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黄色い車、かわいい子。

僕はずっと思っていた。
スズキのlapinに乗ってる女の子は総じて可愛いって。
街角アンケートを取ったなら、そこそこの支持が得られと思っている。
この話には続きがある。

普段乗らない車を運転する時、僕は反対車線を走る車を失くし物を探すかのように目で追っている。そういう自分に気がついたのは最近のことだ。

彼女と別れたのも最近のこと。3ヶ月前のこと。ボクのカノジョだったヒトも、lapinに乗る女性だった、黄色くて、小さい車がよく似合っていた。

僕が初めて黄色いlapinに乗ったのは、まだ付き合う前。本を借りにバイト先まで歩いた日だった。僕たちは同じバイト先の後輩と先輩だった。僕がそのファミリーレストランでのバイトに募集したのは、大学1年の頃の僕が、その人に一目惚れしたからだ。
友達と山までチャリを走らせ喉カラカラの帰り、かき氷求めて深夜のファミレスへ向かった。そのファミレスにその人はいた。
ちょっとした月みたいな笑顔を添えて、冷房の温度を上げてくれた。クーラーでキンキンに冷えた店内を温めてくれた。

一目惚れしてから季節をいくつか素通りした春の終わり頃、その人に本を借りる約束を取り付けた。「21時にバイトが終わるから駐車場で待ってて。」。

夜であることをいいことに、僕は家を駆け出した。きっとその人は車で来るだろうと思っていたと思う。けど、打算的な僕は、20分かけてバイト先まで歩いた。

ファミレス特有の油臭さをまとったその人が、匂いを気にしながら助手席に乗せてくれた。受け取った本より、この小さな車に二人でいることが重要だった。後部座席にいたTEDのぬいぐるみを僕は抱いた。「家までの道教えて」というその人の頼み事を聞くか否か、内心迷った。このまま適当に道を教えて迷ってしまっても良いと思った。バイト先から家までたった5分。何もかも足りなかった。

何も足りなかったけれど、まだ本を返すタイミングでプライベートに会える。
本を返したら今度はCDを借りようとか、たまには僕も本を貸そうとか、そういうことを企てていたら夏になった。夏休み中のファミレスは烈火のごとく忙しかった、僕が大学2年の時の夏は、暑い夏だった。勢いが武器だった。

「ハンバーグ食べに行きませんか」と、デートに誘うことなどわけなかった。

40℃を超えた7月バカがつく夏日に、初めてデートした。地図の読めない僕たちは、慣れない東京をさまよった。新宿駅から歩いてすぐのゴールドラッシュまで辿り着くのに、1時間かかったのは、別れる直前まで、二人の会話に出てくる大切なエピソードだった。

そこからは早かったように思う、夏休みの間、毎週デートした。

僕の夏休みは9月の末まであったけれど、その人の夏休みは9月の頭までだった。

「早くしなきゃ」夏が通り過ぎる前に、言わなければならないことがあった。

9月7日のデートがもう終わるという時、地元のTimesに停めた黄色いlapinで、僕達…。

3年と少しが経った今、余所見もそこそこに季節を進んでいる。
黄色い車の後を追うのはもう嫌なのに。

寒い季節はもう少し続く、重ね着が必要なのは服に限らず、思い出もなのだ。

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