たった一つのシンプルな数式から考える統一地方選挙

理事の畠山です、ゆるふわ日記のお時間です。15年間海外をほっつき歩いていたので、今回の統一地方選挙が久しぶりに選挙活動を眺める機会となっていて、なかなかに感慨深いものがあります。

それはさておき(さておくんかーい)、サルタックでは公開勉強会を始めました。今年はインスタ映えとかさっぱり分からないおっさんのサポートをしてもらうべく、インターンさんを募集したところ4名の国際教育協力に情熱を持ちつつ、おっさんよりもインスタ映えを理解している若い人が集まってくれました→サルタックのインスタアカウント

帰国したことだし、ちゃんとインターンさんにトレーニングをしようと思いつつ、そういえばサルタックも新型コロナ対応を調子に乗ってやったら金欠に陥っているので、ファンドレイジングもかねて公開勉強会をすることにしました。

教育統計・質的調査法・因果推論(インパクト評価のTORを書けるようになるために)はカバーするとして、STATAを使った家計調査(DHS・MICS)分析のハウツーをカバーすべきか否か悩んでいる所ではありますが、一言で表現すれば、私がどのように物事を考えているか頭の中を垣間見れる内容にもなっています(何かこんな事を教えてくれというリクエストがあればコメント欄に是非どうぞ)。

特に前回の内容は、私が政治家や政党をどのように評価しているのか、そのロジックが見えるものだったはずなので、窓の外が候補者の名前の連呼で煩いので(別に煩いからと言って、評価を上げたり下げたりはしませんが)、ちょっとそれを紹介してみようかなと思います。

なぜ私は教育政策で政治家や政党を評価するのか?

私がどのようにして政治家や政党を評価しているかと言うと、基本的には掲げている教育政策を見ています。これには二つ理由があります。まず、教育は誰しもが経験することなので、教育政策に対して誰もが一家言を持ちがちです。それ自体は悪いことだとは全く思いません。ただ、政治家や政党が自分の経験ベースに教育政策を語ったら、それは危険です。なぜなら、政治家に立候補するような人を平均すると、日本国民の平均よりは社会経済的に恵まれた家庭に育ってきているのかなと思います(i.e. 日本の大学進学率は5割ちょっとですが、立候補している人達の大卒割合はもう少し高い印象を受けます)。このため、政治家たちが自らの経験を基に教育政策を組み立て始めると、社会経済的に不利な背景を持つ子供達への配慮が十分に為されていないものが組みあがってしまう恐れがあります。なので、自分の経験ベースに教育政策を語っている候補者がいたら、この人は無いなと判断します。

もう一つの理由は、こちらは政治家側ではなく自分側の問題なのですが、やはり他の政策よりは教育政策の方が、自分が適切に評価を下せるという理由です。これは仮定になりますが、掲げている教育政策が無茶苦茶なのに他の政策ではまともになるというのは少し考えづらいので、自分の専門性を活かして教育政策だけ見ておけばいいかなと思っています。もちろん、教育政策はまともなのに、他はしっちゃかめっちゃかというのはあり得る話ですが。

あとは、教育政策に加えて外交(国際協力)・ジェンダー・障害政策もちょっと見る感じですね。

教育政策を評価するときに、もちろん細部も見ますが、細部を見る前に大枠として、掲げられている教育政策が矛盾していないか、前回の勉強会でも紹介した一つの超シンプルな数式をベースに判断しています。それを紹介してみようと思います。

政治家や政党を教育政策で評価するシンプルな数式

勉強会で教科書として指定しているGlobal Partnership for EducationのMethodological Guidelines for Education Sector Analysisにも記載されていて、前回の勉強会でカバーした、特定の教育段階に対して使えるリソースは以下の数式で表すことができます。

特定の教育段階に対する公的な資源=GDP×政府の大きさ×教育支出性向×教育支出に占める特定のセクターに対する支出の割合

これに私的な教育資源を足すと、総教育資源となります。なので、教育資源を増やすための要素には、①GDP、②政府の大きさ、③教育支出性向、④特性のセクターの割合、⑤私教育支出の5つが存在することになります。

簡単に説明していくと、①当然ですが、GDPを超える資源を教育に割くことはできません。GDPが多い国ほど、それだけ多くの資源を教育に使う余地があることになりますし、低所得国なんかでは、そもそも国が生み出せる富が少ないので、それに伴って教育に使える富も少なくなります。②GDPはザックリ言えば、投資と消費と政府の3つの合計値になります。そして、これも当然ですが、政府予算を超えるお金を公教育に使うことはできません。なので、この段階ではGDP×政府の大きさで規定される政府支出の額がMaxで公教育のために使える資源の大きさとなります。

③政府は、教育以外にも色々と支出しなければなりません。医療だったり、国防だったり、インフラ整備だったり、年金だったりと、色々あります。なので、政府支出額の中でどれだけが教育に割かれるかは、政府のチョイス次第になります。④公教育支出と一言で言っても、そこには幼児教育から小学校、大学院まで様々な教育段階が並んでいます(世界的な教育分類ISCEDに基づけば9段階)。公教育支出の中からどれだけがどの教育段階に割かれるかも政府のチョイス次第になります。

①-④のプロセスに加えて、⑤各家庭が教育段階ごとにいくらお金をかけるかが私教育支出となって、公教育支出と私教育支出を足し合わせたものが総教育支出になります。

これを踏まえると、教育へのリソースを増やして教育をより良いものにしようとする時に、基本的にレバーは5つしかないということになります。まず、ここを外れた議論をしている政治家や政党には投票しないことにしています。具体例としては、無限に教育のための財源が湧いてくるような議論をしている人達ですね、出馬する前に教育に使えるリソースを確保するための油田かダイヤモンド鉱山でも掘り当てといて欲しいものです。

経済成長って必要なの?

まず一つ目のレバーGDPについてです。ここは人それぞれの所はありますが、私の見解を述べると、経済成長をしなくても良いと考えている政党はかなり厳しいと思います。なぜなら、この後に出てくる教育に資源を注ぐためのレバーたちは、何かしらのトレードオフや制約に直面し、それらのレバー達を引いて教育資源を確保しに行くとなかなか激しい争いに巻き込まれるからです。これに対して、経済成長が起これば、その後のレバー達が何も変わらなくても教育に使える資源が増えます。なので経済成長は個人的には一番好きなレバーです。ただ勿論、環境への負荷などの問題もあるので、持続可能な範囲での経済成長を目指して、それにつられて教育資源も増える、というのが望ましいのかなとは思います。いずれにせよ、脱成長を掲げる政党や候補者は個人的にはあまり好きではありません。

小さい政府?大きい政府?

次に、2番目のレバー、政府規模です。ここからは具体的なパラメーターを以下の感じで入れてみましょう。

①GDP: 2.1兆ルピー
②政府規模:24.6%
③教育支出性向:16.1%
④就学前教育予算割合:3.6%
⑤私教育支出:960億ルピー
①×②=5230億ルピー・・・政府予算
政府予算×③=850億ルピー・・・公教育支出
③×④=約30億ルピー・・・政府による幼児教育支出
公教育支出+⑤(私教育支出)=1810億ルピー・・・総教育支出

そう、2015年ぐらいのネパールの値ですね。数字を見てこれに気が付いた人は、現在個人的に実施している東京近郊のダルバートを食い尽くしてやる企画に、ご褒美としてご招待してネパール料理をご馳走するので是非名乗り出て下さい。

さて、ここで候補者が大きな政府を目指したとして、政府規模をGDPの50%に増やしたとします。そうすると、政府予算が1兆ルピーを超えるのにつられて、公教育支出も1700億ルピー、政府による幼児教育支出も約60億ルピーとなります。まあ現実は、政府規模が拡大すればGDPにも何らかのインパクトが出るでしょうからこれほどシンプルではありませんが、ざっくりとした傾向を把握するには十分だと思います。

ですが、政府規模を大きくするという主張は、シンプルに言えば増税が伴うことになります。私の場合は生粋のEducation Plannerなので、自分が増税されてもどうぞどうぞという感じなのですが、一般的には増税には大きな抵抗が伴います、特に日本では。なので、一番目のレバーに比べると、ここに強めの制限が出てくるのが分かるかと思います。

2番目のレバーに関してまとめると、この政治家や政党はないわーと思うのは、小さな政府・減税を掲げつつ、教育を充実させると主張している所です。どこから教育資源を持ってくるんですかー?という。小さな政府で相応に教育も劣化させますよというのなら筋は通っているので、そちらの方がまだマシです。

予算分捕り戦争

3番目のレバー、教育支出性向に行きましょう。GDPも政府規模も変らず、政府支出が約5000億ルピーのままでも、教育省が財務省とバッチバチに闘って、他の省庁の予算を切り取って教育省に回すことが出来れば、公教育支出を増やすことが出来ます。例えば、財務省に加えて、農務省や保健省などをボッコボコにして教育支出性向を32%と倍増させられれば、公教育支出は1700億ルピー、政府による幼児教育支出も60億ルピーと倍増します。あ、ちなみに私が国際機関でやっていた仕事の一つがこれですね。

教育は大事だから、政府予算は教育に全つっぱでいいんじゃね?と思う人がいるかもしれませんが、流石の私でもそうは思いません。ネパールなんかだと、農村部で道路が無いと子供達が学校へアクセスできないですし、食料が無いとお腹が空いて勉強に集中できないですし、健康でないと勉強できないし、勉強したことが活かせる産業が育ってないと学ぶモチベが上がらないし・・・、やはりどれだけ教育が大事であったとしても、そのためにこそ政府は色々な分野に支出してもらう必要があります。かつ、当然ながら他分野の人達も自分達の縄張りを増やしたいと思っているので、教育支出性向を増やすためには、その人達をぶっ飛ばす必要があります。。

なので、教育支出性向を大幅に増やすというのは、教育にとっても良くないかもしれないですし、財務省や他省庁との血で血を洗う争いに勝たなければならないので、あまり個人的には好きな手段ではありません。特に、2番目のレバーとの絡みで言うと、減税を掲げつつ教育を充実させるというのは、この3番目のレバー勝負をしようと宣言しているようなものなので、私なら絶対に票を入れない政治家・政党になります。とは言え、ネパールは20%ぐらいまで教育支出性向を増やして良いと思いますが。

4番目のレバーは、基本的に3番目のレバーと同じですが、異なるのは対戦相手です。3番目のレバーは財務省という超強敵を相手にしないといけませんが、4番目のレバーに関しては、教育計画局を相手にすることになるので、3番目よりは楽な相手となります。ただ、身内での争いになるので、あまり気分の良いものにはなりません。

私の仕事はこの教育計画局の支援だったので、先ほど言及した財務省との決闘支援に加えて、データに基づいて教育計画局が各教育段階に対する資源割振りを決められるようにキャパビル、後は途上国独自の文脈にはなりますが、ドナーと交渉して教育支援を増やしてもらうように外交僧を務めることでした。まあ我ながら良い仕事をしていたと思います、忙し過ぎて二度も離婚することになりましたが、わが生涯に一片の悔いなし!!すまん、嘘ですわ。

まあそれはさておき、各教育段階への資源割振りは完全にトレードオフになります。なので、もし政治家や政党が、幼児教育支援を充実させます!と主張していた時、それに増税か他の省庁への予算カットが伴っていない場合は、どこかの教育段階への支出カットが必要になります。この点を考えずにただ幼児教育支援を充実させますと主張している候補がいたら、私はペテン師だなと思ってしまいます。

民営化バンザイ?

私の記事やtwitterをフォローしてくれている奇特な人がいたら、畠山って教育の民営化反対論者じゃねーの?と思うかもしれませんが、そうではありません。

仮に、ネパールの子供の人数が100万人いて、全ての子供が公立学校に通っていたとします。この場合、子供達は一人当たり、850億ルピー÷100万人=8.5万ルピーを政府から教育予算として受け取ることになります。これをユニットコストと言います。

政治家さんの中には、金持ちが東大に行くなんて貧しい人達に悪い、なんて言っていた人がいたようないなかったような気がしますが、まあこの言葉を額面通りに受け取らせて頂いて、豊かな20%の子供には政府補助が一切ない私立学校に行って頂くとしましょう。

そうすると、公立学校に通う子供の人数は80万人に減りますから、850億ルピー÷80万人=10.6万ルピーとなります。つまり、金持ちの子供を私立学校に追いやってしまえば、貧しい子供達のユニットコストは8.5万ルピーから10.6万ルピーへと上昇し、貧しい子供達により充実した公教育を届けることが出来るようになります。

まあ現実は、政府が富裕層の子供が通う学校に税金をかけるのではなくなぜか、マジでなぜか、重要なポイントなのでもう一度強調しますがなぜか逆に補助金を出していたり、私立学校に豊かな子供を追いやって浮いたお金をどっかに使ってしまったり、階層化が進んだり、ピア効果が減少したりと、こんな感じにはなりません。ただ、ざっくりとした傾向を把握するには上の数式は十分かなと思います。

つまり、上手く民営化を活用できる政治家や政党は、貧しい子供達のユニットコストを増価させ、より公平な教育システムを作り出すことが出来るのです。そんなの見たことないので、それを主張している政党・政治家がもしいたら、私なら1票投じますね。

まとめ

ここまでの話を簡単にまとめると、私は次のような政治家・政党を支持しますね:

①自分の経験ではなく、データや研究を見て教育政策を語れる人
②持続可能な範囲で経済成長を掲げる人
③マイルドに政府支出に占める教育支出の割合を増やそうとしてくれる人
④教育段階間の削りあいについては自分自身強い意見が無いので、女子教育の充実を掲げている人
⑤教育の民営化を上手く活用しようとしている人

そんな人見たことないんで、この中で幾つか満たしている人を応援したいなと思います。え、お前が立候補せいやって?確かに、教育を通じた貧困撲滅・格差の縮小に対する情熱と知識・経験は日本人では私に並ぶ人はいないと思いますが、私の外見&口の悪さで票を投じてくれる人なんて誰もいないでしょう苦笑?

勉強会に参加してみませんか?

勘が良い人は気が付いたかもしれませんが、そうです、これは統一地方選挙にかこつけて、ゆるふわに勉強会への参加を勧誘する記事でした、ゆるふわ日記だけにね。

こんな感じで教育セクターを分析してQuality Learning for Allを実現したいという人や、別に教育分野に興味関心は無いけど公共セクターを考える上で参考になりそうと思ってくれた人は、取りあえず今年はこちらのお試し中価格として参加料1回1000円とお手ごろな価格で実施していくので、ぜひ参加してみて下さい。多分、来年は値上げします。懇切丁寧に教えますし、疑問質問お茶は伊右衛門ドラえもんがあればメールで対応します。また、エクセルで実際に計算をしてみる宿題も出していますんで楽しいと思いますよ。

次回は日本時間の5月13日15時半からです。お申し込みはこちらからどうぞ→こちら。当日用事があって出られないという人には、資料と録画と宿題をお送りします。前回出てないけど大丈夫かな?という人は、まあ大丈夫っちゃっ大丈夫ですが、不安な人は上のリンクから過去回録画視聴&資料券を購入してコメントを残して頂ければ復習ができます。別に畠山に何か教わらなくても自学自習できるわーい、という方は教科書だけでもこちらからダウンロードして勉強してみて下さい、ちなみに俺もそう思います→Methodological Guidelines for Education Sector Analysis

それでは皆様、悔いのない統一地方選挙をお過ごしください。

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