもOKなポストは文字通り一つも出ませんでした。去年の9月からここまでに出た国際比較教育のTenure-track positionの数も、ジョージワシントンとフロリダ州立大学の2件だけで、ポスドクに至っては1件だけです。今年、ミシガン州立大学で国際比較教育分野で博士号を取る予定の人だけでも私を入れて3人もいて、他に一体どれだけの数の大学があるのか考えると、需要と供給が完全に崩壊しています。
やはりポストがある分野で研究をするというのは大事なので、2年生ぐらいになった時には1年ほどAERAの就活サイトを追って、どのような分野で求人が出ているのか確認して、博論のプロポーザルやcomprehensive examの中身をどうするべきか考えられると良いのかなと思いました。いやいや、私はやりたい事があるんだという人もいると思いますが、そんなのはテニュアを取ってからやれば良いので、ぐぬぬぬぬと言いながら博士の間は全体の流れに迎合するのが良いと思います。もちろん、私の様にプロポーザルディフェンス直前で新型コロナとBLM運動という、準備した所でどうしようもない致命傷を喰らうイベントが発生する可能性もありますが。
③グリーンカードは申請しておこう
これは恐らく①の点と関連するのかなと思いますが、これだけ国際比較教育のTenure-trackポストが出ないと、分野がかすっている程度のポスドクも考える必要があります。
私が根本的に勘違いをしていたのですが、アメリカの大学は研究職に対して無制限でビザサポートが出来るわけではないようです(①の経済学部の話を聞いていて、そう勘違いしていました)。教育学部で出てくるポスドクの多くは下記の写真の様(バージニア大の幼児教育のポスト)に、ビザサポートをしませんと明記してあります。より厳密に言うと、私の興味関心とかするなと思って詳細を見に行ったポスドクのポストでビザサポートをしますと明記してあるものはこれまで一つもありません。理系や経済学など他分野を見ていると、結構簡単にビザが出ている感じなので、あれどうなっているんだ?と不思議に思っています。。。
少し関連した話もしておくと、国際教育協力はそもそも外交案件なので、資金やプロジェクトによっては、セキュリティクリアランスを通る必要があり、グリーンカードでは不十分で市民権を持っていないと関われないものが存在しています。それを考えても、博士課程の内からグリーンカードに応募し続けて、早めに市民権も取れるように頑張った方が良いのかなとは思います。
この点について、私がただの間抜けではないアピールをしておくと、国際機関に戻る方に圧倒的に重点があった私からすると、グリーンカードの申請はコストが大きいものでした。私も詳しく調べたわけではないのであれですが、聞いた話によると、グリーンカードを取ると国連本部や世銀本部で働いた時に免税ではなくなるんですよね。元々、国際機関の給与は学歴やスキルに比してかなり割安なのですが、内部のよく分からないシステムで「税金」的な形で給与が引かれている上に、そこにさらにアメリカの税が乗ると、さすがになんぼなんでも・・・という給与水準に落ちます。さらに、国際機関のポストに応募する際に、グリーンカードに申請しているという情報は明記しないといけないので、それをどう取られるのかが分からななかったのもあって、結局私はグリーンカードを申請しませんでした。私はアカポスよりは実務の方が良いので、この選択に後悔はありませんが、ただ、この選択がポスドクの可能性を消滅させるとは就活を始めるまでは思ってもいなかったので、興味がある人は注意してください。
④推薦状を書いてくれる先生と繋がれる所へ進学する
これも実際にアカポスに応募してみるまで気が付きませんでしたが、ポスドクにせよテニュアトラックにせよ、基本的には面接まで呼ばれた段階で推薦状3本要求される事になりますし、応募の段階で推薦状を3本要求してくる所もあります。
逆に言えば、推薦状を書いてくれる先生3人と繋がれない所に進学すると死にます。ぜひグーグルマップを見てもらいたいのですが、大都市には複数の大学が存在し、例えばニューヨークなんかではNYUとコロンビア大学は密接な関係があるので、両校の分野が同じ先生と繋がる機会があります。これに対して、ランシングを見ると、近所の大学でも100キロ以上離れていて、他大の先生と繋がれる機会はほぼゼロです。
さらに、私がいるミシガン州立大学の教育政策課程の教員を見てもらうと、国際的な事をやっている先生は私の先生ただ一人となっています。では問題です、この状況で推薦状を3本集めるためにはどうすればよいでしょうか?・・・答えが分かった人はぜひ私にアドバイスください苦笑。
これを知らなかった私は、指導教員に頼りっきりで、他の先生との関係を築いていませんでした。博士論文の審査委員会も、指導教員・途上国の幼児教育の質的研究をやっている教師教育研究科の先生①・アメリカの障害児教育も教育経済学的にやっている教育政策研究科の先生②・アメリカの障害児教育を研究しているリハビリ科の先生③という構成でした。この構成だと、教育政策・教育経済学でアカポスを探しても、指導教員と②の先生で3人目の推薦状執筆者が見つかりませんし、国際比較教育でアカポスを探しても、指導教員と①の先生で3人目の推薦状執筆者が見つかりません、詰みました苦笑。
2本目と3本目の強い推薦状を書いてくれる、分野的にも一致していてある程度名が知れた先生と繋がれない所で博士課程をやるものではないと今なら思います。もし国際教育協力でアメリカで先生になろうという人がいたら、この点は意識して進学先を考えてみて下さい。
⑤教育経験が積める所へ進学する
アメリカの教育学部でアカポスを探すと、推薦状に加えて要求されるのがTeaching Statementです。これは、これまでの教育実績と、どのような授業が担当できるか、どのようにして教えるか、というのを記す書類です。
これもミシガン州立大学の教育政策博士課程でググってもらうと分かるのですが、うちは博士課程が独立していて、下に学部や修士課程が存在していない大学院です。研究者としてうちにくると、teachingの負担が軽いので楽園のような場所ですが、博士課程の学生としてくるとteaching assistantの経験を積む機会がほぼ無い地獄のような所になります。
これが詰み得る要素だというのも就活をするまで知らなかったので、ずーっとresearch assistantをしてstipendを貰っていました。なので私にはteaching assistantの経験がありません(日本の大学で毎年何回かはゲストレクチャーとして教育経済学や、国際比較教育、国際機関の授業をして、謝金をサルタックに寄付してもらっていますが、この程度では不十分っぽいです。もし、私にこれらの授業を担当して欲しく、謝金は寄付しても良いよという先生がいらっしゃったら、ぜひご連絡ください)。もちろん、周囲100キロに大学も無いので、他大の非常勤講師の経験も積みようがありません。
教育経験が積めないから詰んだわけですが、やはり教育は大学の重要な収入源で、特にリベラルアーツカレッジなんかでは教育経験は研究よりも圧倒的に重視されるので、博士課程を選ぶときには、①自分がどのような科目の授業を教えたいのか、②その科目をteaching assistantや、可能であればvisiting lectureやvisiting assistant professorないしはclinical assistant professorとして教えられる環境が当該の大学院、ないしは近隣の高等教育機関であるのか、③そのteachingの経験に対して、teaching statementに上手く記述できるようなフィードバックをくれる先生がいるか、という3点は意識した方が良いのかなと思います。
⑥研究を3*2のマトリックスで考える
3本の推薦状、teaching statementと並んで求められるのが、research statementです。実は、teaching heavyっぽそうな所ではこれがそもそも求められない所もあるので、他分野の人から見ると信じられないかもしれませんが、teaching statementの方がresearch statementの準備よりも重要なのかもしれません。
わざわざ博士課程に来るぐらいですから、博士課程に進学する人の殆どはresearch statementは難なくこなせるかもしれません。しかし、やはり1年目から意識して気をつけられると良い点はあります。
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