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SHIPS

この、時に軋むベッドさえ僕たちの舟だとした。

僕たちの生活の半分はこのベッドで、他のもう半分はキッチンのテーブル。
何でも起こり得るこの世界の水面を凪ように生活する僕たちは、「今日は職場で…」、「次の休みいつだっけ、」と話しながら、ビールを注ぎ、パスタを茹で、枝豆とお豆腐を口へ運ぶ。

慣れてきた2人暮らしとままならない各々の仕事と、
分かり合えなさと、解りたい欲求とを全て言葉の外側で、個人でやり過ごして生活している。
勘づかれないようにしていることに勘づいているけど、
勘づいていないふりをして。普通のふりをしている。
この舟はどこへ向かうのか、僕たちにもわからない。

寝る前は4日に一回くらい、相方の肩を揉む。
僕よりもずっと凝りやすい相方の肩。
不思議なくらいぐりぐりしているその肩を
僕は疲れ知らずのフリをしてほぐしていく。
僕がこの舟に乗っているための必要条件なんだ。
湿布を2枚左右の肩に逆ハの字に貼って寝る。

バカ話をする暇もなく眠りに入っていく相方を
後ろから少しだけ抱く。

僕の深い1呼吸と相方の寝息、それと、湿布の匂い。
起こしてしまうかもしれないから躊躇ったキスと今日の1日を手放して。

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